便利なら、買ってくれる?
完成した五個の火付け道具を持って、俺たちは市場へ向かった。
今日はもちろん、東側の6リルの場所だ。
旅人が多いこの場所なら、新しい道具を試すにはちょうどいい。
石鹸を並べ、その横にカバンの見本を置く。
そして一番手前に、五個の火付け道具を並べた。
「こうして見ると、それっぽいな」
「何が?」
「商品」
「売れたらね」
相変わらず厳しい。
今回、職人にまとめて作ってもらったことで、一個あたりの製作費は9リルまで下がった。
販売価格は15リル。
一個売れば6リル残る。
もちろん、試作品を作るために使った金まで考えれば、五個全部売れたところですぐに大儲けとはいかない。
それでも売れ続けるなら、十分商品にはなる。
「まず一個だな」
「石鹸も売ってね」
「分かってるよ」
店を開いてしばらくすると、最初に火付け道具へ興味を示す人が現れた。
やっぱり旅人だった。
「これは何だ?」
「火をつける道具です」
一個手に取って、蓋を外す。
親指で火打ち部分を擦る。
カッ。
一回目は火花だけ。
もう一度。
カッ。
芯に小さな火がついた。
「こんな感じです」
「それだけで?」
「中に油を染み込ませてあります。なくなったら、下から足せます」
蓋をかぶせると火が消える。
旅人は面白そうに覗き込んでいた。
「火打ち石はいらないのか?」
「火花を出す部分も一緒になってます」
「いくらだ?」
来た。
「15リルです」
旅人の顔が少し変わった。
高い。
たぶん、そう思った。
実際、普通の火打ち道具より高い。
「便利そうだが……15か」
「何度も使えますよ。油は足さないといけませんけど」
「ちょっと考える」
そう言って、旅人は離れていった。
売れなかった。
「反応は悪くなかったね」
カイルが言う。
「値段聞くまではな」
「じゃあ高い?」
「まだ一人だろ」
一人に断られただけで値下げするのは早い。
そもそも、安く売るために作った物でもない。
◇ ◇ ◇
その後も何人かが足を止めた。
実演すると、反応はいい。
一回で火がついた時なんて、
「おお」
と声まで出る。
でも値段を伝えると、少し考える人が多かった。
「便利と欲しいは違うな」
客が離れたあと、俺は小声で言った。
「それ、前にもあったよね」
「何で?」
「色々」
確かに。
欲しい。
便利。
面白い。
それだけでは金を払ってもらえない。
それでも昼を過ぎた頃。
一人の旅人が、実演を見たあともその場を離れなかった。
「これ、雨の日でも使えるのか?」
「濡れたままは難しいです。でも、普通の火打ち道具みたいに燃えやすい物を探さなくても、芯が乾いていれば火はつけられます」
「風は?」
「強いと消えます。ただ、つけ直すのは早いです」
良いところだけ言うのは簡単だ。
でも実際に旅で使ってもらった時、風が強ければ普通に消えた。
そこは隠さない。
旅人は少し考え、火付け道具を一個持ち上げた。
「油は何を使えばいい?」
使える油と、補充の仕方を説明する。
「……じゃあ、一個くれ」
「ありがとうございます」
売れた。
15リル。
製作費9リル。
差し引き6リル。
たった一個。
それでも、新しく作った物に初めて値段がついた。
「売れたな」
「一個だけね」
「最初は一個でいいんだよ」
カイルはそう言いながらも、少し笑っていた。
◇ ◇ ◇
結局、その日は火付け道具が三個売れた。
石鹸も売れたし、カバンについて聞いてくる人もいた。
残った火付け道具は二個。
五個全部とはいかなかったけど、初日としては十分だと思う。
「三個で45リル」
片付けながら確認する。
三個分の製作費は27リル。
そこだけ見れば18リル残る。
もちろん今日は露店代に6リル払っているし、石鹸も一緒に売っているから、全部を火付け道具の経費として考えるのも違う。
それでも、一個9リルで作って15リルで売れる。
しかも初日に三個。
「もう五個頼む?」
「まだ」
カイルが即答した。
「なんで?」
「残り二個あるでしょ」
「売れそうじゃん」
「売れてからでいいじゃん」
正しい。
非常に正しい。
「……じゃあ二個売れたら頼む」
「それならいいよ」
売れたからといって、一気に増やす必要はない。
でも、少なくとも失敗ではなさそうだ。
市場を出ようとして、俺はふと思った。
「そういえば、これ何て呼ぶ?」
「火付け道具」
「そのままじゃん」
「分かりやすいでしょ」
「もうちょっと商品っぽい名前欲しくない?」
「別に」
欲しい。
石鹸もカバンも、結局かなりそのままの名前で売っている。
でもせっかく新しく作ったんだから、何か名前をつけたい。
「考えとくか」
「変なのにしないでね」
市場を出ながら、残った二個の火付け道具を見る。
セルトで見つけた困りごとから作った物。
ちゃんと使えて。
ちゃんと金を払って買ってくれる人もいた。
これなら、もう少し続けてみてもよさそうだ。




