今度は、カイルの番
セルトに来て三日目。
朝飯を食べながら、今日の予定を話していた時だった。
「今日は、俺も少し市場を見て回っていい?」
カイルに言われて、俺はパンを食べる手を止めた。
「市場?」
「うん。古道具の方」
「あ」
完全に忘れていた。
ここ二日、石鹸やカバンをどう売るかばかり考えていたけど、セルトに来た目的はそれだけじゃない。
カイルはラグナで古道具を扱ってきた。
セルトで仕入れられる物を探すのも、最初から決めていたことだ。
「ごめん。俺の商品ばっかりだったな」
「別にいいよ。最初に持ってきた物を試すのは決めてたし」
「じゃあ今日はカイルの番だな」
「俺の番っていうほどでもないけど」
俺たちは市場へ向かい、いつもの場所を借りた。
昨日と同じように石鹸とカバンを並べる。
ただし今日は、二人でここに立ち続けるつもりはない。
「先に見てきていいぞ。俺が店番してるから」
「じゃあ、そうする」
「良さそうなのあったら買ってきてもいいから」
そう言うと、カイルが足を止めた。
「勝手に?」
「あ」
二人の商売用の金だ。
俺の金じゃない。
「……買う前に戻ってきて」
「そうする」
危ない。
共同で商売を始めてから少し経つけど、まだ自分の金みたいに考えてしまう時がある。
カイルが市場の中へ消えていき、俺は一人で店番を始めた。
昨日用意した水もある。
石鹸は実際に使って見せれば、それなりに足を止めてもらえることが分かった。
しばらく客に説明したり、周りの店を眺めたりしていると、カイルが戻ってきた。
手には何も持っていない。
「早かったな」
「一周しただけだから」
「何かあった?」
「結構あったよ」
カイルが俺の横に座る。
「古い鍋とか工具とか、旅人が置いていった物を売ってる店もあった。ラグナより種類は多い」
「買えそう?」
「買える。でも、今は買わない方がいいと思う」
「なんで?」
種類が多いなら、むしろ仕入れやすそうだけど。
カイルは市場の向こうを指した。
「同じような物を売ってる店が何軒もあるから」
「ああ……」
なるほど。
安く買える物を見つけても、それをこの市場で少し高く売るだけなら、最初から同じ物を扱っている店と競争することになる。
「じゃあ、リーネに持って帰る?」
「それもありだと思う。でも半年後でしょ?」
「そうだった」
今買って、半年間部屋に置いておく。
邪魔だ。
「だからまず、こっちで何が安いのか覚えたい。ラグナやリーネより安い物が分かれば、あとで仕入れられる」
「なるほどな」
やっぱりこういうところは、俺よりカイルの方が慎重だ。
俺だったら安そうな物を見つけた時点で、とりあえず一個買っていたかもしれない。
「あと、気になった物があった」
「何?」
「工具」
俺は少し身を乗り出した。
「どんな?」
「その顔やめて」
「まだ何も言ってないだろ」
「買う気になってる顔してる」
失礼な。
まだどんな物かすら聞いていない。
「売ってる物じゃなくて、壊れた工具をまとめて置いてる店があったんだよ」
「壊れてるの?」
「刃が欠けてたり、柄が割れてたり。使えない物も多いけど、直せそうなのもあった」
それは確かに面白い。
直して売れるなら、普通の古道具を仕入れるより安く買えるかもしれない。
「オルドさんの店でもやってた?」
「簡単なのはね。俺も少しならできる。でも、何でも直せるわけじゃないよ」
「一回見に行こう」
「店は?」
俺は並べてある商品を見る。
「交代しよう。今度は俺が見てくる」
「一人で買わないでね」
「分かってるって」
念を押された。
信用がない。
……いや、今までを考えれば仕方ないか。
店番をカイルに任せ、教えてもらった店へ向かう。
セルトに来てから、俺たちが持ってきた商品をどう売るかばかり考えていた。
でも、ここにはここにある物がある。
売るだけじゃない。
仕入れることだってできる。
カイルが見つけた物の中に、俺たちの新しい商売になる物があるかもしれない。
そう考えると、さっきより市場が少し違って見えた。




