商品だけ、送れる?
翌日。
俺とカイルは、市場ではなく商人や荷運びの馬車が集まる通りへ向かった。
調べたいのは、リーネからセルトまで荷物だけを運んでもらう方法だ。
俺たちが半年後に帰ったあとも石鹸を売るなら、商品だけがセルトへ届く仕組みが必要になる。
「でも、こっちで聞いて分かるの?」
歩きながらカイルが聞いてきた。
「セルトからリーネ方面に行く人がいるなら、逆にこっちへ来る人もいるだろ?」
「まあ、そうだけど」
「まずは、どうやって頼むのか知りたい」
料金もそうだし、どれくらいの量から運んでもらえるのかも分からない。
セルトへ来る時はハンスさんに頼んで、商人の荷物と一緒に運んでもらった。
でも今回は、一度だけじゃない。
できれば俺たちがいなくなったあとも使える方法を探したい。
◇ ◇ ◇
最初に話を聞いたのは、荷物を積んでいた商人だった。
リーネという町の名前を出すと、少し考えてから首を振る。
「俺はそっちには行かんな」
「じゃあ、リーネから来る商人って知りません?」
「直接は知らん。ただ、途中の町までなら行くやつはいるぞ」
「途中?」
「荷物だけなら、そこで別の馬車に載せ替えることもある」
そんな方法もあるのか。
俺は勝手に、リーネからセルトまで同じ馬車で運ぶものだと思っていた。
「それって高くなりません?」
「荷物によるな。小さい荷物一つだけ頼むなら割高だ」
やっぱりそこか。
石鹸十個だけ。
それをわざわざ二日かけて運んでもらう。
考えてみれば安いはずがない。
「ある程度まとめた方がいい?」
「そりゃそうだ。こっちだって馬車に空きがあるなら載せたいからな」
話を聞いて礼を言い、次へ行く。
二人目。
三人目。
聞く相手によって少しずつ話が違った。
自分の荷物と一緒なら小さな荷物でも載せるという商人。
決まった町の間だけ荷物を運んでいる人。
荷物の大きさや重さで料金を決める人。
「思ってたより色々あるな」
「誰に頼んでも同じじゃないんだね」
「値段も結構違うし」
紙に聞いた内容を書きながら、さらに何人かに話を聞いた。
その中で、ようやくリーネの近くまで定期的に行くという商人が見つかった。
「リーネまで?」
「毎回じゃないがな。近くの町まで行って、荷物があれば寄ることもある」
「こっちに戻ってくる時、荷物を運んでもらうことってできます?」
「何を運ぶ?」
「石鹸です」
「どれくらいだ?」
そこで困った。
まだ決めていない。
「例えば十個くらいなら?」
商人が笑った。
「それだけなら、儲けなくなるぞ」
ですよね。
「じゃあ二十個?」
「まだ少ないな」
「三十個?」
「箱にまとめて、それくらいなら話にはなる」
ようやく話になった。
大体の大きさを伝えて、料金を聞く。
正確な金額は実際の荷物を見ないと決められないらしい。
ただ、十個を一箱だけ送るより、三十個や四十個をまとめた方が、一個あたりの運賃はかなり下がる。
「毎回同じ量じゃなくてもいいんですか?」
「空き次第だな。俺が無理なら、知ってるやつを紹介することもできる」
「なるほど」
定期便みたいに、決まった日に必ず届くわけではない。
でも、商品を送る方法自体はありそうだ。
商人と別れてから、俺たちは近くの空いている場所で紙を広げた。
「三十個か」
「今の宿だけなら多いね」
「多い」
最初の宿で五日ほどで三個。
新しく置いてもらった宿がどれくらい売れるかは、まだ分からない。
今の売れ方なら、一度に三十個送っても余る可能性がある。
「じゃあ、やっぱり無理?」
「いや……」
石鹸だけなら。
そこで、昨日考えたことを思い出す。
「箱の中、全部石鹸じゃなくてもいいよな」
「カバンも入れる?」
「注文があれば」
石鹸。
カバン。
これから増えるかもしれない別の商品。
同じリーネから送る物なら、一緒に運んでもらえる。
「石鹸だけで送料を払う必要ないんじゃない?」
「でもカバンは毎回注文があるわけじゃないよ」
「今はな」
まだ二種類しかない。
それでも、商品が増えれば話は変わる。
一つの商品だけでは少なすぎても、何種類かまとめれば馬車に載せる量になるかもしれない。
「じゃあ、半年後までに送れる商品を増やす?」
「それが目的になったら違わない?」
カイルに言われて止まる。
確かに。
荷物を増やすために商品を作るのは逆だ。
「売れる物が増えたら、まとめて送る」
「うん。その方がいいと思う」
順番を間違えるところだった。
まず、売れる物がある。
それを運ぶ。
運ぶために売れない物まで増やしたら意味がない。
「じゃあ今は、石鹸がどれくらい売れるかもう少し見るか」
「それと、送るなら誰が受け取るの?」
「あ」
また一個増えた。
俺たちがいなくなったあと、セルトへ石鹸が届く。
でも、その箱を誰かが受け取らなければならない。
宿ごとにリーネから直接送るのか。
一か所で受け取って分けるのか。
金はどうやって払ってもらうのか。
「……商品送れば終わりじゃないんだな」
「当たり前でしょ」
「やってみると色々出てくるな」
それでも、無理ではなさそうだ。
リーネからセルトへ商品だけを送る方法はある。
量をまとめれば、一個あたりの運賃も下げられる。
あとは、実際にいくらかかるのか。
誰が受け取るのか。
そして、送料を払っても利益が残るのか。
そこまで分かって初めて、俺たちが帰ったあとも続けられる。
「次、何調べる?」
カイルに聞かれて、俺は紙を畳んだ。
「その前に、市場の場所も聞きに行こう」
「そっちもあったね」
半年後のことは大事だ。
でも俺たちは、まだしばらくセルトにいる。
その間に売れる物まで、端っこで売り続ける必要はない。
今度は、もう少し人の通る場所がいくらなのか。
そっちもちゃんと調べてみよう。




