旅人って、何に困る?
旅人に話を聞く。
そう決めたものの、いざやってみると一つ問題があった。
「……誰に聞く?」
「旅人」
「それは分かってる」
市場を歩いている人の中には、セルトに住んでいる人もいれば、商売で来ている人もいる。
見ただけで分かる人もいるけど、全員がそうじゃない。
「宿で聞いた方が早くない?」
カイルの一言で解決した。
俺たちは店番を交代しながら、まず自分たちが泊まっていた宿へ向かった。
宿の主人に事情を話すと、泊まっている客の邪魔をしないなら構わないと言ってくれた。
最初に話を聞けたのは、二人組の男だった。
荷物を見る限り、徒歩で旅をしているらしい。
「旅をしてて困ることですか?」
「そりゃ色々あるぞ」
「例えば?」
「雨」
早い。
「荷物が濡れるし、道は悪くなるし、火も使いづらくなる」
隣の男も頷く。
「俺は靴だな。長く歩いてるとすぐ傷む」
「荷物が重いのも嫌だな」
「お前は持ちすぎなんだよ」
「必要だから持ってんだ」
いきなり意見が割れた。
でも、話を聞いていると面白い。
俺たちが思っていた小さい鍋についても聞いてみた。
「小さい鍋?」
「一人分くらいの」
「俺はいらんな。二人なら一個あればいい」
「俺は欲しいけどな。軽いなら」
やっぱり全員が欲しいわけじゃない。
一人の話だけで作らなくてよかった。
次に話を聞いたのは、一人で旅をしている商人だった。
「困ることなら、荷物だな」
また荷物。
「重さですか?」
「重さもだが、増えるんだよ。町に寄るたびにな」
「商人だから?」
「それもある。売るつもりで買った物もあれば、自分で使うつもりで買った物もある」
ちょっと分かる。
俺も旅に出るたびに何か買っていた。
「必要ない物は売らないんですか?」
「売れるなら売るさ。だからこういう町は助かる」
セルトには古道具を扱う店が多い。
カイルが気にしていたことと繋がった。
旅人が多いから、旅の途中でいらなくなった物も集まりやすい。
「他には?」
「細かい物が鞄の中でどこに行ったか分からなくなる」
俺とカイルが同時に相手の荷物を見た。
大きな袋が二つ。
確かに、あの中から小さい物を探すのは面倒そうだ。
「袋を分ければいいんじゃないですか?」
「分けると今度は袋が増える」
なるほど。
昼を過ぎても、何人かに話を聞いた。
出てくる答えはバラバラだった。
雨。
靴。
荷物の重さ。
食べ物。
寝る場所。
物をなくす。
火を起こすのが面倒。
服が汚れる。
「……何でもあるな」
売り場へ戻った俺は、聞いたことを書いた紙を眺めた。
「旅ってそういうものなんじゃない?」
カイルが隣から覗き込む。
「これじゃ何作ればいいか分からないぞ」
「作る前提なの?」
「え?」
「困ってることを聞いただけでしょ」
そうでした。
俺は紙から顔を上げる。
危ない。
また何か作る方向へ走るところだった。
「でも、何人か同じこと言ってたよな」
「荷物?」
「うん」
重い。
増える。
中で物が見つからない。
言い方は違っても、荷物について困っている人は多かった。
そこで俺たちは、売り場に置いてあるカバンを見る。
「……これ?」
「俺も今見てた」
すでに持ってきている。
ダリオさんと作った、両肩で背負えるカバン。
今までは通りかかった人に背負ってもらっていただけだった。
でも、相手を変えたらどうだ?
「旅人に使ってもらえばいいんじゃない?」
「売るんじゃなくて?」
「いや、売りたいけど」
まずは試してもらう。
町の人が少し背負うだけじゃなく、実際に荷物を入れて歩いてもらう。
そうすれば、旅で本当に使いやすいのかも分かる。
それに、今のカバンに足りないものが見つかるかもしれない。
「一個は見本にする予定だったしな」
「じゃあ貸してみる?」
「壊されたら?」
「そこは先に決めようよ」
カイルがいると話が早い。
一個は売る。
もう一個は見本として使う。
最初からそう決めてセルトまで持ってきた。
なら、その見本を置いておくだけなのはもったいない。
「明日、誰か探してみるか」
「ちゃんと返してくれそうな人ね」
「宿の主人に相談すれば、泊まってる人を紹介してもらえるかも」
それなら、いなくなる心配も少ない。
旅人の困りごとを聞いて、新しい商品を作るつもりだった。
でも、まだその必要はないのかもしれない。
すでに持っている物が、本当に旅で使えるのか。
まずはそこから試してみよう。




