俺たちが取りに行かなくてもいい?
カバンを三個注文してから、しばらく経った。
ダリオへの注文を書いた紙は、リーネ方面へ向かう商人に預けてある。
あとは向こうでカバンを作ってもらい、それをセルトまで運んでもらう。
言葉にすると簡単だ。
でも、今まで俺たちは自分たちで町を移動して商品を運んできた。
だから本当に商品だけが届くのか、少し落ち着かない。
「そろそろじゃない?」
朝食を食べながらカイルが言った。
「俺もそう思ってた」
「今日も聞きに行く?」
「今日もって言うなよ」
「昨日も聞いたでしょ」
昨日は確認しただけだ。
一昨日も確認した気がするけど、それは忘れよう。
荷物の受け取りについては、注文を頼んだ時に決めてある。
セルトへ荷物を運ぶ商人が着いたら、いつも使っている荷受け場所に預けてもらい、俺たちが取りに行く。
宿まで届けてもらうこともできるらしいけど、その分だけ金がかかる。
歩いて持てる物なら、自分たちで取りに行けばいい。
「今日なかったら、明日でいいよ」
「分かってるって」
そう言いながら、食べ終わるとすぐ部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「リーネから、レインさん宛てで荷物が来てますよ」
あった。
思わずカイルを見る。
「来た」
「来たね」
「ちゃんと来た」
「そういう仕組みなんだから来るでしょ」
いや、分かってるけど。
自分が乗っていない馬車で、自分の商品だけが別の町まで来た。
それだけなのに、妙に嬉しい。
受け取った荷物を確認すると、中には三個のカバンが入っていた。
頼んだ数と合っている。
一個ずつ見ても、特に問題はなさそうだ。
それとは別に、ダリオからの短い返事も入っていた。
注文を受けたこと。
三個作ったこと。
それから、セルトで使った人から出た意見についても書いてあった。
水筒やよく使う物を取り出しやすくできないか。
以前、旅人に貸した時に出た話だ。
俺たちは注文を送るついでに、そのこともダリオへ伝えていた。
「試してみるって」
返事を読んで言う。
「次から変わる?」
「まだ分からない。作ってみてからだって」
それでいい。
いきなり全部変えるより、一個試して使いやすければ採用すればいい。
セルトで聞いた意見が、リーネのダリオまで届いた。
これも、俺たちが町を移動しなくてもできた。
◇ ◇ ◇
部屋へ戻り、三個のカバンを並べる。
注文した客には、届いたことを伝えればいい。
問題は、そのあとだ。
「これで一応、できたな」
「何が?」
「俺たちが取りに行かなくても、商品が来た」
リーネへ戻って。
ダリオに注文して。
完成するまで待って。
またセルトへ運ぶ。
それを全部自分たちでやっていたら、何日も商売が止まる。
今回は紙を一枚送って、待っていただけだ。
もちろん運ぶ金はかかる。
それでも、往復する時間まで考えれば悪くない。
「次は石鹸?」
カイルが聞いた。
「試したい」
石鹸は今のところ、セルトで俺たちが作っている。
材料も手に入るし、その方が安い。
だから、わざわざリーネから送る必要はない。
少なくとも、俺たちがセルトにいる間は。
「帰ったあとだよな」
「うん」
半年後。
俺たちがリーネへ戻れば、セルトで石鹸を作る人はいなくなる。
宿では今も売れている。
そこで終わらせることもできるけど、商品だけ送れるなら続けられるかもしれない。
ただし、カバンとは違う問題がある。
「誰が受け取る?」
「そこなんだよな」
カバンは俺たちが受け取った。
でも半年後、俺たちはいない。
商品だけセルトへ送れても、受け取る人がいなければ意味がない。
さらに、宿へ渡す人。
売れた分の金をまとめる人。
その金をリーネまで戻す方法。
運ぶだけでは終わらなかった。
「……意外とあるな」
「前にも話したでしょ」
「実際にやると増えるんだよ」
「増えたんじゃなくて、気づいただけだと思う」
細かい。
でも正しい。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
俺たちは、最初に石鹸を置いてもらった宿へ向かった。
いきなり全部任せるつもりはない。
まずは聞いてみるだけだ。
「今置いてもらってる石鹸なんですけど」
宿の人がこちらを見る。
「どうした?」
「俺たち、ずっとセルトにいるわけじゃないんです」
「ああ、前に言ってたな」
「帰ったあとも、石鹸が売れるなら置いてもらえます?」
宿の人は少し考えた。
「物が届くなら、置くのは構わないぞ」
そこは大丈夫らしい。
「じゃあ、荷物もここで受け取ってもらうのは?」
「量によるな」
当然だ。
宿は倉庫じゃない。
箱がいくつも届くようになったら邪魔になる。
「今くらいの数なら?」
「それなら別にいい。ただ、毎日のように届くのは困るぞ」
「まとめて送ります」
「ならいい」
一つ解決した。
受け取る場所。
そのまま売る場所でもある。
「売れた分のお金は?」
俺が聞くと、今度は相手も少し困った顔をした。
「お前たちが取りに来るんじゃないのか?」
「リーネに帰るので」
「ああ、そうか」
やっぱりここだ。
商品は来られる。
でも金は勝手に帰ってくれない。
商人に預けて戻してもらう方法はあるらしい。
ただ、毎回別の人に頼むのは面倒だし、金を預けるなら誰でもいいわけじゃない。
宿の人も、そこまで面倒を見るつもりはなさそうだった。
「置くのと受け取るのはいい。でも金のやり取りまで任されるのは困るな」
「ですよね」
無理に頼むところじゃない。
できることと、できないことが分かっただけでも十分だ。
宿を出て、カイルと並んで歩く。
「半分できたな」
「半分?」
「商品を送って、受け取って、売るところまで」
「残りはお金」
「そう」
自分たちがいなくても商品は動かせる。
今日、それは確認できた。
なら次に必要なのは。
売れた金を、どうやって戻すか。
俺たちがセルトを離れるまで、まだ時間はある。
一個ずつ試せばいい。
半年後。
俺たちがここからいなくなっても、商売まで一緒に消える必要はない。
そんな形が作れたら。
町を離れるたびに、全部最初からやり直さなくてもよくなる。




