一日で、何個売れる?
混ぜる道具が完成してから、石鹸作りはかなり楽になった。
大きな型にまとめて流し込み、固まったら切り分ける。
混ぜる作業も、前みたいに棒を持って延々とかき回す必要はない。
これなら、必要な分を作りながら売っていけそうだ。
問題は――売り方だった。
「今日は何個持っていく?」
市場へ向かう準備をしながら、カイルが聞いてきた。
俺は箱に並んだ石鹸を見る。
「十個くらい?」
「全部?」
「いや、まだある。今日は十個で試したい」
毎日4リル払って、一個や二個ずつ売る。
それでは場所代が重すぎることは、最初の一週間で分かった。
だったら出店する日を減らして、その日にまとめて売ればいい。
一日に何個売れるのか。
今日はそれを確かめる日だ。
「何個売れればいいの?」
カイルに聞かれて、少し考える。
今作っている石鹸は、一個あたりの材料費がおよそ1.4リル。
5リルで売れば、一個につき3.6リル残る。
「二個売れば、材料費と場所代を引いても一応プラス」
「じゃあ二個?」
「いや、それじゃ毎日出してた時とあんまり変わらないだろ」
せっかく出店する日を減らすんだ。
できれば、もっとまとめて売りたい。
「五個くらい売れたら嬉しいな」
「十個持っていって?」
「半分だぞ。十分じゃない?」
「まあ、それなら」
目標は五個。
売上なら25リル。
材料費は約7リルで、場所代が4リル。
そこまで売れれば、一日出店する意味もかなり出てくる。
俺たちは十個の石鹸を持って市場へ向かった。
◇ ◇ ◇
前と同じ市場の端。
久しぶりに場所を借りて石鹸を並べる。
ただ、最初の一週間とは少し違う。
「これ、前にも売ってたやつ?」
店を広げてしばらくすると、通りかかった女性に声をかけられた。
「そうです。石鹸です」
「また来たんだ」
どうやら前に見たことがあるらしい。
買った人ではなかったけど、実演していたのを覚えていたようだ。
「今日はこれだけ?」
「今は石鹸が中心ですね。カバンもあるんですけど、一個は旅人に試してもらってます」
「旅人に?」
「実際に旅で使ってもらって、使いにくいところがないか見てもらってるんです」
女性は少し興味を示したものの、今日は石鹸だけを一個買っていった。
まず一個。
幸先は悪くない。
その後も、以前と同じように使い方を説明しながら売っていく。
一度実演を見たことがある人もいれば、初めて見る人もいる。
昼を過ぎた頃には、三個売れていた。
「あと二個」
俺が箱を見ながら言うと、カイルが呆れたようにこちらを見る。
「別に五個売れなかったら失敗ってわけじゃないでしょ」
「分かってる。でも目標決めたら届きたいだろ」
「そういうもの?」
「そういうもの」
午後になると、人通りが少し変わった。
旅人らしい人が増え、荷物を持った商人も通る。
その中の一人が石鹸の前で足を止めた。
説明すると、少し悩んでから一個買った。
四個。
「あと一個」
「数えるね」
「目標だからな」
そして夕方近く。
以前石鹸を買ってくれた客が、売り場の前で立ち止まった。
「あ、今日はいるんだ」
「前に買ってくれましたよね?」
「使ったよ。もう一個もらえる?」
「もちろんです」
五個目。
思わずカイルを見る。
「五個」
「見てたから分かるよ」
「目標達成」
「はいはい」
結局、その日はそこからもう一個売れた。
持ってきた十個のうち、売れたのは六個。
売上は30リル。
材料費は約8.4リル。
そこから場所代4リルを引いても、17リル以上は残る。
混ぜる道具に使った22リルまでは、まだ取り返していない。
でも、毎日店を出していた頃よりずっといい。
「これなら、毎日出さなくてもよさそうだな」
片づけながら俺が言うと、カイルも頷いた。
「何日か分をまとめて売る方がいいかもね」
「場所代も減るしな」
「店を出さない日は、他のこともできるし」
その言葉で、俺も市場の方を見る。
石鹸を作る。
売る。
それだけを半年続けるためにセルトへ来たわけじゃない。
この町で何が売れているのかも、まだ全部見たわけじゃない。
それに、石鹸だって市場で直接売る以外の方法があるかもしれない。
「じゃあ次に店を出さない日、別々に動いてみる?」
「何するの?」
「一人は市場を回る。もう一人は、石鹸を置いてくれそうな店を探す」
カイルが少し考える。
「売り込み?」
「そう。毎回俺たちが4リル払って売らなくても、置いてくれる店があれば楽だろ?」
リーネでは、ハンスさんの店に置いてもらっていた。
なら、セルトでも同じような売り方ができるかもしれない。
「どっちが売り込みする?」
「交代でいいんじゃない?」
「それならいいか」
市場を見るのも、店に話をしに行くのも、どちらか一人の仕事にする必要はない。
次は役割を入れ替えればいい。
俺たちは残った石鹸を箱に戻した。
店を出す日。
店を出さずに動く日。
ようやく少しずつ、毎日市場に座っているだけじゃない商売の形が見えてきた。




