作る人を、増やせない?
セラさんからの手紙を読んだ翌日。
俺とカイルは、また机に向かっていた。
混ぜる道具を増やしても駄目。
型を増やしても駄目。
作り方を変えても、最後は人が動かないと石鹸はできない。
「やっぱり、作る人を増やすしかなくない?」
俺が言うと、カイルは少し考えてから頷いた。
「たぶん」
「だよな」
ここまでは簡単だ。
問題は、その次だった。
「……誰を?」
「それなんだよな」
二人揃って黙る。
俺たちは今まで、いろんな人に仕事を頼んできた。
ダリオにはカバンを作ってもらっている。
ノルンでは職人たちと道具を作った。
セルトでも、火付け道具を職人に作ってもらっている。
でも今回は少し違う。
完成した物を買うんじゃない。
俺たちの石鹸を、継続して作ってもらう人が必要になる。
「セラさんに誰か探してもらう?」
「それだと、セラさんが雇うことにならない?」
「ああ……」
それは違う。
セルトでも石鹸を売りたいのは俺たちだ。
これから先、別の町でも売るかもしれない。
そのたびにセラさんへ人を増やしてもらうのもおかしい。
「じゃあ、俺たちが頼む?」
「毎回?」
「毎回って?」
「石鹸を作るたびに、今日は手伝ってくださいって」
「面倒だな」
それなら最初から、継続して作ってもらった方がいい。
そこで、ようやく言葉が出てきた。
「……雇う?」
カイルが俺を見る。
「俺たちが?」
「うん」
言ってみると、思ったより大きな話に聞こえた。
俺とカイルで商売を始めた。
その金で商品を仕入れたり、道具を買ったりもしてきた。
でも、人を雇ったことはない。
「給料って、いくら払うの?」
「知らない」
「誰でもいいの?」
「よくないだろ」
「石鹸の作り方は?」
「セラさんに……」
そこまで言って止まる。
「結局セラさんじゃん」
「教えてもらうくらいはいいだろ。ちゃんとその分払えば」
作る人を増やせば終わり。
そんな簡単な話ではなかった。
◇ ◇ ◇
一度整理することにした。
欲しいのは、リーネで石鹸を作ってくれる人。
最初は一人でいい。
混ぜる道具もある。
大きな型を使う作り方もある。
ただし、石鹸作りそのものは覚えてもらわないといけない。
そして俺たちは今、セルトにいる。
「俺たち、面接できないじゃん」
「面接?」
「ああ……人を選ぶこと」
「帰る?」
「そのためだけに?」
リーネまでは馬車で二日ほどかかる。
人を探すためだけに往復するのは、できれば避けたい。
それに、俺たちよりリーネの人を知っている人がいる。
「ハンスさんに聞いてみるか」
「セラさんにも?」
「両方」
誰か仕事を探している人を知らないか。
石鹸作りを覚えて、継続して働いてくれそうな人はいないか。
候補だけでも探してもらえれば、かなり助かる。
ただし、採用まで全部任せるつもりはない。
俺たちが雇うなら、最後は自分たちで話した方がいい。
「じゃあ、次に送る手紙に書く?」
「うん」
紙を取り出す。
そこで、また手が止まった。
「給料どうする?」
「それも聞けば?」
「ハンスさんに?」
「リーネで普通に働くなら、どれくらいなのか」
なるほど。
知らないなら聞けばいい。
こういう時のハンスさんは頼りになる。
セラさんには、教える側としてどう思うか。
ハンスさんには、人を雇うなら何を決めておくべきか。
ついでに、仕事を探している人に心当たりがないか。
「……なんか急に商売っぽくなってきたな」
手紙を書きながら言う。
「今までも商売だったでしょ」
「そうなんだけど、人を雇うって違わない?」
商品なら、駄目なら次は頼まなければいい。
でも人はそうはいかない。
こっちの都合だけで、今月は仕事があります、来月はありませんでは困るはずだ。
給料を払うなら、その分の仕事も用意しないといけない。
「石鹸だけで、ずっと仕事あるかな」
「そこも考えないとね」
また問題が増えた。
でも、不思議と嫌ではない。
少し前まで、俺とカイルの二人でどう売るかを考えていた。
今は、その商品を誰に作ってもらうかまで考えている。
商売が大きくなるって、こういうことなのかもしれない。
手紙を書き終えて、俺は最後に読み返した。
まずは相談。
まだ誰を雇うかも決まっていない。
本当に雇うかどうかだって、これからだ。
それでも。
俺たち二人だけで始めた商売に、初めて誰かが加わるかもしれない。
そう考えると、少しだけ楽しみだった。




