小さくまとめれば、作れる?
金属加工ができる職人は、思ったより簡単に見つかった。
セルトは商人だけじゃなく、旅人向けの道具を作ったり直したりする職人も多い。市場で何軒か聞いて回ると、小さな金属製品を扱っている工房を教えてもらえた。
「これを作りたいんですけど」
工房に入って、俺は紙に簡単な絵を描いた。
手のひらに収まるくらいの金属の容器。その中に燃える油を染み込ませて、上から芯を出す。そして、そのすぐ横で火花を飛ばして火をつける。
「……火を持ち歩くのか?」
職人が紙を見ながら言った。
「火そのものじゃなくて、火をつける道具です」
「油を入れて?」
「はい」
「漏れるぞ」
早い。
「そこをなんとか」
「なんとかって言われてもな」
職人は紙を手に取り、しばらく眺めた。
俺も細かい構造までは覚えていない。前世で似た物を見たり使ったりしたことはあるけど、分解して調べたことなんてなかった。
「油をそのまま入れるんじゃなくて、中に染み込ませておくのは?」
横からカイルが口を挟んだ。
「布とか?」
「あ」
そうだ。
前世の物も、中に何か詰まっていた気がする。
たぶん。
「それなら漏れにくくなる?」
俺が聞くと、職人は少し考えた。
「何を詰めるかにもよるが、液体のまま入れるよりはましだろうな」
「じゃあ、それで」
「まだ作るとは言ってない」
そうだった。
職人は紙の上に指を置いた。
「問題はこっちだ。どうやって火をつける?」
「火花です」
「どうやって?」
「こう……小さい車輪みたいなのを回して、何かに擦って火花を出す」
指で回す動きを見せる。
「何かって何?」
「そこを相談したくて」
職人が黙った。
隣でカイルまで黙った。
「ほとんど分かってないじゃない」
「形はなんとなく分かってる」
「形だけで火はつかないよ」
正論だった。
◇ ◇ ◇
それでも職人は追い返さなかった。
店に置いてあった火打ち道具を持ってきて、俺たちの前に並べる。
「わざわざ新しい火の出し方を考える必要はないだろ」
「これを小さくする?」
「そういうことだ」
火花を飛ばす方法自体は、すでにこの世界にある。
だったら、それを小さくして油の容器と一緒にすればいい。
前世で見た物とまったく同じ形にする必要なんてない。
「小さな油入れの横に、火打ち道具を付ける感じ?」
「まずはそれが一番簡単だろうな」
「それなら作れそう?」
「試すだけならな」
その言葉を聞いて、思わずカイルを見る。
カイルは先に職人へ聞いた。
「いくらです?」
俺より早い。
職人は必要になりそうな材料を考えながら、いくつか値段を挙げていった。
金属の小さな容器。
中に詰める布。
芯。
火花を出す部分。
それから、持ち運ぶ時に芯や火打ち部分を覆う蓋。
一個だけ作るなら材料より手間の方が大きいらしく、思っていたより安くはない。
「試作品一個だけお願いします」
俺が言うと、カイルがこっちを見る。
「いいの?」
「一個なら」
「値段聞いてから決めたのは偉いね」
「子供扱いするなよ」
同い年だろ。
◇ ◇ ◇
最初の試作品ができたのは、その数日後だった。
「……思ってたのと、だいぶ違うな」
手渡された物を、俺は指先で転がしてみる。
大きさは手のひらに収まるくらい。形は細長い金属の筒を少し平たく潰したような感じで、表面には叩いて形を整えた跡がそのまま残っている。
上には芯が少しだけ顔を出していて、その横には小さくした火打ち道具が取り付けられていた。歯の付いた小さな車輪を親指で擦ると、そのすぐ横へ火花が飛ぶ仕組みらしい。
前世で見たライターみたいに、綺麗に全部が中へ収まっているわけじゃない。
むしろ、小さな油入れの横に火打ち道具を無理やりくっつけた、と言った方が近い。
「こっちは?」
俺は一緒に渡された、短い金属の筒を持ち上げた。
「蓋だ。上からかぶせる」
試作品にすっぽりとかぶせると、さっきまで外に出ていた芯と火打ち部分がまとめて隠れた。
なるほど。
使う時は蓋を外して火をつける。使い終わったら蓋をかぶせて火を消し、そのまま荷物に入れる。
中には油を染み込ませるための布が詰められていて、そこから伸びた芯が上に出ている。
前世の物とは形も仕組みも少し違う。
でも、やろうとしていることは同じだ。
燃料と芯と、火花を出す道具。
今まで別々に持っていた物を、手のひらに収まる一個の道具にまとめた。
「おお……」
思わず声が漏れる。
「まだ喜ぶな。火がつくか分からん」
職人が油を少量染み込ませる。
蓋をかぶせて少し待ち、漏れていないことを確かめてから、もう一度外した。
「やってみろ」
「俺?」
「お前が欲しいって言ったんだろ」
渡された試作品を持つ。
親指で車輪を擦る。
カッ。
火花は出た。
でも、芯にはつかない。
「……もう一回」
カッ。
また火花。
つかない。
三回目。
カッ。
一瞬だけ芯の近くが明るくなった。
「あ」
消えた。
「惜しい」
カイルが覗き込む。
職人は試作品を受け取ると、火花が飛ぶ位置を確認した。
「遠いな」
「近づければいける?」
「たぶんな」
その場で火打ち部分の位置を少し調整する。
もう一度、俺が試す。
カッ。
今度は火花が芯のすぐ近くへ飛んだ。
次の瞬間。
小さな火がついた。
「おお!」
「ついたね」
本当に火がついている。
薪もいらない。
火を移すための物を、その場で用意する必要もない。
手の中の小さな道具だけで、火をつけられた。
「消す時は?」
カイルに言われて、俺は蓋を上からかぶせた。
少しして外す。
火は消えていた。
「……これだよ」
前世の物とは全然違う。
一回で火がつくとも限らないし、見た目だってまだ不格好だ。
それでも、持ち歩ける。
必要な時に取り出して、その場で火をつけられる。
「これ、旅人に使ってもらいたい」
「もう?」
「俺たちだけで試しても分からないだろ」
カイルは少し考えてから頷いた。
「でも、いきなり渡すのは駄目だよ」
「分かってる」
火を扱う物だ。
まずは俺たちで何度も使ってみる。
荷物に入れても油が漏れないか。
揺らしても壊れないか。
何回くらい火をつけられるのか。
蓋をした状態で安全に持ち歩けるのか。
そこまで確かめてからだ。
完成したわけじゃない。
でも、作れることは分かった。
セルトに来て初めて。
この町で見つけた困りごとから、新しい商品になりそうな物が形になった。




