↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/264

売る場所にも、お金がかかる

価格調査を終えた俺は、その足でダリオの店へ戻った。


「ただいま」


「お前の店じゃねえ」


「細かいなあ」


「そこは細かくねえよ」


 ダリオは作業台で革を切っていた。俺が戻ってきたのを見ると手を止め、顎で近くの椅子を示す。


「で、どうだった?」


「結構聞けたよ」


 俺は木板を取り出し、今日聞いた内容を見せた。値段だけじゃなく、何を便利だと思ったか、どんな仕事をしているかもできるだけ書いてある。


 ダリオは最初こそ軽い顔で見ていたけど、読み進めるうちに少し真面目な表情になった。


「思ったよりちゃんと調べてきたな」


「思ったよりって何」


「八歳がロイド連れて市場をうろついてるだけだと思ってた」


「だいたい合ってるけど」


「合ってんじゃねえか」


 違う。


 ちゃんと仕事もした。


     ◇ ◇ ◇


「安いので15リル。20リルなら欲しいって人が結構いて、25リルになると迷う人が増えた」


「そんなもんか」


「ダリオはどう思う?」


「俺なら25リルで売りたい」


「やっぱり?」


「ああ。一個16リルで作って20リルじゃ、何かあったとき余裕がなさすぎる」


「何か?」


「材料が高くなったり、作る途中で駄目にしたりだな。全部毎回きれいに作れると思うなよ」


「あ……」


 そうか。


 16リルというのは、普通に作れた場合の話だ。布を切り間違えるかもしれないし、革を駄目にすることもある。道具だって永遠に使えるわけじゃない。


「あと、作ったあとでほつれたとか、留め具が壊れたとか言われたら?」


「直す?」


「場合によるがな。売ってすぐ壊れたなら知らん顔はできねえだろ」


 確かに。


 石鹸とは違う。


 一回売ったら終わりではなく、鞄なら修理の話が出る可能性もある。


「25リルでも高すぎるとは思わねえ。全部革の鞄よりは安いし、普通の袋より手間も材料もかかってる。それに、同じような物はまだほとんどない」


「でも25リルだと迷う人多かったよ」


「だから売り方を考えるんだろ」


「売り方?」


「俺は作る方だ。そこは商人に聞け」


 そう言って、ダリオがにやっと笑った。


「ハンス?」


「他にいるのか?」


「…………行ってきます」


「忙しいな、大商人」


「まだ大は付かない」


「商人は否定しなくなったな」


 言われて気づいた。


 確かに。


     ◇ ◇ ◇


 またハンスの店に来た。


 最近、家より来てるんじゃないか。


「いらっしゃい」


 ハンスが顔を上げる。


 俺を見る。


「…………今日は何だ?」


「その反応やめてよ」


「昨日は石鹸だったな」


「今日は鞄」


「帰ってくれ」


「まだ何も言ってない!」


 ハンスはため息をついたものの、本気で追い返すつもりはないらしい。


「見せてみろ」


「話早いね」


「君を相手にしていると、抵抗するだけ時間の無駄だと分かってきた」


「仲良くなったね」


「どうしてそうなる」


 俺は背負い鞄を作っていることと、今日行った価格調査について説明した。


 ハンスは途中で口を挟まず、木板の記録まで全部見てから腕を組んだ。


「なるほど」


「どう?」


「まず、君が知らない人間に自分から話を聞いて回ったことに驚いている」


「そこ?」


「八歳だぞ?」


「最近みんなそれ言う」


「みんなが正しいんだろう」


 それは否定しづらい。


     ◇ ◇ ◇


「それで、ダリオに三個まとめて頼むなら一個16リル。売値は20から25リルくらいで考えてる」


「なるほど」


「俺は23リルくらいがいいかなと思ってる」


「なぜ?」


「16リルで作って23リルなら、一個7リル儲かる。25リルより買いやすそうだし」


 結構。


 いいところじゃないかと思っている。


 ところがハンスは、少し不思議そうな顔をした。


「それを、どこで売る?」


「え?」


「だから、完成した三個をどこで売るつもりなんだ?」


「…………」


 考えてなかった。


「市場?」


「出店料を払って、自分で一日店に立つのか?」


「それは嫌」


「なぜだ」


「八歳だから」


「こういうときだけ使うな」


 ハンスまで言うようになった。


     ◇ ◇ ◇


「じゃあ」


 俺は店の中を見回す。


「ここ?」


「そう言うと思った」


「置いてくれる?」


「条件次第だ」


「やった」


「まだ何も決まってない」


 ハンスが俺の前に手を出した。


「君は23リルで売れば7リル儲かると言ったな」


「うん」


「では、私の利益は?」


「…………」


 止まった。


「…………」


 もう一回考えた。


 16リル。


 23リル。


 7リル。


「…………ないね」


「ないな」


「そこをなんとか」


「ならん」


 ですよね。


     ◇ ◇ ◇


「待って」


 俺は木板を出した。


 作るのに16リル。


 俺の利益。


 ハンスの利益。


 客が払う金。


「…………増えた」


「何が?」


「値段に入れる人」


「人聞きの悪い言い方をするな」


「だって石鹸のときは、俺が作ってハンスに売ってたじゃん」


「今も同じだろう」


「違うよ。今回はダリオがいる」


「ああ、なるほど」


 ハンスが笑う。


「ようやく分かったか」


 石鹸を自分で作っていた頃は、材料費を引いた残りから俺の手間も利益も出ていた。


 でも背負い鞄は、ダリオが一個16リルで作る。その時点で、ダリオの材料代と手間と利益が入っている。


 そこから俺が利益を取る。


 さらにハンスの店で売るなら、ハンスも利益を取る。


「…………みんな金欲しがるな」


「君が一番欲しがってるだろ」


「それはそう」


 否定はしない。


     ◇ ◇ ◇


「例えば」


 ハンスが木板に数字を書く。


「私が一個20リルで君から買う」


「うん」


「店で25リルで売る」


「ハンスが5リル」


「そうだ」


「俺は4リル」


「そうなる」


「少ない」


「嫌なら自分で売れ」


 早い。


「じゃあ俺に21リル」


「店では?」


「25リル」


「私が4リル」


「十分じゃない?」


「君が決めるな」


 交渉。


 始まった。


     ◇ ◇ ◇


「そもそも」


 ハンスが木板を指で叩く。


「私はまだ、その鞄を見てもいない」


「あ」


「売れるかどうかも分からない商品を、なぜ買い取る前提で話している?」


「価格調査したよ」


「それは評価する。だが、『欲しい』と言うのと、実際に金を出すのは別だろう?」


 ロイドにも似たことを言われた。


 25リルなら欲しい。


 でも。


 今すぐ買うかは迷う。


「じゃあ、どうする?」


「完成した物を持ってこい」


「三個?」


「一個でいい。まず見せろ」


「試作品ならあるよ」


「それを持ってくればいい」


「売らないよ?」


「誰も買うとは言ってない」


「…………」


 なんか。


 今日のハンス。


 強い。


 いつもか。


     ◇ ◇ ◇


「それと、もう一つ方法はある」


「何?」


「買い取りではなく、置くだけだ」


「…………ミラとやったやつ?」


「そうだ」


 委託販売。


 ミラのパン屋で石鹸を売ったときは、一個5リルで売って、ミラに1リル渡していた。


「鞄を店に置く。売れたら私が取り分をもらう。売れなければ、鞄は君に返す」


「それなら?」


「私が在庫の危険を負わない分、君の取り分を増やす話はできる」


「おお」


 それ。


 いいじゃん。


 ……と思ったところで。


 気づいた。


「でも俺は、先にダリオに16リル払ってる」


「そうだな」


「売れなかったら?」


「鞄が手元に残る」


「金は?」


「戻らない」


「…………」


「当たり前だろう」


 怖い。


 買い取りなら。


 ハンスに渡した時点で金になる。


 委託なら。


 売れるまで金にならない。


 その代わり。


 売れたときの俺の利益は増やせる。


「どっちがいい?」


「私に聞くな」


「相談してるのに」


「君がどこまで危険を負うかの話だ」


 ハンスが少し笑う。


「商売は、利益だけ選べるほど親切じゃない」


     ◇ ◇ ◇


 買い取り。


 利益は少なくなる。


 でも、ハンスに売った時点で俺の金になる。


 委託。


 利益は増やせる。


 でも、客が買うまで俺の金は戻らない。売れなければ、16リルの鞄が残る。


 そして今の俺は。


 商売に使える金が23リルしかない。


「…………」


 重い。


 さっき食べたパン2リルが。


 今になって重い。


「飯を後悔するな」


「なんで分かったの?」


「腹を見ながら悲しそうな顔をするな」


 ハンスが呆れている。


「じゃあ食べなきゃよかった?」


「食べろ。八歳だろ」


「はい」


 今日は。


 八歳が弱点になった。


     ◇ ◇ ◇


「俺としては」


 ハンスが少し声を柔らかくした。


「最初から三個作る必要もないと思うがな」


「でも一個だと20リルくらいかかる」


「試作品があるんだろう?」


「ある」


「まずそれを見せろ。商品として置けそうなら、店に一つ置いて客の反応を見る方法もある」


「試作品を?」


「売らなくてもいい。見本としてな」


「…………あ」


 その発想はなかった。


「値段を書いて?」


「予定価格でもいい。ただし、売らないならそう書いておけ」


「客が欲しいって言ったら?」


「名前でも聞いておけばいい」


 予約。


 いや。


 予約というより。


 欲しい人を先に探す。


「それで何人か欲しいって言ったら」


「その数を見て作ればいい」


「…………」


 作ってから。


 売るんじゃない。


 売れそうだと分かってから。


 作る。


「ハンス」


「何だ?」


「天才?」


「商人だ」


 かっこいいな。


 それ。


     ◇ ◇ ◇


 店を出る前に、ハンスと次の話を決めた。


 まず改良した試作品を持ってくる。


 ハンスが商品として置ける品質か確認する。


 問題なければ、店の一角に見本として置いて、客の反応を見る。価格はまだ仮で、実際に売る条件はその反応とダリオの製造条件を見てから決める。


 いきなり三個分48リルを払う必要はない。


 それが一番大きかった。


「売る場所にも、お金がかかるんだな」


 店を出ながら呟く。


 自分で売れば。


 店に払う金はいらない。


 でも、自分の時間がなくなる。


 ハンスに売ってもらえば。


 取り分を渡す。


 でも、その時間に俺は別のことができる。


 セラに言われた言葉を思い出した。


 ――あんたの時間。


 石鹸でも。


 背負い鞄でも。


 同じなのかもしれない。


 全部自分でやれば、一個あたりの利益は増える。でも、それだけで一日が終わる。


 誰かに任せれば利益は減る。


 その代わり。


 俺の時間が増える。


「…………やっぱり」


 俺が目指すのは。


 こっちな気がする。


 だって老後は。


 働きたくない。


 そのために今。


 働かなくても金が回る方法を覚える。


「完璧じゃん」


 問題があるとすれば。


 まだ全然。


 働かなくても金が入る状態にはなっていないことくらいだ。


 先は長い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。