あと75リル、どうやって作る?
セルトへ行く前に、生活用としてあと75リル。
金額が決まったところまではよかった。
問題は、その75リルをどうやって用意するかだ。
「新しく何か売る?」
「なんで最初にそこから考えるの?」
「75リル必要だから」
「今ある商売は?」
カイルに言われて、俺は黙った。
そうだった。
俺にはすでに石鹸も鞄もある。
「……まず、そっち確認するか」
「そうしよう」
新しいことを始める前に、今あるものを見る。
最近の俺は、少しだけそういうこともできるようになった。
◇ ◇ ◇
まず向かったのはハンスの店だった。
「また金の話か?」
「なんで分かったの?」
「お前が帳面を見ながら入ってきたからだ」
分かりやすかったらしい。
「石鹸って、次に俺の取り分が入るのいつ?」
「売れた分なら、次にまとめるところだったぞ」
「どれくらい?」
ハンスが帳面を確認する。
「前に渡したあとからなら、今のところ二十個だな」
「じゃあ俺の分は30リル?」
「ああ」
大きくはない。
でも、欲しかった75リルのうち30リルだ。
「あと45リル」
「何の話だ?」
セルトへ長く滞在することと、そのために生活費を90リル用意することを説明した。
ハンスは少し驚いたものの、すぐに納得したようだった。
「なるほど。それで今度の取り分を生活費に回すのか」
「そのつもり」
「珍しいな」
「何が?」
「入ってくる前から使い道を決めてる」
「俺だってそれくらいするよ」
「そうだったか?」
信用がない。
でも今回は本当に決めている。
次に受け取る30リルは、そのままセルト生活用だ。
◇ ◇ ◇
次はダリオの工房へ向かった。
「おう、レイン。今度は何だ?」
「今日は作ってほしい物じゃないよ」
「本当か?」
「なんで疑うの?」
「お前が来ると、たまに仕事が増えるからな」
笑いながら言われた。
俺はセルトへ行く話を簡単にしてから、鞄の売れ行きを聞いた。
「前に精算してからなら、三個だな」
「三個か」
一個につき俺の取り分は4リル。
つまり12リル。
「じゃあ、あと33リル」
「何を数えてる?」
「セルトで暮らすための金」
「足りないのか?」
「金自体はあるんだけど、使っていい金が足りない」
ダリオが一瞬黙る。
「……よく分からんな」
「俺も最近ちょっと分からなくなってきた」
貯金はある。
仕事用の金もある。
カイルとの商売用の金もある。
でも、それぞれ使い道を決めてしまったから、生活に回していい金が足りない。
昔の俺なら全部同じ財布だった。
成長したと思うことにしよう。
◇ ◇ ◇
ハンスの店へ戻る途中、カイルが指を折った。
「石鹸で30リル」
「鞄で12リル」
「合わせて42リル」
「あと33リル」
75リル必要だったのが、一気に半分以下になった。
「意外とすぐじゃない?」
「そうだね」
「じゃあ、ノルンの道具が売れた分も――」
「それは二人の商売用」
「……だよね」
言う前から分かっていた。
ノルンの道具から入る10リルは、俺とカイルが一緒に始めた商売の金だ。
そこから俺の生活費を出したら、最初に分けた意味がなくなる。
「稼いでるのに、使える金が増えない」
「使い道を決めてるからでしょ」
「なんか不思議だな」
「むしろ今までが雑だったんじゃない?」
「それは言わないで」
でも、悪い感じはしなかった。
金がないわけじゃない。
どの金を何に使うのかが決まっているだけだ。
◇ ◇ ◇
「あと33リルなら、待ってれば入るんじゃない?」
カイルが言った。
「石鹸も鞄も売れてるし」
「そうなんだけどさ」
「何?」
「待つだけって暇じゃない?」
「準備すればいいでしょ」
「あ」
そうだった。
セルトへ行くには、商品も用意しないといけない。
運ぶ方法も決める。
市場で売るための準備だってある。
金が貯まるまで何もすることがないわけじゃない。
「じゃあ、その間にセルトへ持っていく物を揃えるか」
「うん。それで足りない分が残ったら、そのとき考えればいい」
「新しい商売は?」
「必要になったら」
「先にやっちゃ駄目?」
「何のために?」
「33リル稼ぐため」
「そのためにいくら使うつもり?」
「……まだ決めてない」
「じゃあ駄目」
危ない。
33リルを稼ぐために、それ以上使ったら意味がない。
前の俺ならやりかねなかった気もする。
いや、今の俺も少しやりたい。
「とりあえず、42リルは生活用」
「残り33リル」
「それが貯まるまで、セルトの準備」
「それでいこう」
新しく稼ぐことばかり考えていたけど、すでに作った商売から金が入ってくる。
俺が毎日石鹸を作らなくても。
鞄を縫わなくても。
少しずつだけど、ちゃんと残る。
「こういうの、いいな」
「何が?」
「俺が働いてないときにも金が入ってくるの」
「その言い方だと急に駄目な人っぽいね」
「違うって」
これまで作ってきたものが、今になって次の挑戦を助けてくれる。
そう考えると、ちょっと嬉しい。
セルト生活用、90リル。
今の15リルに、今回入る42リルを足して57リル。
あと33リル。
今度は、貯金にも仕事用の金にも手をつけずに用意できそうだった。




