この町に、足りないもの
翌日から、俺とカイルは店番を交代しながら市場を見ることにした。
ただ歩くだけじゃない。
何が売られているのか。
どんな人が買っているのか。
同じような店が何軒あるのか。
気になったことは、できるだけ覚えておく。
「最初は俺が回ってくるよ」
「じゃあ店は任せた」
カイルを送り出し、俺は売り場に残った。
石鹸は昨日までより説明にも慣れてきた。水を使って見せると足を止める人もいるし、少しずつだけど売れている。
カバンも相変わらず興味を持つ人はいる。
ただ、買うところまではなかなかいかない。
ノルンの道具については――まだ考えないことにした。
紙を置いてあるだけじゃ無理だ。
しばらくすると、カイルが戻ってきた。
「どうだった?」
「とにかく種類が多い」
「それは俺も思った」
食べ物、衣類、食器、工具、雑貨。
新品だけじゃなく中古品も多い。
「あと、旅人向けの物も多いね」
「旅人向け?」
「保存できる食べ物とか、水を入れる物とか。丈夫そうな袋も多かった」
「ああ、なるほど」
街道が三本集まる町だ。
ここを目的地にしている人だけじゃなく、途中で立ち寄る人も多い。
当然、旅に必要な物も売れる。
「じゃあ次、俺が見てくる」
店番を交代して、市場を歩く。
今までとは少し見え方が違った。
欲しい物を探しているわけじゃない。
何があるのかを見る。
そう思って歩くと、今まで気にしていなかった店まで目に入る。
旅用の食料を並べている店。
紐や布を売っている店。
簡単な調理道具。
古着。
靴。
馬に使う道具まである。
「……本当に何でもあるな」
大きな町だけあって、思った以上に揃っている。
これだけ物があるなら、足りない物なんてないんじゃないか?
そう思いながら歩いていると、一軒の店の前で男二人が話しているのが聞こえた。
「もう少し小さいのはないのか?」
「今あるのはこれだけだな」
何の話だろう。
少し離れたところから見る。
並んでいるのは鍋や皿、木の器なんかだ。
男が持っているのは、小さめの鍋だった。
「一人で使うには大きいんだよな」
「だったらこっちの方が小さいぞ」
「それでも荷物になる」
結局、男は何も買わずに店を離れた。
俺はそのまま店を眺める。
言われてみれば、並んでいる物は家で使うような大きさの物が多い。
旅人向けの食料はある。
水を持ち歩く物もある。
丈夫な袋もある。
でも、生活道具はどうだ?
気になって、他の店も見てみる。
鍋。
皿。
杯。
刃物。
確かに売っている。
ただ、旅に持っていくことを考えて作られているようには見えない。
もちろん小さい物がまったくないわけじゃない。
でも、さっきの男みたいに「もっと小さければ」と思う人はいるらしい。
売り場へ戻ると、カイルが石鹸を並べ直していた。
「何かあった?」
「まだ分からないけど、ちょっと気になった」
さっき見たことを話す。
カイルはすぐに答えず、少し考えた。
「確かに、旅人向けの食べ物は多かった」
「だろ?」
「でも、小さい鍋が少ないだけなら、それだけで商売になるかな」
「それなんだよな」
鍋一個だけ作っても仕方ない。
そもそも、俺たちは鍋を作れない。
「旅人って、何持って歩くんだろうな」
「人によると思うけど」
「そこから調べてみるか」
何が足りないのかを考えるなら、まず使っている本人に聞いた方が早い。
幸い、この町には旅人がいくらでもいる。
市場だけじゃない。
宿にも、食堂にも、街道沿いにもいる。
「旅する時に困る物を聞いてみる?」
「それなら、何人かに聞いた方がいいね。一人だけだと、その人が欲しいだけかもしれないし」
「決まりだな」
カイルがいると、こういうところで一回止まれるのは助かる。
前の俺なら、一人が小さい鍋を欲しがっているのを見ただけで、作れないか考え始めていたかもしれない。
……いや、今もちょっと考えている。
でも、まだ作らない。
まずは聞く。
セルトには物が多い。
だからこそ、何が足りないのかは見ただけじゃ分かりにくい。
俺たちは次に、ここを行き交う人たちの話を聞いてみることにした。




