もう少しいい場所、空いてません?
市場の場所について聞くため、俺たちはいつもの管理人のところへ向かった。
最初に場所を借りた時にも話した人だ。
市場の端を4リルで借りてから、何度か顔を合わせている。俺たちが石鹸を売っていることも、たぶん覚えているはずだ。
「すみません、ちょっといいですか?」
「ん? 今日は売らないのか?」
「今日は別の用です」
管理人は手元の紙から顔を上げた。
「場所のことで聞きたいんですけど、もう少し人通りの多いところって空いてません?」
「今の場所じゃ駄目なのか?」
「駄目ってほどじゃないです。何回か売ってみて、もう少し人が通るところでも試してみたくて」
そう言うと、管理人は少し考えてから市場の方へ目を向けた。
「中央に近いところならあるにはあるぞ」
「いくらです?」
「一日9リル」
「高っ」
思わず声が出た。
今の場所の倍以上だ。
隣でカイルが小さく息を吐く。
「石鹸だけなら無理だね」
「だな」
一日六個売れた日でも、売上は30リルだった。
材料代もかかる。
そこから場所代を9リル払ったら、今より人が増えたとしても、それだけで得になるとは限らない。
「中央はずっとそのくらいなんですか?」
「場所による。もっと高いところもあるぞ。それに、いい場所は長く使ってる商人が優先だ」
「今日から借りたいですって言っても無理?」
「空いてれば貸すが、毎回同じ場所を取れるとは思わない方がいいな」
なるほど。
金さえ払えば好きな場所を使えるわけでもないらしい。
「じゃあ、今の場所と中央の間くらいってないです?」
俺が聞くと、管理人が笑った。
「注文が細かいな」
「できれば安くて、人が多くて、広くて――」
「そんな場所が空いてたら、とっくに埋まってる」
ですよね。
「でも、お前たちが売ってるのは石鹸だったな」
「石鹸と、あとはカバンとかです」
「旅人が買いそうな物か」
「そういう物を増やそうとは思ってます」
管理人は立ち上がると、俺たちに付いてくるよう手で示した。
市場の中央ではなく、外側へ向かって歩いていく。
今まで俺たちが使っていた場所とは反対側だ。
「こっちは?」
「東側の入口だ。馬車を降りた連中や、宿の多い通りから来る客はここを通る」
確かに、人はそれなりにいる。
中央ほど混んではいない。
でも、俺たちが使っている端の場所より明らかに人通りが多かった。
荷物を背負った人も多い。
「旅人、多くない?」
「多いね」
カイルも周りを見ている。
「ここって、いくらです?」
「一日6リルだ」
6リル。
今より2リル高い。
でも9リルよりはずっと試しやすい。
「空いてるんですか?」
「毎日じゃない。この辺は数日だけ使う商人も多いからな」
「じゃあ、使いたい日に空いてたら?」
「朝に聞きに来い。空いてれば貸す」
それなら都合がいい。
毎日ここを確保する必要はない。
商品が揃った日だけ借りればいい。
「どうする?」
カイルに聞く。
「まだ借りないよ」
「分かってるって」
「今、一瞬借りようとしたでしょ」
「値段聞いただけだよ」
半分くらいは借りようとしていた。
管理人に礼を言って、その場を離れる。
すぐには帰らず、俺たちは少し離れたところからその場所を見ることにした。
どんな人が通るのか。
立ち止まる人はいるのか。
荷物を持った旅人が本当に多いのか。
しばらく見ていると、中央へ向かう人だけではなく、市場で買い物を終えて宿の方へ戻る人も通っていた。
「悪くないな」
「今のところよりは人多いね」
「しかも旅人が多い」
石鹸。
カバン。
これから探すつもりの旅で使える物。
売るなら、中央の人混みよりこっちの方が合っているかもしれない。
「次に露店やる時、ここ使ってみない?」
「6リルで?」
「一回だけ」
カイルは少し考えてから頷いた。
「一回ならいいんじゃない」
よし。
これで次に露店を出す場所は決まった。
ただ、場所を変えるだけで売れるとは思っていない。
同じ物を並べて、今までより2リル多く払って、売れる数が変わらなかったら意味がない。
「比べたいな」
「何を?」
「今の場所と、ここ」
今までの端の場所では、ある程度売った。
次は6リルの場所で同じように売ってみる。
人通りが増えた分、本当に売上も増えるのか。
「また数字見るの?」
「見ないと2リル多く払う意味ないだろ」
「それならいいけど」
市場の場所だって、安ければいいわけじゃない。
高ければいいわけでもない。
売れる場所に、売れる物を持っていく。
そのためなら、少しくらい高くてもいい。
「じゃあ次は、石鹸持ってここだな」
「カバンも持ってく?」
「持っていこう。売るっていうより、見せるために」
今あるのは、旅人に使ってもらった方のカバンだ。
新品として売るつもりはないけど、注文を取るための見本には使える。
せっかく旅人が多い場所なんだから、石鹸だけ売って帰るのはもったいない。
新しい商品は、まだ見つかっていない。
それでも、売り方の方は少しずつ変えられる。
次の露店は、今までと同じにはならなそうだ。




