今度は、半年分の荷物
ベルクから餞別をもらって、生活費の心配はひとまずなくなった。
セルト生活用は107リル。目標にしていた90リルより余裕があるし、貯金にも仕事用の金にも手をつけていない。
あとは商品と、自分たちが半年暮らすための荷物を揃えればいい。
「……多くない?」
俺の部屋に来たカイルが、床に並べた荷物を見て言った。
「まだ途中だよ」
「だから言ってるんだけど」
「半年だぞ?」
「半年分全部持っていく必要ないでしょ」
それは分かっている。
分かっているけど、半年と聞くと色々持っていきたくなる。
「服は?」
「これくらい」
「そんなにいらない」
「寒くなったら?」
「向こうで買えばいい」
「それは浪費にならない?」
「必要になってから買うならね」
なるほど。
必要になるかもしれないから今買うのと、必要になったから買うのは違うらしい。
俺には少し難しい。
◇ ◇ ◇
結局、着替えは最低限。
洗面道具や普段使う小物も、旅に必要な分だけにした。
半年暮らすからといって、半年分の生活用品をリーネから運ぶ必要はない。セルトは大きな町なんだから、普通に買える物まで持っていけば荷物が増えるだけだ。
「じゃあ、これは?」
カイルが机の端に置いてあった物を指さした。
「6リルの筒」
「それは知ってる。なんで持っていこうとしてるの?」
「何かに使うかもしれない」
「今まで使ってないよね」
「セルトなら使い道が分かる人がいるかも」
「持っていくの?」
「……駄目?」
「好きにすれば」
止められなかった。
これは持っていくことにしよう。
半年もセルトにいるなら、あの大きな市場のどこかに正体を知っている人がいるかもしれない。
「よし」
「ちょっと嬉しそうなの何?」
「別に」
6リルの元を取ろうとしているわけではない。
ただ気になるだけだ。
たぶん。
◇ ◇ ◇
数日後、セラから頼んでいた石鹸ができたと連絡が来た。
「十個。確認しな」
「ありがとう」
包みを開いて数を確認する。
きっちり十個。
今回はハンスの店へ卸す分とは別に作ってもらった、セルトでの試し売り用だ。
「向こうで売れそうかい?」
「まだ分からない」
「それで十個にしたんだろ?」
「うん。売れたらまたお願いするかも」
「そのときは早めに言っとくれ」
「分かった」
次はダリオの工房へ向かう。
こちらも頼んでいた鞄二個が仕上がっていた。
「同じ物を二つでよかったんだな?」
「うん。一個は売って、一個はなるべく見本にするつもり」
「なるべく?」
「二個とも欲しいって人が来たら、ちょっと考える」
「売るんだろうな」
「たぶん」
目の前で金を出されたら自信がない。
そのときはそのときだ。
◇ ◇ ◇
商品が揃ったところで、俺たちはハンスに運送の相談をした。
「この量なら、わざわざ馬車を一台借りる必要はないな」
「やっぱり?」
「ああ。セルト方面へ行く荷に混ぜてもらえばいい」
商品だけなら大した量ではない。
石鹸十個と鞄二個。それに俺たちの身の回りの荷物を合わせても、商人の馬車一台を使うほどではなかった。
「人も一緒に乗れる?」
「空きがあればな。ちょうど数日後にセルト方面へ向かう商人がいる。聞いてやろうか?」
「お願い」
「二人分だぞ」
「分かってる」
俺とカイルは顔を見合わせた。
数日後。
急に出発の日が見えてきた。
「間に合う?」
「俺は大丈夫」
「俺も……たぶん」
「今から余計な物増やさなければね」
「増やさないよ」
たった数日だ。
さすがの俺でも、その間に大きな買い物なんて――。
「そういえば、セルトで使う――」
「増やさない」
「まだ最後まで言ってない」
「今必要じゃないなら向こうで考える」
「……はい」
最近、止めるのが早くなってない?
◇ ◇ ◇
それから出発までの数日は、思ったより慌ただしかった。
父さんと母さんには出発日を伝えた。カイルもラグナのオルドへ知らせを送り、トーマにも半年ほどリーネを離れることを話した。
ハンスが紹介してくれた商人にも会い、俺たち二人と荷物をセルトまで乗せてもらえることになった。
そして前日の夜。
俺は部屋に並べた荷物を、もう一度確認した。
着替え。
生活に必要な物。
仕事で使う帳面や筆記具。
石鹸十個。
鞄二個。
ノルンの道具を説明するための紙。
それから、6リルの筒。
「……よし」
忘れ物は、たぶんない。
貯金5,610リルはリーネに残す。
仕事用の金も、必要な分以外は持っていかない。
セルトで使う生活費と、カイルと二人で使う商売用の金は別にしてある。
前に町の外へ出たときとは、荷物の意味がずいぶん違う。
旅行でもない。
誰かについていくわけでもない。
今度は、自分たちで商売をするために半年暮らす。
そう考えると、少しだけ落ち着かない。
「半年か」
長いような気もする。
始まってしまえば、あっという間な気もする。
明日の朝、リーネを出る。
次に帰ってくるとき、俺たちは何を持って帰ってくるんだろう。




