もっと作れるようにできない?
石鹸を作る人が足りない。
そう気づいたものの、すぐに答えが出るわけでもなかった。
そもそも今までリーネで売る分は、セラさんが作ってくれている。それで足りていたんだから、わざわざ作る人を増やそうなんて考えたこともない。
「まず、どれくらい増えるかだよな」
部屋に戻ってから、俺は紙を広げた。
「セルトで売る分?」
「そう。今までのリーネ分に、それが増える」
行商人が毎回ある程度まとめて買ってくれるなら、少なくともその数は用意しないといけない。
しかも相手が来る日に合わせてだ。
売れたら作る、では間に合わない。
「セラさんに頼む?」
カイルが聞く。
「それが一番簡単だけど……」
今まで通りの作り方で、単純に数だけ増やしてもらう。
できなくはないかもしれない。
でも、セルトで俺たち自身が作ってみたから分かる。
数が増えると、地味に面倒だ。
混ぜる。
型に入れる。
また混ぜる。
また型に入れる。
同じことを何度も繰り返す。
「待てよ」
そこで気づいた。
「俺たち、こっちでは前と同じ作り方してないじゃん」
「うん」
「それ、リーネでもやればいいんじゃない?」
カイルが机の端に置いてある混ぜる道具を見る。
セルトへ来てから買った、手回しの道具だ。
最初は手で混ぜていたけど、数を作るようになってから使い始めた。
これがあるだけでも、かなり違う。
それだけじゃない。
「型も」
「大きいやつ?」
「そう」
最初は一個ずつ同じ大きさになるように作ろうとしていた。
でもカイルが、大きな型でまとめて作って、あとから切ればいいと言い出した。
実際、その方が早かった。
「これ、向こうに伝えてなかったよな」
「まだ必要なかったからね」
リーネでは今までの作り方で足りていた。
だから変える理由がなかった。
でも、これから数を増やすなら話は別だ。
◇ ◇ ◇
翌日。
俺たちは、混ぜる道具を作ってくれた職人のところへ向かった。
「これと同じ物、もう一個作れます?」
俺が聞くと、職人は俺たちが持ってきた道具を見る。
「作れるぞ。壊れたのか?」
「いや、これは使えてます」
「じゃあ、なんで同じ物がいる?」
「別の町でも使いたくて」
セルトで使っている物を、そのままリーネへ送ることも考えた。
でも俺たちは、まだここで石鹸を作る。
だったらもう一個作ってもらった方がいい。
値段を確認すると、最初に作った時と大きくは変わらなかった。
仕組みも形も一度決まっている。
一から考え直す必要もない。
「じゃあ、お願いします」
「分かった」
これで混ぜる方はいい。
大きな型については、もっと簡単だった。
特別な仕組みがあるわけじゃない。
大きく作って、同じくらいの大きさに切り分ける。
やり方を伝えれば、リーネでもできる。
「これで結構増やせるんじゃない?」
店を出てから俺が言う。
「今よりはね」
「セルト分もいけそうじゃない?」
「それはセラさんに聞かないと分からないよ」
「まあ、そうだけど」
実際に作るのはセラさんだ。
俺たちが勝手に「これなら作れる」と決めるわけにはいかない。
それでも、今までと同じ作り方のまま数だけ増やしてもらうよりはいいはずだ。
◇ ◇ ◇
道具が完成するまでの間に、俺たちはリーネへ送る手紙も用意した。
行商人を通して、セルトでも石鹸を売り続けられそうなこと。
その分、今までより多く作る必要があること。
そして、セルトで試した作り方について。
「これ、文章だけで分かるかな」
書き終えた紙を見ながら言う。
「型の方は分かるんじゃない?」
「混ぜる方は?」
「道具も送るんでしょ」
「そっか」
実物があれば早い。
使い方自体は難しくない。
一度触れば、セラさんならすぐ分かると思う。
数日後。
完成した新しい混ぜる道具と手紙を、リーネへ向かう荷物に預けた。
これで、できることはやった。
あとは向こうで実際に試してもらうだけだ。
「増やせるといいな」
荷物を見送りながら言う。
「増えすぎても困るけどね」
「なんで?」
「売れなかったら余るでしょ」
「……確かに」
作れる数を増やすことと、売れる数を増やすことは別だ。
そこは忘れないようにしよう。
ただ、今までより多く作れるようになれば、選択肢は増える。
リーネで売る。
セルトにも送る。
もし、その先でも欲しいと言われたら。
そこにも送れるかもしれない。
問題は。
実際に作るセラさんが、この話を聞いて何と言うかだ。
俺たちはセルトにいる。
だから今度は、リーネからの返事を待つことになった。




