次は、何を探そう?
石鹸を置いてくれる宿が二軒になってから、俺たちは少しだけ時間に余裕ができた。
毎日市場に立つ必要はないし、石鹸作りも混ぜる道具のおかげで前より楽になっている。
売る日と作る日。
それ以外の日は、この町を見るために使える。
「で、今日は何する?」
朝飯を食べながらカイルに聞くと、少し考えてから答えた。
「市場?」
「また?」
「次に何するか探すんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど」
セルトに来てから、市場には何度も行っている。
でも、まだ見ていない物もあるし、見る目的も少しずつ変わってきた。
最初は、何が売れそうか。
その次は、何が足りないか。
今は――。
「使いにくそうな物、探してみる?」
「使いにくそうな物?」
「カバンみたいなやつ。売れてはいるけど、もうちょっとこうだったら便利なのにって物」
カバンだって、袋そのものがなかったわけじゃない。
荷物を運ぶ物は元々あった。
そこから背負いやすくしたり、実際に旅で使ってもらったりして、今度は外側に小さな収納を付ける話まで出ている。
「ない物を探すより、ありそうだな」
「それなら市場だけじゃなくて、使ってる人も見た方がいいね」
「じゃあ行くか」
今日は商品を持たない。
純粋に見て回るだけだ。
財布は持っていくけど。
「何?」
「別に」
カイルがこっちを見ていた。
◇ ◇ ◇
市場へ着くと、いつもの端の方から歩き始めた。
俺たちが借りている場所は今日も別の商人が使っている。
少し先では食べ物を売っていて、その隣には古い道具が並んでいた。
「そういえばさ」
俺は人の多い方を見る。
「中央の方って、場所代いくらなんだろ」
「昨日も気にしてたね」
「端で4リルだろ?」
「うん」
市場の中央へ近づくほど人通りは増えていく。
当然、あっちの方が売りやすそうだ。
今までは売れるかどうかも分からなかったから、一番安い端で十分だった。
でも、石鹸は一日に六個売れた。
カバンも実際に一個売れている。
これから商品が増えるなら、少しくらい場所を変えてもいいかもしれない。
「あとで管理してる人に聞いてみる?」
「値段だけね」
「分かってるよ」
「聞いたらそのまま借りそうだから」
信用がない。
いや、今までの俺を考えると仕方ないか。
中央へ向かいながら、店だけではなく客の方も見る。
荷物を抱えた人。
買った物を袋に詰め直している人。
何度も立ち止まって荷物を置いている旅人。
見ていると、意外と気になるところがある。
「なあ、あの人」
「どの人?」
「鍋持ってる人」
旅人らしい男が、小さな鍋を荷物の横に括り付けようとしている。
紐を結んでは外し、位置を変えてまた結ぶ。
しばらくしてようやく固定できたと思ったら、歩き出した途端に鍋が脚へ当たっていた。
「邪魔そうだな」
「でも、持っていかないと困るんじゃない?」
「だよな」
旅をするなら必要。
でも、運ぶには邪魔。
そういう物は結構あるのかもしれない。
少し歩くと、今度は荷物を地面に広げている人がいた。
袋の奥から何かを探しているらしく、中身を次々と外へ出している。
「カバンの時と似てるな」
「取り出しにくい?」
「たぶん」
ただ大きな袋に全部入れれば、持っていくことはできる。
でも、使いやすいとは限らない。
「旅人向け、もう少し見てみるか」
「うん」
市場だけでなく、宿が集まっている通りや町の出入口も見てみることにした。
◇ ◇ ◇
昼頃まで歩いて、部屋へ戻る。
机の上に紙を広げ、気になったことを書き出した。
荷物を括る紐。
小物を入れる袋。
水入れ。
鍋。
雨除けの布。
どれも、すでにある物だ。
「新しい物、一個もないな」
「新しい物を探してたんだっけ?」
「いや」
そうだった。
使いにくそうな物を探していた。
だったら、これでいい。
「でも全部やるのは無理だな」
「当たり前でしょ」
「どれがいいと思う?」
「その前にさ」
カイルが紙を見ながら言った。
「俺たち、あと半年ずっとここにいるわけじゃないよね」
「うん」
正確には、もう少し減っている。
セルトで試してみるために来ただけで、この町に住み続ける予定はない。
「石鹸、置いてくれる宿増やしてるけど、帰る時どうするの?」
「あ」
言われて、手が止まった。
石鹸は消耗品だ。
カバンなら一度買えば長く使えるけど、石鹸は使えばなくなる。
今は俺たちがここで作って補充している。
でも半年後。
俺たちがリーネへ戻ったら?
「……作れないな」
「でしょ」
せっかく売れる場所を増やしても、商品が届かなければ終わる。
今の宿だけなら「半年で終わりです」でもいいのかもしれない。
でも、この先さらに何軒も増やしてから止めるのは違う気がする。
「じゃあ、これ以上増やす前に考えた方がいいか」
「俺もそう思う」
どうするか。
セルトで誰かに作ってもらう。
リーネから運ぶ。
他にも方法はあるかもしれない。
「リーネから持ってくるのは、最初にやったよな」
「十個持ってきたね」
「あれは俺たちが持ってきただけだけど」
俺たちがいなくても運んでもらえればいい。
ベルクさんみたいに町と町を移動する商人はいる。
荷物を運ぶ商売だってある。
セルトへ来る時にも、半年分の荷物を全部自分たちで抱えてきたわけじゃない。
「商人に運んでもらう?」
「お金かかるよ」
「そこだよな」
送料を払ったら利益がなくなるなら意味がない。
でも、毎回十個だけ送るのと、他の荷物と一緒にある程度まとめて運ぶのでは違うかもしれない。
「これ、調べてみよう」
俺は紙の端に書き足した。
――リーネからセルトまで、荷物を運ぶといくらか。
カイルがそれを見て頷く。
「石鹸だけ?」
「いや」
そこで、少し考える。
もし安く商品を運べるなら。
「カバンも送れるよな」
「注文があればね」
「他の商品も」
リーネからセルトへ。
俺たちが毎回一緒に来なくても、商品だけを送る。
それができれば、半年後に俺たちがいなくなっても商売を続けられる。
「……これ、結構大事じゃない?」
「まず値段調べてからね」
「分かってる」
まだ何も決まっていない。
運ぶ金が高すぎるかもしれない。
そもそも少ない荷物を定期的に運んでくれる相手が見つからないかもしれない。
でも、調べる価値はある。
それと、もう一つ。
「市場の場所も聞いてみよう」
「そっちも?」
「店を借りるほどじゃないけど、売る日はもう少しいい場所でもよくない?」
半年後にはこの町を離れる。
だったら店を構える必要はない。
でも、ここにいる間までずっと市場の端にいる必要もない。
商品を試す日だけ、少し人通りの多い場所を借りる。
売れると分かった物は、宿や店に置いてもらう。
そして俺たちが帰ったあとも売れる物は、リーネから送れるようにする。
「なんか、やること増えたな」
「空いた時間で何するかって話だったのにね」
「暇よりいいだろ」
次の商品を探すつもりで市場へ行っただけだった。
それなのに、新しい商品より先に調べることが二つ増えた。
市場の、もう少しいい場所。
それから、俺たちがいなくても商品を運べる方法。
半年後に帰るなら。
帰った後のことも、そろそろ考えた方がよさそうだ。




