並べるだけじゃ、売れない?
翌朝。
俺とカイルは昨日と同じ市場へ向かった。
昨日借りた場所が空いていたので、今日もそこを借りる。石鹸は残り八個。カバンは二個のままだ。
「今日はどうする?」
商品を並べながら、カイルが聞いてきた。
「昨日と同じことしても、同じくらいしか売れない気がする」
「俺もそう思う」
昨日は石鹸が二個売れた。
初日にゼロじゃなかっただけでも悪くはない。でも、半年ここで商売するつもりなら、一日二個の石鹸を売って満足しているわけにもいかない。
何より、カバンとノルンの道具は一つも売れていない。
「石鹸は説明すれば分かってもらえたんだよな」
「カバンも背負ってもらえば反応は悪くなかった」
「じゃあ、問題は商品じゃない?」
カイルがそう言って、周りの店を見る。
俺もつられて視線を向けた。
昨日は客ばかり見ていたけど、今日は売っている側を見てみる。
野菜を売っている店では、店主が通る人に今日入った物を声を上げて伝えている。道具を売っている店では、いくつかの商品を手前に出して、実際に触れるようにしていた。
布を扱う店なんかは、広げた布を高いところから垂らしている。
遠くからでも何を売っているのか分かる。
それに比べて俺たちは――。
「石鹸とカバンと紙」
「うん」
「……やっぱり何屋か分からないな」
昨日も同じことを言った気がする。
ただ、問題はそれだけじゃない。
俺たちは商品を置いて、客が興味を持ってくれるのを待っていた。
知らない商品なのに。
「石鹸って、見ただけじゃ何か分からないよな」
「カバンは分かるけど、普通の袋と何が違うかは背負わないと分からない」
「ノルンの道具なんて紙だけだし」
「それが一番厳しいと思う」
ごもっともです。
俺は石鹸を一個持ち上げた。
昨日は水がなくて、使い方を身振りで説明するしかなかった。
だったら、水を用意すればいい。
「カイル、水ってどこかで買えるかな」
「飲む水?」
「いや、石鹸を使って見せたい」
「ああ。それなら市場の管理人に聞いてみようか」
二人で管理人のところへ行って聞いてみると、市場の中には店で使うための水を汲める場所があるらしい。
もちろん好き勝手に大量に使っていいわけじゃないけど、小さな桶一杯くらいなら問題ないと言われた。
俺たちは桶を一つ借り、水を入れて売り場へ戻った。
「これで石鹸はいいとして」
「カバンは?」
「背負ってもらう」
「今までと同じじゃない?」
「今までは聞かれてからだろ。今日はこっちから見せる」
カバンを一つ手に取り、背負ってみる。
商品を並べるんじゃなくて、俺自身が見本になる。
「どう?」
「普通に似合ってる」
「そうじゃなくて」
「でも、昨日よりは分かりやすいと思う」
ならいい。
しばらくそのまま売り場に立っていると、昨日より早く一人の男が足を止めた。
「その背中のは売り物か?」
「はい。よかったら背負ってみます?」
「いいのか?」
早速来た。
カバンを渡して背負ってもらう。中には重さが分かるように、少しだけ荷物も入れてみた。
男は肩紐を引っ張ったり、背中側を触ったりしながら何度か頷く。
「両手が空くのはいいな」
「荷物を持って歩く人には便利ですよ」
「旅にも使えそうだ」
反応は昨日よりいい。
ただ、値段を伝えると少し悩んだ。
「今日はいいや。また見に来る」
「はい」
買わなかった。
でも、昨日より明らかに話は長かった。
男が去ったあと、カイルが俺を見る。
「売れなかったね」
「でも、昨日より一歩進んだ」
「それはそうかも」
次は石鹸だった。
桶の水を使って実際に泡立ててみせると、これには思った以上に人が足を止めた。
「本当に泡が出るのね」
「これで手を洗うの?」
「はい。汚れも落としやすくなります」
一人に説明していると、その横から別の人も覗き込んでくる。
昨日は一人ずつ説明していたのに、今日は一度の説明を何人かが聞いている。
その中から、一人が石鹸を買った。
少しして、もう一人。
「……昨日より早いな」
「見せた方が分かりやすいね」
当たり前といえば当たり前だ。
でも、自分たちの商品を知っていると、その当たり前を忘れる。
俺たちには石鹸が何なのか分かる。
カバンの便利さも知っている。
ノルンの道具が何をする物なのかも知っている。
でも、初めて見る人は知らない。
「売る物だけじゃなくて、売り方も考えないと駄目なんだな」
「明日はノルンの道具も考える?」
俺は売り場の端に置いてある紙を見る。
今日もほとんど誰も見ていない。
「……あれは、もうちょっと何とかしないとな」
紙を置いただけで、高い道具が売れる。
さすがにそんなに甘くはないらしい。
セルトに来て二日目。
商品を増やす前に、まだやることはありそうだった。




