何を、どこから持ってくる?
店をやるなら、何を売るのか。
そこまでは考え始めた。
でも、商品を決めるだけじゃ足りない。セルトまでどうやって持ってくるのかまで考えないと、商売にはならない。
「とりあえず、リーネからだな」
「石鹸?」
「うん。あれなら運びやすいし」
小さいし、そこまで重くない。
割れたり潰れたりしないように包めば、ある程度まとめて運べる。
しかも使えばなくなる。
一度売って終わりじゃないのも大きい。
「セルトにも似たようなのはあるけどね」
「そこなんだよな」
この数日で日用品を扱う店も見て回った。
石鹸そのものが存在しないわけじゃない。俺たちの物とまったく同じでもないけど、身体や布を洗う物は普通に売られている。
「値段だけで勝負する?」
「それは嫌だな」
「俺も」
安売りなら、大量に仕入れている商人の方が強い。
だったら最初は少量だけ持ってきて、セルトの物と比べてもらえばいい。
「売れたら増やす」
「売れなかったら?」
「持って帰る」
「石鹸ならそれができるね」
まず一つ。
石鹸は候補に残った。
◇ ◇ ◇
「鞄はどうする?」
次に向かったのは革製品を扱う店だった。
肩から下げる物。
背負う物。
大きな荷物を入れる物。
種類は思っていたより多い。
「ダリオの鞄、ここでも売れると思うんだけどな」
「俺も物は悪くないと思う」
「じゃあ持ってくる?」
「何個?」
「十個くらい?」
「誰が?」
「……荷車?」
「そのためだけに?」
言われて、店に並んだ鞄を見る。
石鹸十個と鞄十個では、同じ十個でも全然違う。
鞄は軽くても場所を取る。
「三個?」
「減ったね」
「二個でもいいか」
「見本なら一個でもよくない?」
「ああ」
売るための商品ではなく、まず見せるための商品。
気に入った人がいれば注文を取る。
「でも注文されてからリーネに頼んで、ここまで運ぶんだろ?」
「時間はかかるね」
「そこを客がどう思うかだな」
すぐ欲しい人には向かない。
でも、気に入った物なら待ってくれる人もいるかもしれない。
それも実際に試してみないと分からない。
「一個か二個だけ売れるように置いて、あとは注文でもいいか」
「それなら持ってこられそう」
鞄も候補に残った。
◇ ◇ ◇
「問題は、ノルンだな」
「あれは持ってこないでしょ」
「だよね」
あの切断道具は大きい。
しかも120リルする。
何台も作ってセルトまで運んで、売れませんでしたでは笑えない。
「見本は欲しいんだけどなあ」
「見本のために一台買う?」
「それは……」
買えないわけではない。
でも、二人の商売用の金から出すならカイルと相談が必要だし、俺個人で買う理由もない。
父さんに贈った一台を持ってくる案は、昨日却下された。
「絵じゃ駄目?」
「絵?」
「どんな道具か描いて、使い方と値段を書いておく」
「ああ、それなら金かからないな」
「注文が入ってからノルンに頼めばいいし」
「それだ」
実物を見せられない分、売りにくくはなるだろう。
それでも最初から一台買うよりずっと安全だ。
「売れそうなら、そのとき見本を考える」
「うん」
少しずつ、俺よりカイルの方が商売人っぽくなってきてないか?
◇ ◇ ◇
午後。
今度はカイルが行きたがっていた中古品の店を回った。
道具。
食器。
旅用品。
少し傷のある革製品。
直せばまだ使えそうな物も多い。
カイルは店に入るたび、品物と値段をじっくり見ていた。
「どう?」
「思ってたより多い」
「ラグナから持ってくる必要ない?」
「物によるけど、ほとんどないかも」
「やっぱり?」
わざわざラグナで中古品を買って、二日かけてセルトへ運ぶ。
運ぶにも金がかかる。
それならセルトで買った方が早い。
「でも、これとかはラグナの方が安い」
カイルが指したのは、職人が使う小さな工具だった。
「じゃあ、それだけ持ってくる?」
「値段の差が大きければね」
「なるほど」
何でも運ぶ必要はない。
運んでも利益が出る物だけ運ぶ。
当たり前だけど、大事なことだ。
「逆もできるんじゃない?」
「逆?」
「セルトで安い物を、ラグナとかリーネに持って帰る」
カイルが少し黙った。
それから棚に並んだ商品をもう一度見る。
「できると思う」
「だよね」
「でも、それやり始めると店から離れるよ」
「あ」
セルトで店を持つ。
でも、他の町にも商品を運ぶ。
俺たちは二人しかいない。
「店番がいるな」
「まだ店もないよ」
「そうだった」
先のことを考えすぎた。
◇ ◇ ◇
宿に戻って、紙を広げる。
リーネからは石鹸。
鞄は少量と注文。
ノルンの道具は、最初は絵と説明だけで受注。
中古品はセルトで仕入れる物を中心にして、ラグナから運ぶのは値段に差がある物だけ。
「こうすると、意外と持ってくる物少ないな」
「最初はそれでいいんじゃない?」
「店なのに?」
「売れるか分からない物でいっぱいにするよりいいでしょ」
「まあね」
店を開くなら、棚いっぱいに商品を並べたくなる。
でも、その棚を埋めるために金を使って、売れなかったら意味がない。
俺は紙に書いた候補を見直した。
「最初は、小さくか」
「レインがそれ言うんだ」
「俺だって学ぶよ」
「じゃあ店も小さくていいね」
「それは……」
「何?」
「せっかくなら、ちょっと格好いい店にしたくない?」
「小さく始める話、どこ行った?」
「店の広さじゃなくて、内装の話」
「もっと駄目な気がする」
まだ店を借りてもいない。
なのに棚の形まで考え始めている俺を見て、カイルがため息をついた。
危ない。
セルトに来てから、使いたい理由がどんどん増えている。
とりあえず今は、財布を開かないでおこう。




