セルトに、何個持っていく?
生活費の残り33リルが貯まるのを待つ間、俺たちはセルトへ持っていく商品の準備を始めることにした。
最初に考えたのは石鹸だ。
セルトでも似たような洗い物は売られていた。それでも、値段と使い心地次第では十分試す価値があると思っている。
「問題は、何個持っていくかだな」
「最初から多く持っていく必要はないよね」
「十個くらい?」
「それくらいならいいんじゃない?」
売れなかったとしても、十個なら大きな荷物にはならない。
俺たちはまず、ハンスに相談することにした。
◇ ◇ ◇
「セルトへ持っていく?」
「うん。まず十個くらい試したい」
ハンスは少し考えてから、店に置いてある石鹸へ目を向けた。
「ここの分を持っていくのか?」
「いや、それはやめようと思ってる」
リーネではもう普通に売れている。
俺たちが新しい町で試したいからといって、こっちの商品を減らすのは違う。
「追加で作ってもらえるか、セラさんに聞こうかなって」
「それがいいだろうな。今の分まで動かす必要はない」
「じゃあ聞いてくる」
「待て」
立ち上がろうとすると、ハンスに止められた。
「どうしたの?」
「十個を誰の金で用意するつもりだ?」
「あ」
横を見る。
カイルも俺を見ていた。
「二人の商売用だよね」
「……そうなるな」
セルトで売るための商品だ。
俺個人の仕事用ではない。
こうやって確認しないと、まだ一瞬迷う。
「ちゃんと分けないとね」
「分かってるよ」
「今止まったけど」
「確認しただけ」
たぶん。
◇ ◇ ◇
セラのところへ行って事情を話すと、返事は早かった。
「十個なら問題ないよ」
「よかった」
「いつまでに?」
「すぐじゃなくて大丈夫。セルトへ行く準備ができるまでに欲しい」
「なら余裕だね」
これで石鹸は決まった。
今まで通り、セラには作ってもらった分の代金を払う。今回はハンスの店へ卸す分とは別に、俺たちがセルトへ持っていく十個を追加してもらう形だ。
「向こうでも売れたら、もっと頼むかもしれない」
「売れてから言いな」
「ですよね」
セラは笑った。
俺もそのつもりだ。
最初から五十個、百個と作る気はない。
十個売れたら、その次を考えればいい。
◇ ◇ ◇
次は鞄だった。
ダリオの工房でセルトの話をすると、すぐに作業台の横に置いてあった鞄を一つ持ってきてくれた。
「これと同じのでいいのか?」
「うん。でも、何個にしよう」
「十個?」
俺が言うと、隣からカイルが口を挟んだ。
「さっき石鹸を十個にしたからって、鞄も十個にする必要ないでしょ」
「分かってるって」
「じゃあ何個?」
「……二個」
「急に減ったな」
ダリオが笑う。
でも鞄は石鹸よりずっと場所を取る。
それに、一つ売れたらなくなる商品ではあるけど、見本があれば注文を取ることもできる。
「二個持っていって、一個は売ってもいい。一個はなるべく見本に残す」
「注文が入ったら?」
「リーネで作ってもらって、セルトまで運べるか試したい」
「なるほどな」
ダリオが鞄を持ち上げ、少し考える。
「なら二個でいいんじゃないか。売れるかも分からんうちから、何個も作っても仕方ない」
「じゃあ二個お願いします」
「急ぎじゃないんだろ?」
「うん。準備できるまでで大丈夫」
「分かった」
これで鞄も決まった。
◇ ◇ ◇
店を出たあと、カイルと今日決めたことを確認する。
「石鹸が十個」
「鞄が二個」
「少なくない?」
「最初はね」
前の俺なら、どうせ行くなら多い方がいいと思っていたかもしれない。
たくさん持っていけば、たくさん売れる。
そんな単純な話じゃないことは、もう何度も経験している。
「あと、ノルンの道具は?」
「持っていかない」
「即答だな」
「120リルの物を試しに一台作って運ぶの?」
「……やめよう」
あれは注文が入ってから作ればいい。
セルトでは絵と説明だけ用意して、興味を持つ人がいるか確かめる。それで本当に欲しい人が出てきたら、ノルンへ話を持っていけばいい。
「中古品は?」
「それはセルトで探した方がよさそう」
「だよな」
セルトには大きな中古市場がある。
わざわざラグナから運んで売るより、向こうで安く仕入れられる物を探した方がいい。
そう考えると、最初にリーネから持っていく商品は思ったより少ない。
「なんか、店をやる準備にしては寂しいな」
「まだ店じゃないでしょ」
「市場で試すところからだった」
「売れたら増やせばいいよ」
「そうだな」
石鹸十個。
鞄二個。
ノルンの道具は説明だけ。
あとはセルトへ行ってから探す。
最初から店いっぱいの商品を揃える必要はない。
「でもさ」
「何?」
「市場に並べるなら、もうちょっと何か欲しくない?」
石鹸と鞄だけ。
頭の中で並べてみると、どうにも売り場が寂しい。
「また増やそうとしてる?」
「大量に買うとは言ってないって」
「じゃあどうするの?」
「それを考える」
せっかくセルトまで行くんだ。
ただ物を持っていくだけじゃなく、向こうで何が売れるのかも試したい。
もちろん、買いすぎない範囲で。
そこはちゃんと分かっている。
……たぶん。




