増やしたのに、まだ足りない?
新しい混ぜる道具をリーネへ送ってから、しばらく経った。
その間も俺たちは石鹸を作り、火付け道具を売り、たまに市場へ出る。
行商人との話も進めていた。
リーネで石鹸を仕入れ、セルトまで運び、宿へ卸す。
まだ実際には始まっていないけど、あとはリーネで必要な数を用意できれば試せるところまで来ていた。
「そろそろ返事来てもいいよな」
「道具が届いて、試してからだからね」
「分かってるけど」
前回、カバンを待っていた時と似ている。
自分たちが動かなくても話が進むのは便利だけど、待っている時間は妙に長く感じる。
そんなことを話していた数日後。
リーネから荷物が届いた。
中に入っていたのは、セラさんからの手紙だった。
◇ ◇ ◇
「道具は使えたって」
部屋へ戻るまで待てず、荷受け場所を出たところで手紙を開いた。
「ちゃんと?」
「ちゃんと」
セラさんらしい短い文章を、カイルと一緒に読む。
送った混ぜる道具は問題なく使えたらしい。
今までより混ぜる作業が楽になり、一度に作る量を増やしても負担はかなり減った。
大きな型でまとめて作り、あとから切り分ける方法も試してくれた。
こっちも問題なし。
むしろ、
『なんで今まで教えなかった』
と書いてある。
「怒られてる?」
「ちょっとだけ」
「必要なかったんだよ」
今までは足りてたんだから仕方ない。
その時に必要のない改善まで、全部リーネへ送っていたらきりがない。
問題は、その続きだった。
俺は手紙を読み進める。
『前よりは作れる。ただ、今までの分を作りながら、そっちが言ってる数を毎回用意するのは無理だね』
「……あれ?」
思わず読み直した。
その下には、もう少し詳しく書かれていた。
一度だけなら、頑張れば用意できる。
でも行商人が来るたびに同じ数を作り、それとは別に今までリーネで売っていた分も切らさないようにする。
それをずっと一人で続けるのは厳しい。
「足りないじゃん」
「足りないね」
「道具まで送ったのに」
「前より作れるようにはなってるよ」
「でも足りない」
「うん」
カイルが妙に冷静だ。
俺はもう一度手紙を見る。
混ぜるのは早くなった。
一度に作れる量も増えた。
それでも、一人でできることには限界がある。
当たり前と言えば、当たり前だった。
◇ ◇ ◇
部屋へ戻ってから、今度はセラさんが作る分と、セルトへ回したい分を並べて考えた。
「今回だけ減らしてもらう?」
カイルが言う。
「行商人に?」
「うん。最初なんだし」
それもできる。
最初から予定していた数を全部用意する必要はない。
少ない数で始めて、本当に継続して売れるか確かめる。
それならセラさん一人でも、最初の一回くらいはなんとかなるらしい。
「でも、その次は?」
「同じだけ売れたら、また必要になるね」
「だよな」
今回だけならどうにかなる。
問題は、その次だ。
セルトの宿ではすでに何度も追加が出ている。
行商人も、売れるなら継続して扱うと言っている。
今後さらに売れる場所が増えたら、必要な数はもっと増えるかもしれない。
「もう一個、混ぜる道具作る?」
「誰が使うの?」
「あ」
そうだった。
道具を増やしても、使う人がセラさん一人なら意味がない。
大きな型を二個にしても同じだ。
一度に作れる量を増やす工夫はできる。
でも、材料を用意して、混ぜて、型に入れて、固まった物を切って、仕上げる。
全部が勝手に終わるわけじゃない。
「道具だけじゃ駄目か」
「みたいだね」
少し前まで、石鹸はセラさんに作ってもらえばいいと思っていた。
実際、それで何年も回っていた。
でも町の外でも売ろうとした途端、それでは足りなくなった。
作り方の問題じゃない。
作る量そのものが変わったんだ。
◇ ◇ ◇
「とりあえず、最初の分は少なくしよう」
俺が言うと、カイルも頷いた。
行商人には事情を話して、最初だけ数を減らしてもらう。
そこで実際にリーネからセルトへ石鹸を運んでもらう。
ちゃんと宿へ届くのか。
売れるのか。
行商人にも利益が残るのか。
まずはそこまで確認する。
「その間に考えよう」
「何を?」
「もっと作る方法」
道具は増やした。
作り方も変えた。
それでも足りないなら、別のところを変えるしかない。
俺は机の上の手紙を見る。
セラさん一人に頑張ってもらえば済む話にはしたくない。
商売を広げたいのは、俺たちなんだから。
だったら、そのために必要なものも俺たちが考えるべきだ。
石鹸をもっと作るには、何が足りないのか。
答えはだいぶ見えている気もする。
でも、今までやったことのない話になる。
だからもう少し、カイルと考えてみることにした。




