直せても、儲からない?
翌日。
俺とカイルは市場へ向かうと、昨日見つけた壊れた工具について調べることにした。
壊れた状態なら安い。
直して使えるようにすれば、もう少し高く売れる。
考え方としては単純だけど、本当に利益が残るかは別の話だ。
「まず修理代だな」
「うん。そこが分からないと何とも言えない」
市場の管理人に聞いてみると、工具の修理をしている職人を何人か教えてもらえた。
その中で一番近い工房へ向かう。
市場から少し離れた通りにある、小さな工房だった。
中では男が一人、金槌を使って金具を叩いている。
「すみません」
「ん?」
「工具の修理ってお願いできますか?」
男は手を止め、俺たちを見る。
「物によるな。何を直したい?」
「まだ買ってないんですけど、柄が割れた金槌とか、刃が欠けた小刀とかです」
「見ないと何とも言えんな」
そりゃそうだ。
俺たちは一度市場へ戻り、昨日の店で事情を話した。
店主に頼んで、気になっていた金槌と小刀を借りる。それを持って、もう一度工房へ向かった。
職人はまず金槌を手に取った。
割れた柄を見て、金属部分を確かめる。
「これは柄を替えれば使える」
「いくらくらいです?」
聞いた金額を、カイルが紙に書く。
次に小刀。
こっちは刃をじっくり確認してから、修理にかかる金額を教えてくれた。
俺は横から紙を覗き込む。
昨日調べた中古品の売値。
壊れた状態での値段。
そして、修理代。
三つを並べてみる。
「……あれ?」
「ほとんど残らないね」
金槌は、売れたとしてもわずか。
小刀に至っては、修理代まで含めると普通の中古品とほとんど変わらない。
「もっと安く直す方法ってないですか?」
俺が聞くと、職人が眉を上げた。
「材料を安くするか、俺の工賃を削るかだな」
「工賃は削れないですね」
「削られたら俺が困る」
ですよね。
職人に礼を言い、工具を店へ返す。
結局、一つも買わなかった。
自分たちの売り場へ戻る途中、俺はさっきの紙をもう一度見た。
「壊れた物を安く買えば儲かると思ったんだけどな」
「そんなに簡単なら、あの店の人が直して売ってるんじゃない?」
「……確かに」
言われてみればその通りだ。
修理できる職人だって、この町にはちゃんといる。
それでも壊れたまま売られているということは、直しても割に合わない物が多いんだろう。
「じゃあ、これは無しか」
「今のやり方ならね」
カイルが答える。
そのまま歩いていたカイルが、ふと周りの店を見た。
「でも、ちょっと気になる」
「何が?」
「壊れた工具だけじゃなくて、古い物を売ってる店が多い」
言われて、俺も周りを見る。
確かに。
昨日から工具ばかり見ていたけど、古い鍋や食器、箱、衣類まで扱っている店がある。
ラグナにも古道具はある。
カイルが働いていたオルドさんの店がそうだ。
でも、ここは一軒じゃない。
市場の中だけでも、似たような物を扱っている店がいくつもある。
「セルトだから?」
「たぶん」
カイルが少し考える。
「ここって、いろんな町から人が来るでしょ。旅の途中でいらなくなった物を売る人も多いのかも」
「ああ」
ベルクさんも、三本の街道が集まる町だと言っていた。
人が集まれば、物も集まる。
新品だけじゃない。
使わなくなった物だって集まる。
「オルドさんの店にも、旅人が物を売りに来てた?」
「来てたよ。でも、ここほど多くはなかったと思う」
カイルは市場を見回した。
さっきまで壊れた工具一つの値段を気にしていたのに、今は店そのものを見ている。
「何が多いか、見てみたい」
「古道具を?」
「それだけじゃなくて」
カイルが指を折る。
「何がよく売られてるのか。逆に、何が少ないのか。どんな人が買ってるのか」
「なるほど」
「ラグナの店では、来た物を見てただけだから。町全体で見たことはないし」
それは俺も同じだ。
俺は自分の商品をどう売るかばかり考えていた。
石鹸をどう見せるか。
カバンをどう試してもらうか。
ノルンの道具をどう説明するか。
でも、俺たちは半年もここにいる。
最初から売る物を決めつける必要はない。
「じゃあ、売る物を探すんじゃなくてさ」
「うん」
「セルトで何が余ってて、何が足りないのか見てみよう」
カイルが少し考えて、頷いた。
「その方が面白そう」
「何か見つかったら、そこから考えればいいし」
安い物を見つけて買う。
それだけなら簡単だ。
でも、安いから売れるとは限らない。
何があるのか。
誰が買うのか。
何が足りないのか。
そこまで分かれば、俺たちにできることも見えてくるかもしれない。
「じゃあ、しばらく調べるか」
「店番もしながらね」
「分かってるって」
危うく忘れるところだった。
俺たちは調査だけしにセルトへ来たわけじゃない。
売ることも続ける。
その横で、この町そのものを見る。
セルトに来て三日目。
どうやら俺たちは、商品より先に、この町を知らないといけないらしい。




