壊れてるから、安い
カイルに教えてもらった店は、市場の端に近いところにあった。
店、と言っても立派なものじゃない。古い鍋や食器、工具なんかが雑多に並べられていて、その横には傷んだ物ばかりをまとめた箱が置かれている。
たぶん、カイルが言っていたのはあれだ。
「……本当に壊れてるな」
箱の中を覗く。
柄の割れた金槌。刃の欠けた小刀。錆びた金具。何に使うのか分からない部品まである。
安ければ何でもいいわけじゃない。
直すのに新品以上の金がかかったら意味がないし、そもそも直せなかったらただのゴミだ。
「何か探してるのか?」
店の奥から声をかけられた。
振り向くと、少し白髪の混じった男がこちらを見ている。
「この箱の物って、売り物ですか?」
「ああ。使えそうなら好きに持っていってくれ」
「値段は?」
「物によるな。何個かまとめてなら安くするぞ」
やっぱり安いらしい。
俺は箱の中から、柄の割れた金槌を持ち上げた。
金属部分は傷だらけだけど、大きく欠けたり変形したりはしていない。
柄だけ交換すれば使えるんじゃないか?
……たぶん。
「これなら直せそうだな」
「兄ちゃん、直せるのか?」
「俺じゃないです」
「じゃあ誰が直すんだ?」
「……これから考えます」
男が笑った。
そりゃそうだ。
直せるかも分からない物を買おうとしている十五歳なんだから、笑われても仕方ない。
「これ、いくらです?」
値段を聞いてみる。
思っていたよりずっと安い。
危ない。
ちょっと欲しくなった。
でも、今日は一人で買わないと約束している。
「他にも見ていいですか?」
「好きにしな」
箱を漁っていく。
刃物は難しそうだ。
刃が欠けている物は研ぎ直せるのかもしれないけど、俺には判断できない。
一方で、柄が壊れているだけの工具はいくつかある。
これなら木工職人に頼めば直せそうな気がする。
……父さんなら普通に直せそうだな。
そう思ったところで、手が止まった。
父さんはリーネにいる。
ここはセルトだ。
「そうか。直す人もこっちで探さないと駄目なのか」
買ってリーネまで持ち帰れば父さんに相談できる。
でも、それじゃ半年間何もできない。
セルトで商売するなら、セルトの中で直す方法を見つけた方がいい。
俺はいくつか気になった工具を覚えて、店を離れた。
買っていない。
ちゃんと我慢した。
これはかなり偉いと思う。
売り場に戻ると、カイルが石鹸を一人の客に説明しているところだった。
俺は少し離れたところで待ち、客が去ってから声をかけた。
「どうだった?」
「石鹸一個売れたよ」
「おお」
俺がいなくても売れてる。
カイルはもう普通に説明できるらしい。
「そっちは?」
「欲しいのあった」
「買った?」
「買ってない」
「偉い」
「だろ?」
「そこ褒められるところなの?」
褒めてくれたじゃん。
俺はさっき見た物をカイルに説明した。
特に気になったのは、壊れ方が単純な工具だ。
「柄だけ直せば使えそうなのが何個かあった」
「俺も見た。たぶん直せると思う」
「やっぱり?」
「でも、いくらで直せるか分からない」
そこなんだよな。
安く買えても、修理代が高ければ意味がない。
「直せる人を探すか」
「その前に、直した物がいくらで売れるかも見た方がいいよ」
「あ」
カイルが市場の方を見る。
「同じような工具の中古品、何軒かで売ってたから。売値が分かれば、仕入れと修理にいくらまで使えるか決められるでしょ」
なるほど。
買って、直して、それから値段を考えるんじゃない。
先に売れる値段を見る。
そこから逆算して、いくらなら使えるか決める。
「じゃあ午後は、それ調べよう」
「うん。ついでに修理してくれそうなところも聞いてみよう」
やることが決まった。
俺たちは交代で市場を回り、中古の工具がどれくらいで売られているのかを見ていった。
同じ金槌でも状態によって値段は違う。
刃物なんかはもっと差があった。
カイルは店に戻るたび、見てきた物と値段を紙に書いていく。
「こういうの、ちゃんとやるんだな」
「オルドさんの店でも、仕入れる時は見比べてたから」
「俺、安かったら買ってたかも」
「知ってる」
即答された。
夕方になる頃には、だいたいの値段が見えてきた。
壊れた物を安く買う。
安く直す。
それを中古品として売る。
条件が揃えば、商売にはなりそうだ。
ただし――。
「修理代次第だな」
「あと、本当に売れるかどうか」
「そこもか」
まだ買う段階じゃない。
でも、候補にはなった。
セルトに来てから、初めてカイルの経験から見つかった商売だ。
俺の商品を売るだけじゃない。
二人で来たからこそ見つけられる物もある。
さて。
次は、直してくれる人探しか。




