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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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俺にできること、意外とある?

翌日も、俺は市場を歩いていた。


 ただし昨日とは目的が少し違う。


 外から来た商人を見つけて、片っ端から値段を聞くのはやめた。初対面の相手に「どこで安く仕入れてます?」「何が儲かります?」なんて聞いたところで、教えてもらえる情報には限界がある。


 欲しい情報があるなら、相手にも何か返す。


 昨日ハンスに言われたことだ。


「……で、俺は何を返せるんだ?」


 そこが問題だった。


 金なら簡単だ。


 でも、できれば使いたくない。


 石鹸を渡す?


 背負い鞄を見せる?


 それもありだけど、会う商人全員に商品を配っていたら、それはそれで金がかかる。


 前世でいう試供品みたいなものだろうけど、配れば必ず商売につながるわけでもない。


「難しいな……」


 考えながら歩いていると、市場の一角で声が聞こえた。


「だから、直せるやつを探してんだよ」


 少し苛立った男の声だった。


     ◇ ◇ ◇


 見ると、荷馬車の横に男が二人いた。


 一人は市場で何度か見たことのある荷運びの男。


 もう一人は知らない顔だ。


 四十歳くらいだろうか。日に焼けた肌に、短い黒髪。服や靴には土埃がついている。


 その足元には、大きな木箱が置かれていた。


「だから木工職人ならいるって」


「誰でもいいわけじゃねえ。今日中に見てくれるやつだ」


「それなら直接工房回った方が早いぞ」


「場所知らねえんだよ」


 俺は足を止めた。


 木工職人。


 知っている。


 というか、家にいる。


「……これじゃない?」


 思わず呟いた。


 昨日考えていた「相手に返せるもの」。


 もしかして、こういうことか?


「あの」


 二人がこっちを見る。


「何だ?」


「木工職人、探してる?」


「そうだけど」


「どんな修理?」


 知らない男が少し怪訝そうな顔をする。


「坊主に聞いてどうすんだ?」


「知ってる人いるから」


「職人を?」


「うん」


 男が足元の木箱を指差した。


「箱の底が割れた。中身が重いから、このまま次の町まで運ぶのは怖い」


 近づいて見せてもらう。


 確かに底板の一部にひびが入っていた。


 俺に直せるかは分からない。


 当然だ。


 俺は木工職人じゃない。


「これなら父さん見れるかも」


「父さん?」


「家具職人」


「家具屋に荷箱直せんのか?」


「分からない」


「分からねえのかよ」


「だから本人に聞く」


 できると言って連れていって、無理でしたでは困る。


 ここは勝手に約束しない。


 最近この辺は本当に成長したと思う。


     ◇ ◇ ◇


「ちょっと待ってて」


「どれくらいだ?」


「家にいたらすぐ」


「いなかったら?」


「工房探す」


「結局待つのか」


「じゃあ一緒に来る?」


 男が木箱を見る。


「これ持って?」


「……重い?」


「重い」


「じゃあ待ってて」


 解決。


 俺は急いで家へ戻った。


 幸い、父さんは工房にいた。


「父さん!」


「今度は何だ?」


「木箱直せる?」


「木箱?」


「底割れてる。外から来た商人の」


「見なきゃ分からん」


「だよね。来て」


「今?」


「今日中に直したいって」


 父さんは作業台を見る。


 今やっている仕事がある。


 当然、俺の都合だけで放り出してもらうわけにはいかない。


「無理ならいいよ」


「いや、見るだけなら行ける。直すなら状態次第だな」


「じゃあお願い」


「お前の仕事じゃねえだろ?」


「今から俺の仕事になるかもしれない」


「何企んでんだ?」


「まだ分かんない」


 父さんが笑った。


「お前、最近それ多いな」


「とりあえず動いてから考えてる」


「昔からじゃねえか」


 否定できなかった。


     ◇ ◇ ◇


 市場へ戻ると、男はまだ待っていた。


「連れてきた」


「早かったな」


「父さん暇だったから」


「暇じゃねえよ」


 後ろから頭を軽く叩かれた。


「ガルドだ。家具を作ってる」


「ロムだ。カラムから来た」


 昨日とは別のカラムの商人らしい。


 父さんが木箱をひっくり返して底を見る。


 割れた部分を指でなぞり、角の金具も確認する。


「底板だけなら替えられる。ただ、この角も緩んでるぞ」


「そこもか?」


「このまま使うなら一緒に直した方がいい」


「今日中にいけるか?」


「材料が合えばな。工房まで持ってきてくれ」


「いくらだ?」


「見てから決める。大した額にはならんと思うが」


 話が早い。


 ロムもすぐに頷いた。


「頼む」


「じゃあ場所教える」


「お前も来るのか?」


「俺が連れてく」


 父さんが俺を見る。


「レイン」


「何?」


「お前、仲介料とか取ろうとしてないよな?」


「……今思いついた」


「取るな」


「はい」


 危ない。


     ◇ ◇ ◇


 結局、木箱は父さんの工房へ運ばれた。


 俺もついていく。


 底板は完全に作り直すほどではなく、割れた部分を補強して、緩んでいた角も直せば使えるらしい。


「夕方までにはできる」


「助かる」


 ロムが明らかに安心した顔をした。


 話を聞くと、明日の朝にはリーネを出る予定だったらしい。


「中身何?」


「乾燥させた豆だ」


「カラムって豆多いんだ」


「多いぞ」


 昨日の商人も言っていた。


 これはかなり確かな情報だと思ってよさそうだ。


「リーネでは売れた?」


「まあまあだな」


「いくらで?」


「お前、急に商売の顔になるな」


「気になるから」


 ロムが笑う。


「細かい値段は仕入れ先にもよるから言わねえぞ」


「やっぱり?」


「でも、こっちまで持ってくる意味はある」


 それだけでも十分だ。


 カラムの豆は、運ぶ費用を含めてもリーネで商売になる。


 昨日聞いた話と一致する。


     ◇ ◇ ◇


「お前、商売してるのか?」


 ロムが聞いてくる。


「一応」


「何売ってる?」


「石鹸と背負い鞄。今は俺が直接売ってるわけじゃないけど」


「背負い鞄?」


「荷物背負うやつ」


「それなら俺も持ってるぞ」


「普通の袋じゃなくて、両肩で背負うやつ」


「両肩?」


 少し興味を示した。


 説明しようとして、やめる。


「ハンスさんの店にあるよ」


「ハンス?」


「市場の東側の雑貨屋」


「知ってる。あとで見てみるか」


 これだ。


 俺が無理に売らなくてもいい。


 興味を持った人を、売っている場所につなげる。


「見るだけでもいいよ」


「急に余裕あるな」


「欲しくなったら買って」


「結局売る気じゃねえか」


「商売なので」


 ロムが笑った。


 ベルクと同じ反応だった。


     ◇ ◇ ◇


 父さんが修理を始めたので、俺とロムは工房の外へ出た。


「ところで」


 俺は少し考えてから聞く。


「カラムのこと聞いていい?」


「内容による」


「昨日、別の商人から少し聞いたんだ。豆と油と縄が安いって」


「まあ、間違ってねえな」


「木工品はリーネの方がいい?」


「物によるが、俺はそう思う」


 ロムが工房の中を見る。


「こういう職人がいるならな」


 父さんが聞いたら喜びそうだ。


「じゃあ、カラムでリーネより高いものって?」


「お前、さっきの礼を情報で取ろうとしてるだろ」


「バレた?」


「分かりやすすぎる」


「駄目?」


「別にいいさ。助かったのは本当だからな」


 成功した。


 金を払っていない。


 商品も渡していない。


 ただ、困っている人と父さんをつないだ。


 それだけで、昨日より少し話を聞きやすくなった。


     ◇ ◇ ◇


「木工品はこっちの方が選べる。あと、革物も悪くないな」


「革?」


「カラムにも職人はいるが、俺が見た限りじゃリーネの方が種類が多い」


 ダリオの顔が浮かぶ。


「食べ物は?」


「カラムの方が安い物も多い。周りに畑が多いからな。ただ、全部運べるわけじゃねえ」


「傷むから?」


「そうだ。豆みたいに乾かせる物は楽だが、生の野菜や果物は面倒だ」


「なるほど」


 運べるかどうか。


 また一つ条件が増えた。


 安くても、到着する前に駄目になったら意味がない。


「じゃあ高くても、軽くて傷みにくい物の方がいい場合もある?」


「そりゃある」


「石鹸とか?」


「お前、本当にそこへ持っていくな」


「気になっただけ」


「物を見ねえと何とも言えん」


 やっぱりそうなる。


 でも、石鹸が町の外へ出す商品として悪くない理由は少しずつ見えてきた。


 小さい。


 軽い。


 すぐには傷まない。


 そして一個あたりに値段がつく。


 ベルクが最初に言っていた条件にも近い。


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 木箱の修理が終わった。


「おお、いいな」


 ロムが底を確認する。


「前より丈夫になってないか?」


「割れたところだけ直すより、この方が早かった」


 父さんは何でもないことのように言う。


 でもロムはかなり満足そうだった。


 代金を払い、何度も箱を確認している。


「次にリーネ来たときも、何かあったら頼んでいいか?」


「家具屋だけどな」


「壊れた箱くらいなら頼む」


「まあ、時間があればな」


 二人が笑う。


 俺は横でそのやり取りを見ていた。


 俺は何も作っていない。


 修理もしていない。


 金も出していない。


 でも、ロムが父さんを知らなかったら、この仕事は生まれなかった。


「……これも商売なのかな」


 小さく呟く。


 父さんが聞いていた。


「お前は金取ってねえけどな」


「今回はね」


「次から取る気か?」


「まだ考えてない」


「そこは考えなくていい」


 父さんは笑っていた。


     ◇ ◇ ◇


 帰り道、帳面を開く。


『カラム――豆、油、縄』


『リーネ――木工品、革製品』


『傷みやすい物は運びにくい』


『人を紹介するだけでも価値になる』


 最後の一行を見て、少し考える。


 俺は物を作れるわけじゃない。


 石鹸だって今はセラが作っている。


 背負い鞄はダリオだ。


 家具なら父さん。


 売るならハンス。


 そして外へ運ぶならベルクみたいな行商人。


 でも俺は、その人たちを知っている。


「……意外と強くない?」


 五年前なら、知り合いなんて家族と近所の人くらいだった。


 今は違う。


 誰かが何かを欲しがったとき、「それならあの人」と言える。


 逆に誰かが売りたいとき、「それならあそこ」と言えるかもしれない。


 物を作らなくても。


 自分で運ばなくても。


 自分で店を持たなくても。


 間をつなぐだけで、商売が生まれる。


「これ、もっとできるんじゃない?」


 思いついた瞬間、ちょっと興奮した。


 でも、すぐに足を止める。


「……いや、待て」


 思いつく。


 すぐ広げる。


 金を使う。


 失敗する。


 昔の俺の流れだ。


 今回は金を使っていないけど、同じ勢いで動けば誰かに迷惑をかけるかもしれない。


「まずハンスさんに聞こう」


 最近、この一言が増えた気がする。


 悪くない。


 むしろ成長だ。


 俺にできることは、思っていたより多いのかもしれない。


 ただし。


 できることと、勝手にやっていいことは別だ。


 そこだけは、ちゃんと覚えておこう。

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