場所を変えたら、売れる?
次に露店を出す日。
俺たちはいつもより少し早く市場へ向かった。
目的は、前に教えてもらった東側の場所だ。空いていれば一日6リル。今までより2リル高い。
「空いてます?」
管理人を見つけて聞くと、すぐに頷いた。
「ああ。今日は使えるぞ」
「じゃあ、お願いします」
二人の商売用の金から6リルを払い、場所を借りる。
持ってきたのは石鹸と、旅人に使ってもらったカバンだ。
カバンは売り物ではないので、見本として置いておく。
「やっぱり多いな」
準備をしながら周りを見ると、今までの場所とは明らかに人の流れが違った。
市場へ入っていく人だけじゃない。
買い物を終えて出ていく人や、大きな荷物を持った旅人も頻繁に通る。
「これで売れなかったら?」
「2リル損する」
「そうじゃなくて」
「端に戻る」
場所が良ければ絶対に売れる、なんてことはない。
そのための一回だ。
◇ ◇ ◇
店を広げてしばらくすると、最初の客が立ち止まった。
手に取ったのは石鹸だ。
「これ、宿で見たな」
「どこの宿です?」
聞いてみると、最初に石鹸を置いてもらった宿だった。
そこで使ったわけではないらしいが、売られているのを見て覚えていたらしい。
説明すると、一個買っていった。
その後も人が途切れない。
全員が俺たちの前で止まるわけじゃないけど、商品を見ていく人は明らかに増えた。
そして昼前。
「その背負ってるやつは?」
一人の旅人がカバンを指差した。
「これは見本です。荷物を背負って運ぶための物で」
実際に使ってもらった物だと説明し、背負ってもらう。
「へえ。両肩か」
「今使ってる物、見せてもらってもいいです?」
旅人が使っていたのは、肩から下げる大きめの袋だった。
荷物が多い日は肩が痛くなるらしい。
「これはいくらだ?」
「新品なら25リルです。ただ、今ここにあるのは売り物じゃないので、注文になります」
「すぐ受け取れるのか?」
「それは……少しかかります」
リーネでダリオに作ってもらうなら、すぐには渡せない。
結局、その人は注文まではしなかった。
ただ、興味はかなりありそうだった。
「やっぱり、ここだとカバン見る人多いね」
客が離れてからカイルが言った。
「旅人多いからな」
石鹸だけなら、どこで売っても大きな差はないかもしれない。
でも旅で使う物なら、この場所の方が相性は良さそうだ。
その後も石鹸は少しずつ売れた。
カバンについて聞いてくる人も何人かいたが、その日の注文はゼロ。
それでも、前の場所ではそもそも聞かれること自体が少なかった。
◇ ◇ ◇
夕方。
片付けをしながら、今日の結果を確認する。
「石鹸、八個」
「前は六個だったね」
「場所代は2リル増えた」
石鹸二個分の売上は10リル。
材料代を考えても、場所代が増えた分よりは残る。
もちろん一日だけで決めるのは早いけど、少なくとも6リル払った意味はあった。
「次もここ?」
「空いてたら」
「毎回じゃなくて?」
「商品少ない日に6リル払っても仕方ないだろ」
売る物が揃っている日。
旅人向けの商品を見せたい日。
そういう時だけここを使えばいい。
毎日同じ場所に立つ必要はない。
◇ ◇ ◇
それから数週間。
俺たちは、少しずつ売り方を変えていった。
石鹸を多めに用意できた日は東側の場所を借り、それ以外の日は無理に露店を出さない。
宿に置いた石鹸も売れ続けた。
新しく置いてもらった宿でも少しずつ減り、最初の宿からは追加を頼まれるようになった。
だからといって、置いてくれる宿を片っ端から増やすことはしなかった。
半年後。
俺たちがセルトを離れたあとまで続けられるか分からないからだ。
輸送についても調べ続けた。
リーネ方面へ向かう商人は何人か見つかり、荷物をまとめれば運んでもらえることも分かった。
ただ、誰に受け取ってもらうか。
代金をどう戻すか。
そこまでは、まだ決まっていない。
「最初より、だいぶ慣れたな」
ある日の夕方、露店を片付けながら俺が言う。
「市場に?」
「セルトで商売するのに」
最初は市場の端に商品を並べて、一日中待っていた。
今は違う。
露店に向いている物は露店で売る。
宿に置いた方が売れる物は置いてもらう。
必要なら注文を取る。
売る場所も、商品に合わせて選ぶ。
「でもさ」
カイルが残った石鹸を箱へ戻しながら言った。
「結局、新しい物はまだ見つかってないよね」
「……そうなんだよ」
売り方は良くなった。
石鹸も売れている。
カバンに興味を持つ旅人もいる。
でも、セルトに来てから新しく作った商品は、まだ石鹸くらいだ。
しかも石鹸は元々リーネで売っていた物を、こっちでも作れるようにしただけ。
「そろそろ一個くらい欲しいな」
「無理に作るの?」
「無理には作らない」
そこは前より学んだ。
欲しいから作るんじゃない。
困っている人がいて、それを俺の知っている何かで楽にできそうなら作る。
この数週間で、旅人からも色々な話を聞いた。
荷物。
雨。
食事。
水。
夜。
困ることはいくらでもある。
その中には、何度も聞いた話もあった。
「一個、気になってるのあるんだよな」
「何?」
俺は少し前に聞いた、ある旅人の話を思い出した。
「まだ作れるか分からない」
「じゃあ?」
「明日、ちょっと探しに行こう」
セルトに来てから、売る方法ばかり考えていた。
そろそろまた。
作る方もやってみたい。




