俺たちが売らなくてもよくない?
売れた金を、どうやってリーネまで戻すか。
昨日から考えているけど、いい方法が浮かばない。
金を誰かに預けて運んでもらうこと自体はできる。でも、商品と違って現金だ。毎回違う相手に頼むのは怖いし、だからといって俺たちが回収するためだけにセルトまで来るのもおかしい。
「……なんか違う気がする」
朝から机に向かっていた俺が言うと、向かいにいたカイルが顔を上げた。
「何が?」
「金を戻す方法を考えてること」
「昨日からそれ考えてたんじゃないの?」
「そうなんだけどさ」
紙には、リーネ、セルト、宿、石鹸と書いてある。
リーネから石鹸を送る。
セルトの宿が受け取る。
宿が売る。
売れた金をリーネへ戻す。
そこまで書いて、俺は一番上に戻った。
「俺たち、セルトで売る必要ある?」
「どういうこと?」
「行商人に売ればよくない?」
カイルが紙を見る。
「リーネで?」
「そう」
前にも似たようなことをしている。
俺たちが作った物を、別の誰かが売る。
だったら今回は、それを町の外まで広げればいい。
リーネとセルトを行き来する行商人に、リーネで石鹸を売る。
行商人はそれをセルトまで運び、宿へ売る。
宿は客へ売る。
「それなら俺たちが金を戻す必要ないだろ?」
「リーネで売った時点でもらえるから?」
「そういうこと」
セルトで売れた金は、行商人のものだ。
俺たちの金じゃない。
だから戻す必要もない。
カイルが少し考えてから頷いた。
「それならできそう」
「だろ?」
「でも、運んでくれる人じゃなくて、買ってくれる人を探さないとね」
「そこは……探そう」
問題が消えたと思ったら、別の問題になった。
でも昨日よりはずっと簡単に見える。
◇ ◇ ◇
探す相手の条件は、かなり絞られていた。
リーネとセルトを定期的に行き来していること。
少量の商品を扱えること。
そして、できれば今後も継続して取引できること。
市場の管理人や、以前荷物について話を聞いた商人に尋ねると、何人か候補を教えてもらえた。
その中で、数日後にリーネへ向かうという行商人に話を聞いてもらうことになった。
「石鹸?」
「はい。セルトではもう売ってます」
俺は一個見せる。
行商人は受け取ると、裏表を眺めた。
「これをリーネから持ってくるのか?」
「そのつもりです」
「誰に売る?」
「宿です。今も置いてもらってます」
そこで相手の反応が少し変わった。
「もう売れてるのか?」
「何度か追加も頼まれてます」
行商人がカイルを見る。
カイルが頷いた。
「今のところ、宿の方が動きはいいです。旅人が買ってるみたいで」
「なるほどな」
売れるか分からない商品を持っていくのと、すでに売れている商品を持っていくのでは全然違う。
しかも石鹸は、それほど場所を取らない。
何十個も積んだところで、大きな道具を一個載せるより扱いやすい。
「値段次第なら、悪くないな」
来た。
ここからが大事だ。
◇ ◇ ◇
今まで宿では、石鹸を5リルで売ってもらい、そのうち1リルを宿に渡していた。
俺たちに入るのは4リル。
でも行商人を挟むなら、当然その人の取り分も必要になる。
俺たちが全部取ったら、誰も運んでくれない。
話し合った結果、形は単純になった。
俺たちはリーネで行商人に石鹸を売る。
行商人はセルトまで持ってきて、宿へ少し高く売る。
宿は今まで通り、客へ5リルで売る。
一個あたり俺たちに入る金は、今より減る。
その代わり。
俺たちはセルトまで来なくていい。
運ばなくていい。
宿へ届けなくていい。
売れた金を回収する必要もない。
「取り分は減るけど……」
帰り道、俺が言う。
「やることも減るね」
カイルが続けた。
「それなんだよな」
一個からできるだけ多く取るなら、自分たちで全部やった方がいい。
でも、そのために二日かけてセルトへ来るのか。
その間、別のことはできない。
だったら少し利益を渡して、その時間を買った方がいい。
前なら、間に誰かが入ると損した気分になっていたかもしれない。
今は少し違う。
「俺たちが売らなくても、儲かるんだな」
「作る人と売る人はいるけどね」
「俺たちが、って話」
「はいはい」
これなら半年後も、セルトで石鹸を売り続けられるかもしれない。
◇ ◇ ◇
話はそれで終わると思っていた。
ところが、行商人と別れる前に一つ聞かれた。
「それで、どれくらい用意できる?」
「どれくらい?」
「毎回十個しかないなら、わざわざ扱うほどでもないだろ。俺も商売だからな」
当然だ。
売れる商品でも、一回の利益が小さすぎれば意味がない。
ある程度まとめて仕入れられる方が、向こうにとっても都合がいい。
「何個くらいなら?」
聞いてみる。
相手が答えた数を聞いて、俺とカイルは顔を見合わせた。
無茶な数ではない。
今の俺たちでも、セルトにいる間なら作れる。
問題は半年後だ。
リーネに戻ったら、石鹸を作っているのはセラさんだ。
元々リーネで売る分がある。
そこへセルトへ送る分まで増える。
さらに、この先ほかの町でも同じように売れるようになったら。
「……待って」
俺は思わず口にした。
「何?」
「これ、誰が作るんだ?」
カイルも黙った。
運ぶ方法はできそうだ。
売る場所もある。
金の問題も、これなら解決する。
なのに最後に残ったのが、一番最初のところだった。
石鹸を作る人が足りない。
商売を広げるなら。
そろそろ、俺たち二人だけじゃなく。
作る側のことも考えないといけないらしい。




