十三歳って、何して遊ぶんだ?
暇になった。
昨日はそれが少し嬉しかった。
朝からセラさんのところへ行く必要もない。ハンスさんに相談することもないし、ダリオさんの工房へ顔を出す用事もない。ミラの店だって、俺が行かなくても普通に回っている。
つまり今日は、完全に自由だ。
「…………で?」
朝飯を食べ終えてから、俺は自分の部屋でぼんやりしていた。
自由なのはいい。
問題は、何をすればいいのか分からないことだった。
前世なら簡単だ。家でだらだらして、適当に飯を食って、気が向いたら外へ出る。金があれば飲みに行くし、欲しいものがあれば買いに行く。
……ろくでもない休日だった気がしてきた。
しかも今は十三歳。
酒は飲めないし、そもそも飲みに行く店も知らない。買い物に行けば、たぶん余計なものを買う。
「遊ぶって、何するんだ?」
思えば、こっちに来てから商売のことばかり考えていた。
八歳の頃から石鹸を作って、カバンを作って、金を数えて、貯金して。最近は行商人の話を聞いたり、油の仕入れまで考えていた。
十三歳の生活ではない。
少なくとも、俺が前世で十三歳だった頃は、こんなことしてなかった。
「レイン?」
部屋の外から母さんの声がした。
「起きてる?」
「起きてるよ」
「静かだから寝てるのかと思った」
扉から顔を出した母さんが、俺を見て少し首を傾げる。
「何してるの?」
「何もしてない」
「あら」
「今日、やることないんだよね」
「いいじゃない。たまには」
「それはそうなんだけどさ」
暇になりたいと思っていたはずなのに、いざ暇になると落ち着かない。
自分でも面倒くさい性格だと思う。
◇ ◇ ◇
結局、家にいても仕方ないので外へ出た。
目的地はない。
とりあえず市場の方へ向かって歩いてみる。
いつもなら店の商品を見れば、値段を確認したり、何かに使えないか考えたりする。でも今日は何も買わない。新しい商売も探さない。
遊ぶ。
今日は遊ぶ日だ。
「……遊ぶって決めて遊ぶのも変だな」
市場はいつも通り賑わっていた。
野菜を並べる店、肉を焼く屋台、布や小物を売る露店。仕事で来るときと景色は同じなのに、目的がないだけで妙に広く見える。
焼いた肉の匂いがした。
見ない。
甘い焼き菓子が並んでいた。
見ない。
革紐を編んだ腕輪もあった。
これは別にいらない。
「……俺、偉くない?」
誰も褒めてくれないので、自分で褒めておいた。
そのまま歩いていると、少し先に何人かの子供が集まっているのが見えた。
俺と同じくらいの歳だろうか。
地面に線を引いて、小さな木の実のようなものを投げている。
「何してるんだろ」
少し離れたところから見てみる。
どうやら線の向こうにある印を狙って、木の実を投げているらしい。近いところに落としたやつが勝ちなのか、当てたら勝ちなのか、細かいルールまでは分からない。
ただ、楽しそうではある。
「おい、次お前な!」
「待てって! 今の無しだろ!」
「線越えてたじゃん!」
「越えてねえよ!」
騒いでいる。
普通だ。
ものすごく普通の十三歳っぽい。
俺はしばらく眺めてから、その場を離れた。
混ざればいい気もしたけど、知らない子供たちの輪に突然入っていく勇気はなかった。
精神年齢は大人でも、こういうのは普通に無理だ。
◇ ◇ ◇
市場を一周して家に戻ると、父さんが工房の前で木材を運んでいた。
「おう、レイン」
「ただいま」
「どこ行ってた?」
「散歩」
父さんの手が止まった。
「散歩?」
「何その反応」
「いや、お前が目的もなく歩いて帰ってくるの珍しいなと思って」
「俺だって散歩くらいするよ」
「何か買ったか?」
「何も」
「本当に?」
「本当に」
父さんが俺の両手を見る。
何も持っていない。
「……熱でもあるのか?」
「ないよ」
俺の信用はどうなってるんだ。
「暇なんだよ」
「暇?」
「やること全部なくなった」
「いいじゃねえか」
「母さんにも同じこと言われた」
父さんは木材を壁際に立てかけると、手についた木くずを払った。
「じゃあ、友達と遊んでくりゃいいだろ」
「友達」
「なんだよ」
そこで俺は気づいた。
ミラがいる。
ハンスさんがいる。
セラさん、ダリオさん、ベルク。知り合いなら結構増えた。
でも。
「俺と同い年くらいの友達って、いないかも」
「…………」
「何その顔」
「いや」
「やめて。なんか傷つく」
父さんが笑いを堪えながら俺の肩を叩いた。
「まあ、お前ずっと年上の連中とばっかり話してたからな」
「別に好きでそうなったわけじゃないけど」
「だったらちょうどいいじゃねえか」
「何が?」
「もうすぐ祭りだろ」
「祭り?」
初耳だった。
「知らなかったのか?」
「何の?」
「収穫祭だよ。毎年やってるだろ」
「……ああ」
言われてみれば、昔もそんな時期があった気がする。
ただ、ここ数年の俺は祭りより売上とか材料とか、そういうものばかり気にしていた。
「今年は広場の方にも店がかなり出るらしいぞ」
「店?」
「お前、今そこに反応しただろ」
「してない」
「した」
危ない。
祭りと聞いて最初に出店を想像した。
今日は商売のことを考えないと決めたばかりなのに。
「別に店出したいとか考えてないから」
「頼むから今年くらい普通に遊べ」
「分かってるよ」
「同じくらいの歳のやつも山ほど来るぞ」
父さんはそう言って、また木材を持ち上げた。
「たまには金を稼ぐんじゃなくて、使ってこい」
「それ、俺に言って大丈夫?」
父さんの動きが止まる。
「……ほどほどにな」
「急に不安になるなよ」
俺だってもう昔とは違う。
ちゃんと貯金もしているし、欲しいものを全部買うようなこともしない。
祭りで遊ぶくらいなら問題ない。
たぶん。
そう考えながら部屋へ戻り、財布を手に取る。
いくら持っていこう。
「…………」
少し考えて。
もう一度、財布を置いた。
祭りはまだ先だ。
今から持っていく金を考えている時点で、ちょっと危ない気がする。
でも、祭りか。
商売じゃなくて、ただ遊びに行く。
それはそれで、少し楽しみだった。




