↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
257/264

まずは、話してみよう

エマと会うことを決めてから、俺たちは一度セルトを離れる準備をした。


といっても、半年の滞在をやめるわけじゃない。


宿には数日留守にすると伝え、市場へ出る予定も入れない。石鹸を置いてもらっている店や宿についても、今すぐ俺たちがいないと困る状態ではなくなっていた。


こういう時、毎日市場に立たなくてよくなったのは助かる。


「最初の頃だったら無理だったな」


「毎日場所借りてたもんね」


「そう考えると、ちゃんと変わってるな」


セルトに来た頃は、商品を並べて、売れるまでそこに立っていた。


今は宿に置いてもらえるし、必要な時だけ市場へ出ればいい。数日くらいなら、俺たちがいなくても問題ない。


そうしてセルトを出て、二日。


久しぶりにリーネへ戻ってきた。


     ◇ ◇ ◇


家へ顔を出したり、セラさんに挨拶したり。


やることはいくつかあったけど、今回戻ってきた一番の目的は決まっている。


ハンスさんの店へ行くと、すでに一人の女性が待っていた。


「来たか」


「お久しぶりです」


「思ったより早かったな」


「会ってから決めたかったんで」


ハンスさんが笑って、それから隣に立つ女性を見る。


「こっちが話してたエマだ」


「エマです。よろしくお願いします」


「レインです。こっちはカイル」


「よろしく」


エマは俺たちより少し背が高かった。


落ち着いた茶色の髪を後ろでまとめていて、服装も特別目立つところはない。


なんというか、本当に普通の人だ。


いや、何を期待してたんだ俺は。


「とりあえず座れ。立ったままじゃ話しづらいだろ」


ハンスさんに言われ、店の奥へ移動する。


四人で机を囲んだところで、少しだけ空気が固くなった。


「……」


「……」


何から話せばいいんだ?


人を雇う時って、最初になんて言うんだろう。


前世でも雇われる側しかやったことないぞ。


「レイン」


「分かってる」


隣から小声で言ってきたカイルを止める。


とりあえず仕事内容からだ。


「ハンスさんから聞いてると思うんですけど、お願いしたいのは石鹸を作る仕事です」


「はい。セラさんから作り方を教わると聞いています」


「最初はそうなります。慣れたら、一人でも作れるようになってもらいたくて」


「毎日作るんですか?」


いきなり質問が返ってきた。


「いや、そこなんですけど……」


俺はカイルを見る。


カイルも俺を見る。


まだ決めてない。


「今のところ、毎日じゃなくていいと思ってます」


カイルが答えた。


「必要な数を決めて、その分を作ってもらう形になると思います。ただ、これから量が増える可能性はあります」


「減る可能性もありますよね?」


今度は俺たち二人とも少し黙った。


ある。


普通にある。


「あります」


ここで誤魔化しても仕方ない。


「セルトでは今のところ売れてます。でも、ずっと同じだけ売れるとは約束できません」


「分かりました」


エマはそれ以上追及しなかった。


ただ、ちゃんと覚えておくように頷いた。


思っていたより、しっかり聞いてくる人だ。


     ◇ ◇ ◇


今度は、俺たちからエマのことを聞いた。


今の店では四年ほど働いているらしい。


商品の受け取り。


棚への補充。


在庫の確認。


客への受け渡し。


忙しい時には店主の代わりに店番もする。


「物を作る仕事は?」


「ほとんどしたことないです」


「細かい作業とかは?」


「普通だと思います」


「普通」


「得意だって言って、できなかったら困るので」


なるほど。


「でも、同じ作業を続けるのは苦じゃないです。今の店でも、入ってきた商品を数えたり分けたりすることは多かったので」


それはありがたい。


俺だったら途中で別のことを始めそうだ。


横を見ると、カイルがこっちを見ていた。


「何?」


「別に」


絶対同じこと考えただろ。


「エマさんから、他に聞きたいことあります?」


そう聞くと、少し考えてから口を開いた。


「あります」


「どうぞ」


「お二人とも、十五歳なんですよね?」


そこか。


「はい」


「二人で商売を始めたのも最近だと聞きました」


「そうですね」


正確には俺はもっと前から色々やっているけど、カイルと二人で始めたのは成人してからだ。


「これからも、リーネで仕事をするんですか?」


答えようとして、止まった。


これは結構大事な質問だ。


俺たちは今セルトにいる。


半年が終わればリーネへ戻るつもりだけど、ずっとリーネだけで商売をするつもりはない。


「たぶん、リーネだけにはならないです」


正直に答える。


「今はセルトにいますし、これから他の町へ行くこともあると思います」


「じゃあ、また何ヶ月もいなくなることも?」


「あると思います」


エマは少し考え込んだ。


「私が働く場所は?」


「最初はリーネです」


そこは決まっている。


セラさんから石鹸作りを覚えてもらう必要があるし、作った石鹸を行商人へ渡すのもリーネだ。


ただ、その先はまだ分からない。


「ずっとリーネかって聞かれると……約束はできないです」


「なるほど」


また頷く。


嫌そうでも、嬉しそうでもない。


ただ確認している。


「もし別の町で働いてほしいってなったら、その時はちゃんと相談します。いきなり明日から来てくださいとかはしません」


「それなら大丈夫です」


少しだけ、エマの表情が緩んだ。


「住む場所まで勝手に決められたら困るので」


「それは俺も困ります」


「レインは自分で決める側でしょ」


カイルに突っ込まれた。


「そうだけど」


エマが小さく笑った。


初めてだった。


さっきまで仕事の話ばかりだったから、ちょっと安心する。


     ◇ ◇ ◇


それから、給料についても話した。


ハンスさんに教えてもらった相場を基準にしながら、最初は働く日数に合わせて払う。


石鹸の量が増えて、任せる仕事も増えたら、その時に改めて考える。


まだ決め切れていない部分については、決まっていないとそのまま伝えた。


「随分正直に話すんだな」


途中でハンスさんが言った。


「後から違うって言われる方が困るじゃないですか」


「まあな」


俺たちだって初めてなんだ。


最初から全部完璧には決められない。


だからこそ、分からないことまで分かったふりはしたくない。


一通り話し終わったところで、俺はエマを見る。


「どうです?」


「どう、というのは?」


「話を聞いてみて」


エマはすぐには答えなかった。


少し考えてから、逆に聞いてくる。


「私でいいんですか?」


「まだ決めてません」


「あ、そうなんですね」


「だから今日会ったんです」


紹介されたから、その場で採用。


それでは会いに来た意味がない。


「できれば、セラさんのところで一度やってみてもらいたいです」


「石鹸作りを?」


「はい」


実際にやってみて、エマが無理だと思うかもしれない。


セラさんから見て、向いていないかもしれない。


俺たちだって、そこで初めて分かることがあるはずだ。


エマは少し考えてから頷いた。


「分かりました。やってみたいです」


よし。


まだ決まったわけじゃない。


でも、手紙に書かれた名前だけだった人と、ようやくちゃんと話ができた。


次は実際に働いてみる。


俺たちが初めて誰かを雇う話は、そこでようやく決まりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。