相談してみた結果は?
人を雇うことについて書いた手紙を送ってから、しばらく経った。
その間に、行商人へ渡す最初の石鹸も準備を進めている。
今回は数を減らしてもらった。
セラさんが一度だけなら用意できると言っていた範囲で始めて、本当にリーネからセルトまで回せるのかを試す。
人を増やす話は、その先だ。
「返事、まだかな」
「送ってすぐ返ってくるわけじゃないでしょ」
「分かってるよ」
カイルに言われながらも、荷物が届くたびに少し期待してしまう。
人を雇うなんて初めてだ。
何を決めればいいのかすら分からないから、今回はハンスさんとセラさんの返事を待つしかない。
そして数日後。
二人からの返事が届いた。
◇ ◇ ◇
先に開いたのは、セラさんからの手紙だった。
内容は簡単だった。
新しく人を入れること自体には賛成。
石鹸の作り方を教えるのも構わない。
ただし、自分の仕事もあるから、いつまでも付きっきりでは教えられない。
「まあ、そうだよな」
「最初に覚えてもらわないとね」
「教えてもらう分の金も払う」
「それは書いてたでしょ」
「念のため」
セラさんに、新しい人の面倒まで全部押しつけるつもりはない。
最初に作り方を覚えてもらったら、あとは自分で作れるようになってもらう。
混ぜる道具もあるし、大きな型を使う方法も伝えてある。
問題は、そこまで覚えてくれる人をどう探すかだ。
そこで、ハンスさんからの手紙を開いた。
「……長いな」
「いっぱい聞いたからじゃない?」
確かに。
給料。
働く時間。
どういう人を探せばいいのか。
俺たちがリーネにいない間はどうするのか。
思いついたことを全部書いた気がする。
ハンスさんの返事も、一つずつそれに答えるように書かれていた。
まず、給料について。
仕事の内容や働く日数で変わるから、一律にいくらとは言えない。
ただ、リーネで同じくらいの年齢の人が働く場合に、どの程度もらっているのかは教えてくれた。
「これを基準にすればいいか」
「安くしすぎても来ないだろうしね」
「高すぎても続かない」
毎月払うものだ。
最初だけ払えても意味がない。
それから、仕事について。
石鹸を作るだけなら、今後どれくらい仕事が続くのかを考えておいた方がいい、と書かれていた。
これは俺たちも気になっていた。
セルトへ送る分が増えれば仕事はある。
でも売れなくなれば減る。
一日中、毎日石鹸を作り続けるほどの量は、今のところ必要ない。
「やっぱり石鹸だけじゃない方がいいのかな」
「他に頼めることある?」
「今は……そんなにないな」
商品の準備。
材料の確認。
できた物の数を数える。
行商人へ渡す分をまとめる。
考えれば細かい仕事はあるけど、それだけで毎日埋まるとは思えない。
最初から毎日働いてもらう必要もないのかもしれない。
必要な日数や時間。
給料。
任せる仕事。
その辺りは、実際に話して決める必要がありそうだ。
「思ってたより決めること多いな」
「昨日も言ってたよ」
「昨日より増えてない?」
「気づいただけ」
またそれか。
◇ ◇ ◇
手紙を読み進める。
最後の方まで来たところで、少し内容が変わった。
『人については、ちょうど仕事を探すことになりそうなのが一人いる』
「お」
思わず声が出た。
カイルが横から手紙を覗く。
『今すぐではないが、今の勤め先が近いうちに店を畳むらしい。真面目に働いているし、身元も分かっている』
そこまで読んで、俺とカイルは顔を見合わせた。
「いるじゃん」
「まだその人が働きたいか分からないよ」
「それはそうだけど」
ハンスさんも、勝手に話を決めてはいなかった。
こちらが興味を持つなら、相手にも話をしてみる。
その上で一度会って、自分たちで決めろ。
そう書かれている。
「会うって言っても、俺たちセルトだけど」
「どうする?」
手紙だけで決める気はない。
これから継続して一緒に仕事をするかもしれない相手だ。
向こうだって、どんな奴に雇われるのか分からないまま決めたくはないだろう。
「一回、リーネ戻る?」
「まだ帰るには早くない?」
「だよな」
半年のセルト生活は、まだ途中だ。
ここで人に会うためだけに往復するのも少しもったいない。
なら、まずはハンスさんに相手へ話をしてもらう。
興味があるなら、詳しいことを聞く。
それから考えても遅くない。
「じゃあ、会ってみたいって返す?」
「うん。向こうも話を聞きたいなら」
紙を取り出し、返事を書き始める。
名前もまだ知らない。
どんな人なのかも、ほとんど知らない。
分かっているのは、近いうちに今の仕事がなくなることと、ハンスさんが紹介してもいいと思っていることくらいだ。
それだけで雇う理由にはならない。
でも。
俺たちが初めて誰かと一緒に働くことになるなら、知らない相手を適当に探すよりはずっといい。
まずは、話を聞いてみよう。




