置いておけば、売れる?
石鹸を置いてくれる場所が二つできた。
宿に三個。
雑貨屋にも三個。
だからといって、翌日に「売れました?」と聞きに行くのも落ち着きがない。
「何日くらい待つ?」
「三日くらい?」
「短くない?」
「じゃあ五日」
「なんでそんなに早く結果知りたいの?」
「売れてるか気になるだろ」
カイルには呆れられたけど、気になるものは仕方ない。
とはいえ、俺たちが店の前で待っていても売れるわけじゃない。
しばらくは様子を見ることにした。
◇ ◇ ◇
それから五日。
俺たちは石鹸を作りながら、何度か市場にも出た。
毎日ではない。
ある程度数ができた日に店を出して、残った日は市場を見たり、石鹸を置けそうな店を探したりする。
宿と雑貨屋以外にも二軒ほど話をしてみたけど、そこは断られた。
一軒は似た商品を扱っていて、もう一軒は「売れるか分からない物を置く場所はない」と言われた。
まあ、全部うまくいくとは思っていない。
「そろそろ見に行く?」
五日目の昼。
カイルの方から言ってきた。
「俺が言おうと思ってた」
「朝から何回も宿の方見てたから」
「見てないけど」
「見てたよ」
……見てたかもしれない。
まずは宿へ向かう。
主人は俺たちを見ると、すぐに棚の方を指した。
「ちょうどよかった。あれ、もうないぞ」
「え?」
置いていた場所を見る。
三個あったはずの石鹸が、一つもない。
「全部売れたんですか?」
「ああ」
「いつ?」
「最後の一個は昨日だったかな」
売れた。
しかも五日経つ前に三個全部。
主人から代金を受け取る。
一個5リルで三個。
そこから宿の取り分が一個1リルだから、俺たちに入るのは12リル。
材料費は三個で約4.2リル。
俺たちがここに立って売ったわけでも、場所代を払ったわけでもない。
それでも利益は残る。
「また置くか?」
「いいんですか?」
「売れるならな」
それはこっちも同じだ。
「じゃあ、今度は五個でもいいです?」
「それくらいならいいぞ」
いきなり十個、二十個と増やす必要はない。
三個売れた。
だから次は五個。
それでまた様子を見ればいい。
宿を出ると、俺はカイルを見る。
「いいじゃん」
「まだ雑貨屋があるよ」
「そっちも全部売れてたりして」
「どうだろうね」
少し期待しながら、今度は雑貨屋へ向かった。
◇ ◇ ◇
「一個だな」
店主の答えは短かった。
「一個?」
「一個」
三個置いたうち、売れたのは一個。
残り二個は棚に並んでいる。
宿とは全然違う。
「何か言ってた人いました?」
「何人か手には取ってたぞ。ただ、買ったのは一人だ」
売れないわけではない。
でも、宿ほどではない。
店主から一個分の代金を受け取る。
俺たちの取り分は4リル。
「追加は?」
「いや、まだいいです」
残り二個がある。
まずはそれが売れるか見た方がいい。
店を出て、二人で歩く。
「同じ石鹸なのにな」
俺が言うと、カイルが頷いた。
「来る人が違うからじゃない?」
「やっぱり宿の方が合ってる?」
「旅人なら、持ってきた石鹸がなくなったり、途中で必要になったりするかもしれないし」
雑貨屋なら、町に住んでいる人も来る。
いつも使っている物があれば、わざわざ知らない石鹸を買う必要はない。
宿に泊まる旅人とは、少し事情が違うのかもしれない。
「じゃあ宿を増やす?」
「他の宿にも聞いてみる?」
「それだ」
セルトには宿が一軒しかないわけじゃない。
旅人が多い町なんだから、当然いくつもある。
最初に置いてもらった宿で三個全部売れたなら、別の宿でも試す価値はある。
「次は俺とカイル、どっちが行く?」
「別々に一軒ずつ行けば?」
「あ、それでいいか」
石鹸の条件はもう決めてある。
一個5リル。
相手の取り分は1リルまでなら、その場で決めていい。
それなら二人で同じ宿へ行く必要もない。
翌日、俺たちは別々の宿へ話をしに行った。
俺の方は断られた。
すでに別の石鹸を置いているらしい。
カイルの方は――。
「三個なら置いてくれるって」
「おお」
また一軒増えた。
最初の宿には五個。
新しい宿には三個。
雑貨屋には残り二個。
市場へ出す分もある。
石鹸を作る量も、最初より少し増やした。
混ぜる道具を作っておいてよかった。
それでも、作れば作るほど売れるとは思わない。
宿でも売れなくなるかもしれないし、新しい宿では一個も売れないかもしれない。
だから今は、少しずつ増やす。
作る場所はできた。
売る場所も増えてきた。
そして何より――。
「俺たち、店出してないのに売れてるな」
「そのために置いてもらってるんでしょ」
「そうなんだけどさ」
リーネではハンスさんの店が最初からあった。
セルトでは、自分たちで売る場所を探している。
同じ石鹸を売っているのに、やっていることは少し違う。
市場に立っていない間にも商品が売れる。
その時間で、別のことができる。
半年ここで商売するなら、こっちの方がずっといい。
問題は――。
空いた時間で、次に何をするかだ。




