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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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あと、4リル

翌朝。


「…………」


 目が覚めた。


 天井を見る。


「天秤……」


 まだ欲しかった。


 寝れば忘れると思ったのに。


 むしろ昨日より欲しくなっている気さえする。


「駄目だ」


 起き上がる。


 現在の貯金。


 8リル。


 目標。


 12リル。


 あと4リル。


 たった4リルだ。


 ここまで来たら、先に12リルを貯める。


 そうすれば父さんが12リル出してくれる。


 合計24リル。


 そこから油を買って。


 石鹸を作って。


 売る。


 利益を出す。


 そして。


「その利益で天秤を買えばいい」


 完璧だ。


 欲しい物を我慢するんじゃない。


 買う順番を変えるだけ。


「……これが大人の金の使い方だな」


 前世で三十年以上生きて。


 ようやく理解した。


 遅すぎる。


     ◇ ◇ ◇


 問題。


 あと4リルをどう稼ぐか。


 石鹸はもう残っていない。


 新しく作るには油が必要。


 油を買うには金が必要。


「またこれか」


 何度目だ、この問題。


 なら父さんの工房で働く。


 一回1リル。


 四回掃除すれば4リル。


 ……四日かかるのか?


「父さん」


「なんだ?」


「仕事ない?」


 朝食を終えたガルドが俺を見る。


「また掃除か?」


「できればもっと給料いいやつ」


「贅沢言うな」


「成果報酬で」


「どこでそんな言葉覚えたんだよ」


「…………」


 八歳児だった。


 最近、本当によく忘れる。


「何かない?」


「そうだな」


 ガルドが少し考える。


「木材を運ぶのは無理だろ」


「たぶん」


「削るのもまだ危ない」


「うん」


「店番は?」


「店あるの?」


「工房に客が来ることはある」


「それ給料出る?」


「出ない」


「じゃあ仕事じゃないじゃん」


「息子の手伝いだ」


「ブラック企業だ」


「ぶらっく?」


「なんでもない」


 使える仕事がない。


 八歳という身体が、ここに来て邪魔をする。


 もう少し大きければ。


 できることも増えるのに。


「じゃあ今日も掃除する」


「昨日やったから綺麗だぞ」


「…………」


 綺麗にしすぎた。


 まさか自分の仕事を自分でなくすとは。


「何か散らかして」


「馬鹿言うな」


 ですよね。


     ◇ ◇ ◇


 仕方なく市場へ向かった。


 金を稼ぐ方法を探す。


 ただし。


 天秤の露店には近づかない。


 絶対に。


 市場に入る。


 右を見る。


 野菜。


 左を見る。


 肉。


 少し先。


 天秤。


「…………」


 見えた。


 場所を覚えてしまっている。


「見ない」


 反対側を向いて歩く。


 今日は買えない。


 いや、買える。


 8リルあるから買える。


 だからこそ近づかない。


 前世の俺なら。


『見るだけ』


 そう言って店に入り。


『触るだけ』


 と言って商品を手に取り。


『話を聞くだけ』


 と言って店員と話し。


 気づけば会計していた。


「俺は学習してる」


 今日は見ない。


 触らない。


 聞かない。


 三ない運動だ。


「レイン!」


 聞き覚えのある声。


 ミラだ。


 パン屋の前で手を振っている。


「おはよう」


「ちょうどよかった。また石鹸ある?」


「え?」


 足が止まる。


「もうない」


「あら」


「欲しいの?」


「うちじゃないの」


「じゃあ誰?」


「昨日、お母さんが近所の人に話したみたいで」


「……何を?」


「石鹸のこと」


 俺は黙った。


 ミラが続ける。


「灰汁を用意しなくても洗濯できて便利だって」


「それで?」


「使ってみたいって人が二人いる」


「…………」


 二人。


「何個?」


「一個ずつでいいと思う」


 二個。


 一個3リルなら。


 6リル。


 売れれば目標達成。


 いや。


 問題は。


「物がない」


「作れないの?」


「材料買う金を貯めてるところ」


「変なの」


「俺もそう思う」


 売れる。


 客もいる。


 なのに商品がない。


 これが商売か。


「いつ作れる?」


「たぶん、もう少し」


「じゃあ作ったら持ってきて」


「分かった」


 予約。


 これは予約だ。


 まだ商品もないのに。


 二個売れることが決まった。


「…………」


 待てよ。


 商品がない。


 でも。


 買う人はいる。


 そして俺には8リルある。


「…………」


 頭の中で何かが繋がった。


「ミラ」


「なに?」


「その二人、本当に買う?」


「たぶん」


「3リルでも?」


「その値段は伝えてあるわよ」


「買うって?」


「うん」


 確定。


 6リルの売上。


 なら。


「油……買えるんじゃないか?」


 12リルの瓶は無理。


 でも。


 もっと少量なら?


 俺は市場へ走った。


     ◇ ◇ ◇


「少しだけ欲しい?」


 油を売っている店のおじさんが首を傾げた。


「うん。4リル分」


「何に使うんだ?」


「ちょっと作りたい物があって」


「料理じゃないのか?」


「違う」


「変な坊主だな」


 最近そればかり言われる。


 おじさんは小さな容器に油を分けてくれた。


「これで4リルだ」


 銅貨を渡す。


 8リルから。


 4リル。


 残り。


 4リル。


「…………」


 減った。


 半分になった。


 胸が痛い。


 でも。


 これは浪費じゃない。


 今度こそ本当に。


「仕入れだ」


 買ってくれる人がいる。


 そのための商品を作る。


 これ以上ないくらい正しい金の使い方だ。


 ……たぶん。


 いや。


 今回は本当に正しい。


     ◇ ◇ ◇


 家に帰る。


 すぐに石鹸作りを始めた。


 前回より慎重に。


 灰汁を用意して。


 油を使って。


 混ぜる。


 問題は。


「やっぱり天秤欲しいな……」


 量が正確に分からない。


 前回の感覚を思い出しながら作るしかない。


 これくらい。


 いや、もう少し。


「…………」


 料理で一番信用できない言葉。


 適量。


 今の俺は、それだけで石鹸を作っている。


 怖すぎる。


 それでも。


 前回の経験がある。


 一回目より。


 二回目。


 二回目より。


 三回目。


 少しずつ分かってきた。


「お」


 混ぜている液体にとろみが出る。


「これだ」


 前回と近い。


 木箱へ流し込む。


 あとは待つ。


 そして数日後。


「できた」


 前回より少し形も整った。


 泡立ちは相変わらず。


 匂いも相変わらず。


 でも。


 ちゃんと使える。


 二個分を切り分ける。


「よし」


 パン屋へ持っていった。


     ◇ ◇ ◇


「これね」


 ミラが二個の石鹸を見る。


「頼まれてたやつ」


「うん」


「じゃあ渡しておく」


「お金は?」


「もう預かってるわよ」


「え?」


 ミラが銅貨を出す。


 6リル。


 俺の手のひらに乗せる。


「…………」


 現在の所持金。


 10リル。


「あと2リル……」


「何が?」


「こっちの話」


 惜しい。


 あと2リル。


 目標の12リルまで。


 本当にあと少し。


「そういえば」


 ミラが言った。


「昨日の石鹸、もう一個欲しいって」


「誰が?」


「最初に頼んだ人の一人」


「もう?」


「娘さんにも使わせたいんだって」


「…………」


 また売れた。


 いや。


 まだ商品がない。


「予約でいい?」


「いいんじゃない?」


 一個。


 3リル。


 売れれば。


 13リル。


「……超える」


「何が?」


「なんでもない!」


 ついに。


 見えた。


     ◇ ◇ ◇


 さらに数日。


 残った材料で石鹸を一個作った。


 それをミラに渡し。


 3リルを受け取る。


 所持金。


 13リル。


「…………」


 俺は家に帰るまで。


 一度も市場の天秤を見なかった。


 見たら危ない。


 分かっている。


 家へ着く。


 仕事場にいるガルドのところへ向かう。


「父さん」


「ん?」


 革の小袋を開く。


 銅貨を並べた。


「13リル」


 ガルドが手を止める。


「貯めたのか?」


「うん」


「途中で使わなかった?」


「仕入れには使った」


「それはいい」


「パンは買ってない」


「そこは聞いてねえ」


 ガルドが笑う。


「約束は12リルだったな」


「うん」


 俺は銅貨を一枚だけ横へ避けた。


 12リル。


 ガルドが革袋を取り出す。


 そこから。


 同じく12リル。


 俺の前に置いた。


「約束だ」


「…………」


 24リル。


 目の前にある。


 前世の感覚なら。


 約2,400円。


 大した金額じゃない。


 でも今の俺には。


 初めて自分で作った商売のための資金だ。


「父さん」


「なんだ?」


「ありがとう」


「ちゃんと増やせよ」


「もちろん」


 12リル。


 俺が貯めた金。


 12リル。


 父さんが出してくれた金。


 そして別に残した。


 1リル。


 合計。


 25リル。


「…………」


 増えた。


 ようやく。


 ちゃんと増えた。


 100万リルまで。


 あと――。


「いや、数えるのやめよう」


 前回学んだ。


 今はいい。


 まずは25リル。


 これを元手に石鹸を増やす。


 そして売る。


 今度こそ。


 本格的に商売を始める。


「よし」


 俺は25リルを握りしめた。


 その瞬間。


 頭の中に。


 8リルの天秤が浮かんだ。


「…………」


 違う。


 25リルあるから。


 天秤を買っても17リル残る。


「…………」


 いやいやいや。


 そういうところだぞ、俺。

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