↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/264

紹介するだけじゃ、駄目なの?

翌朝、俺はハンスの店へ向かった。


 昨日のことを考えていたら、少し面白くなってきたのだ。


 外から来た商人が困っている。俺がリーネの職人を紹介する。仕事が決まれば職人は儲かるし、商人も助かる。そこで俺が少しだけ紹介料をもらう。


 作らない。


 運ばない。


 店もいらない。


「……かなりよくない?」


 ほとんど金がかからない。


 貯金を減らさずに稼げる。


 俺が求めていた商売に近い気がする。


 ただし、昨日の最後に決めた通り、勝手に始める前に一度ハンスに聞く。


「おはよう」


「おう」


「ちょっと相談がある」


「今日は買い物じゃないのか」


「最初から期待してないでしょ」


「まあな」


 信用がない。


     ◇ ◇ ◇


 俺は昨日のロムと父さんの話をした。


 木箱が壊れて困っていたロムを父さんの工房へ連れていったこと。父さんが修理して、ロムが喜んで金を払ったこと。そして、そのおかげで俺もカラムについて少し詳しく話を聞けたこと。


 ハンスは途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。


「それで思ったんだけど」


「紹介料を取ろうと思った」


「なんで分かったの?」


「お前が嬉しそうだからだ」


 そんなに顔に出ていたらしい。


「でも、いいと思わない?」


「悪くはない」


「でしょ?」


「話は最後まで聞け」


「はい」


 ハンスは少し笑ってから、帳場に肘をついた。


「人をつないで金を取る商売はある。珍しくもない」


「やっぱりあるんだ」


「商人同士をつなぐこともあるし、職人を紹介することもある。大きな取引なら、間に入る人間が必要になることもある」


「じゃあ俺もできる?」


「できるかもしれん」


 微妙な言い方だ。


「何が問題?」


「昨日のガルドの修理が失敗してたら、どうした?」


「父さんならちゃんと直すよ」


「そういう話じゃない」


 ハンスの声は穏やかだった。


「例えばだ。お前が知らない職人を商人に紹介した。その職人が雑な仕事をした。商人が『レインが腕のいい職人だと言ったから頼んだ』と言ってきたら?」


「……困る」


「逆もある。お前が知っている職人に客を紹介した。仕事が終わったのに、その客が金を払わず町を出たら?」


「もっと困る」


「だろ?」


 紹介する。


 それだけなら簡単だと思っていた。


 でも、その「紹介する」に信用が乗る。


     ◇ ◇ ◇


「じゃあ、紹介料取らなければ大丈夫?」


「そう単純でもない」


「まだあるの?」


「金を取らなくても、お前が『この人なら大丈夫』と言えば、それを信じる人はいる」


「……ああ」


「もちろん全部の責任がお前にあるわけじゃない。最終的に仕事を受けるか、頼むかは本人たちが決めることだ。ただ、お前の名前で人をつなぐなら、何かあったときに信用を失う可能性はある」


 それは嫌だ。


 五年かけて少しずつ作ったものだ。


 金なら、減ってもまた稼げる。


 信用はどうなんだろう。


 失ったことがないから分からない。


 いや、失わない方がいい。


「じゃあ昨日のは?」


「あれはいいんじゃないか?」


「いいの?」


「ガルドならお前も仕事を知ってるだろ。それに『直せる』と勝手に約束せず、本人に見てもらったんだろ?」


「うん」


「ロムも値段と仕事の内容を聞いて、自分で頼んだ。お前は二人を会わせただけだ」


 なるほど。


 そこには結構大きな違いがあるらしい。


「じゃあ、俺が『絶対大丈夫』とか言わなければいい?」


「それも大事だな」


「あと知らない人を適当に紹介しない」


「そうだ」


「勝手に値段を決めない」


「そう」


「仕事できるか本人に確認する」


「そうだな」


 少し見えてきた。


     ◇ ◇ ◇


「でもさ」


 俺は帳場の横に置かれた椅子へ座った。


「ハンスさん、俺にセラさんとかダリオさん紹介してくれたじゃん」


「そうだな」


「あれも同じ?」


「似たようなもんだ」


「怖くなかった?」


「お前を紹介した方が怖かったぞ」


「そっち?」


「当たり前だろ」


 ハンスが笑う。


「セラには八歳の子供を連れていったんだぞ。しかも、灰と油で何か作りたいと言ってる変な子供だ」


「今聞くとひどいな」


「ダリオのときもそうだ。妙な鞄を作りたいと言い出した」


「結果的には売れたじゃん」


「結果はな」


 そう言われると何も言えない。


 ハンスは俺が思っていた以上に、いろいろ付き合ってくれていたらしい。


「じゃあ、なんで紹介してくれたの?」


「面白そうだったから」


「それだけ?」


「半分はな」


「残りは?」


「お前が、できないことをできると言わなかったからだ」


 一瞬、意味が分からなかった。


「石鹸のときも、作り方を全部知ってるとは言わなかった。鞄も、自分で作れるとは言わなかっただろ」


「まあ、できないからね」


「それでいいんだよ」


 ハンスが肩をすくめる。


「できないなら、できるやつに聞く。分からないなら、分かるやつに聞く。商売じゃ、その方が長生きする」


「俺、結構いいことしてたんだ」


「そこで自分を褒め始めるな」


 ちょっとくらいいいじゃん。


     ◇ ◇ ◇


 話している途中で、一人の客が店へ入ってきた。


 近所に住む女性だった。


「ハンスさん、この前頼んだ金具って入ってる?」


「ああ。昨日届いた」


「よかった。職人さんにも伝えておいてくれた?」


「伝えてある。明日の午後なら見に来られるそうだ」


「助かるわ」


 女性は代金を払い、金具を受け取って帰っていった。


 俺はそのやり取りをじっと見る。


「今のも紹介?」


「少し違うな。あの人は家の扉を直したい。俺は金具を売ったついでに、それを取り付けられる職人に話を通した」


「ハンスさん、お金もらうの?」


「職人からは取らん。金具が売れてるからな」


「ああ」


 一個の仕事から、全部で儲ける必要はない。


 商品が売れる。


 客が喜ぶ。


 職人にも仕事が入る。


 それで十分な場合もある。


「紹介したら絶対紹介料、じゃないんだ」


「取る場合もあるぞ。でも、何でも金に変えようとすると人が寄ってこなくなる」


「……耳が痛い」


「お前に言ったんだ」


「知ってる」


 危ない。


 昨日の俺なら、紹介一件につき何リル取れるか考え始めていた。


     ◇ ◇ ◇


「じゃあ俺は、どうしたらいい?」


「まずは今まで通りでいいんじゃないか?」


「無料で紹介?」


「無料って考え方をやめろ」


「え?」


「人をつないだら、その場で必ず金を取らなきゃ損だと思ってるだろ」


「……ちょっと」


「昨日、ロムからカラムの話を聞けたんだろ?」


「うん」


「ガルドには仕事が入った。ロムは助かった。お前は情報を得た。それで十分じゃないのか?」


 確かに。


 俺の財布には一リルも増えていない。


 でも何も得ていないわけじゃない。


「それに、次にロムが来たとき、お前のことを覚えてるかもしれない」


「また話聞ける?」


「それもある。何か面白い商品を持ってくるかもしれないし、お前の商品をカラムへ持っていく話になるかもしれない」


「……そっちの方が大きいかも」


「だろ?」


 目の前の一リルを取るより、後で大きな商売になる。


 そんなこともあるらしい。


 もちろん、必ずそうなるわけじゃない。


 でも、人とのつながりを全部その場で小銭に変える必要はない。


     ◇ ◇ ◇


「信用って、貯金みたいなもん?」


 俺が言うと、ハンスが変な顔をした。


「急にどうした」


「すぐ使わないで貯めとくと、あとで役に立つ」


「まあ……間違ってはいないな」


「減ることもある」


「ある」


「増やすのは時間かかる?」


「かかる」


「じゃあ貯金じゃん」


「お前は何でも金に例えないと理解できないのか?」


「分かりやすいから」


 俺にとってはかなりしっくりきた。


 金だけじゃない。


 信用も貯める。


 人とのつながりも増やす。


 それが後から商売になることもある。


「よし。信用も貯めよう」


「金みたいに袋へ入れられないからな」


「分かってるよ」


「本当か?」


 失礼な。


     ◇ ◇ ◇


 店を出る前に、帳面へ今日のことを書いた。


『紹介するなら、自分が知っている相手』


『できるかどうかは本人に確認する』


『値段や条件を勝手に約束しない』


『紹介料を取ることだけが利益じゃない』


 そして最後に、


『信用も貯金』


 と書いた。


 結構いい言葉な気がする。


 その下に現在の貯金額も書こうとして、手が止まった。


「……いや、これは別だな」


 信用が増えたからといって、3,842リルが3,843リルになるわけじゃない。


 そこはちゃんと現金も増やしたい。


「ハンスさん」


「今度は何だ?」


「信用を減らさずに、お金も増やす方法ない?」


「それを考えるのが商売だ」


「ですよね」


 簡単には教えてくれなかった。


 でもまあ、いい。


 ベルクが帰ってくるまで、まだ時間はある。


 外の情報を集めながら、リーネで俺にできることも探してみよう。


 金を使わず。


 信用も使い潰さず。


 できれば両方、増える方向で。


 欲張り?


 いや。


 これはたぶん、健全な商売人の考え方だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。