持ち歩いても、大丈夫?
試作品ができたからといって、すぐに旅人へ渡すわけにはいかない。
火を扱う道具だ。
使いにくいくらいならまだしも、荷物の中で油が漏れたり、勝手に蓋が外れたりしたら洒落にならない。
「というわけで、しばらく俺たちで使います」
「誰に説明してるの?」
「気分」
まずは部屋で何度も火をつけてみた。
一回でつく時もあれば、三回、四回と車輪を擦らないとつかない時もある。
それでも火打ち石から始めるよりは手軽だ。
「これくらいなら使える?」
カイルが聞く。
「使えるけど、もうちょっと一回でついてほしいな」
「贅沢じゃない?」
「便利にするために作ってるんだから、贅沢でいいんだよ」
とはいえ、そこだけなら大きな問題ではない。
次は蓋をかぶせて、普段使っている袋へ入れた。
歩く。
市場へ行く。
階段を上る。
わざと少し大きめに袋を揺らしてみる。
途中で何度か取り出して確認したが、油が漏れている様子はなかった。
「意外と大丈夫だな」
「まだ一日目でしょ」
「分かってるって」
カイルは慎重だ。
俺も今回は慎重にするつもりだけど。
◇ ◇ ◇
三日ほど持ち歩いてみると、問題も見えてきた。
一つ目は、やっぱり火のつき方だ。
何度か擦ればつくものの、火花が芯から外れることがある。
二つ目は油。
思っていたより減るのが早い。
「使ってないのに減ってない?」
カイルに言われ、俺も気になっていた。
毎日何度も試しているとはいえ、それだけでは説明しにくい。
蓋を外して匂いを確かめる。
「少しずつ飛んでるのかな」
「油が?」
「たぶん」
前世の物だって、ずっと燃料が残っていたわけじゃない。
でも細かい仕組みなんて覚えていない。
そして三つ目。
これが一番気になった。
「……蓋、ちょっと緩くなってない?」
「俺も思った」
何度も付けたり外したりしているうちに、最初より簡単に抜けるようになっていた。
普通に持ち歩く分にはまだ外れない。
でも旅人の荷物は、俺たちの袋よりずっと激しく揺れるはずだ。
「これは直した方がいいな」
「うん」
その日のうちに、試作品を工房へ持っていった。
◇ ◇ ◇
「三日で戻ってきたか」
職人は試作品を見るなり言った。
「壊してないですよ」
「じゃあ何だ?」
俺たちは使ってみて気になったところを順番に伝えた。
火花が芯から外れること。
油が思ったより早く減ること。
それから、蓋が少し緩くなってきたこと。
「なるほどな」
職人は蓋を何度か付け外ししてから、試作品を机へ置いた。
「蓋は留めた方がいいな」
「留める?」
「勝手に抜けないようにするだけだ。使う時には外せるようにな」
小さな留め具を付ければ、それほど大きくはならないらしい。
火花についても、前回より芯へ飛びやすい位置に火打ち部分を寄せる。
問題は油だった。
「完全に閉じ込めるのは難しいぞ」
「やっぱり?」
「芯が外に出てるからな」
火をつける以上、芯まで全部密閉するわけにはいかない。
そこで職人が、芯の周りまで覆うように蓋を少し深くすることを提案した。
「それで減らなくなる?」
「減りにくくはなるかもしれん」
十分だ。
最初から完璧な物を作れるとは思っていない。
「じゃあ、それでお願いします」
「また値段聞かないの?」
カイルが横から言う。
「あ」
職人が笑った。
「少しは成長したと思ったんだがな」
「今聞こうとしてました」
嘘ではない。
たぶん。
◇ ◇ ◇
改良された試作品を受け取ってから、さらに数日試した。
今度の蓋には小さな留め具が付いていて、指で外さない限り簡単には抜けない。
火花も前より芯へ当たりやすくなった。
一回で必ず、とはいかない。
それでも二、三回以内にはほとんど火がつく。
油の減りも、最初よりは遅くなった。
「これなら結構使えるんじゃない?」
カイルが火を消して蓋をかぶせる。
「俺もそう思う」
部屋の中だけではなく、外でも使った。
風のある場所でも試した。
袋に入れて何日も持ち歩いた。
もちろん、これで絶対に安全だと言い切れるわけじゃない。
火を扱う以上、使い方を間違えれば危ない。
それは普通の火打ち道具だって同じだ。
「そろそろ誰かに使ってもらう?」
「だな」
俺たちには便利に感じる。
でも、旅をしている人が同じように思うとは限らない。
前にカバンを試してもらった時も、実際に旅で使ったからこそ分かったことがあった。
今回も同じだ。
「今度は何日?」
「そんなに長くなくていいんじゃない? 火をつける道具だし」
「じゃあ、数日くらいか」
問題がないか確かめてもらって、使い勝手を聞く。
良さそうなら、次は値段を考える。
机の上に置いた小さな金属の道具を見る。
最初に作った時より、少しだけ形が整っている。
まだ商品じゃない。
でも、だいぶ近づいてきた。




