店をやるなら、何を売る?
滞在を一週間延ばすと決めた翌日。
俺とカイルは、朝から市場を歩いていた。
「まず、似たような店がないか探そう」
「各地の商品を集めてる店?」
「うん。それが普通にあるなら、同じことやっても意味ないでしょ」
「確かに」
昨日までは、面白そうだと思っただけだった。
リーネの石鹸や鞄、ノルンの道具、ラグナで見つけた物。それを一か所に集めたら、知らない物が並ぶ面白い店になるんじゃないか。
でも、セルトは大きな町だ。
俺が思いつく程度のことなら、すでに誰かがやっていてもおかしくない。
◇ ◇ ◇
結論から言えば、似た店はあった。
「普通にあるね」
「あるなあ」
市場から少し離れた大通り。
そこには、各地から仕入れた商品を扱う商店が何軒もあった。
布。
食器。
酒。
保存食。
装飾品。
店によって得意な物は違うけど、別の町から商品を仕入れて売ること自体は珍しくない。
「そりゃそうか」
「街道が三本通ってる町だからね」
「いろんな町から物が来るなら、それを売る人もいるよな」
当たり前だった。
危ない。
危うく「各地の商品を集める店なんて新しいんじゃない?」と得意げに始めるところだった。
「じゃあ駄目?」
「いや」
俺は店先を眺める。
「もうちょっと見たい」
同じような商売があるから無理、とは限らない。
むしろ、すでに店があるなら買う人もいるということだ。
問題は、その中に俺たちが入る理由があるかどうか。
◇ ◇ ◇
何軒か見ているうちに、少しずつ違いが分かってきた。
大きな商店は、扱う量が多い。
布なら布。
食料なら食料。
生活用品なら生活用品。
いろんな町から仕入れていても、商品そのものは似た種類でまとめられている。
「何でも売ってる店もあるけどね」
「ハンスの店を大きくした感じだな」
「うん」
逆に、珍しい物だけを集めた店もあった。
ただ、値段が高い。
装飾品や遠くの酒、見たことのない置物なんかが並んでいて、俺でも気になる。
「これ、ちょっと欲しい」
「何に使うの?」
「飾る」
「宿に?」
「……買わないよ」
危なかった。
自由に使える金は、父さんへの贈り物でかなり減っている。
今は見るだけだ。
「でも、こういう店とも違うんだよな」
「レインが考えてるのは?」
「珍しいだけじゃなくて、使える物」
石鹸は使う。
鞄も使う。
ノルンの道具も、必要な職人には役に立つ。
カイルが中古品の店で見つける物だって、安くて使えるから価値がある。
「他の町では普通だけど、この町ではあまり見ない物とか」
「それならありそうだね」
「でしょ?」
「でも、それをどうやって見つけるの?」
「……そこなんだよな」
俺たちはセルトの人間じゃない。
何が珍しいかを、まだ知らない。
◇ ◇ ◇
午後は商品ではなく、店そのものを見ることにした。
大通りは人が多い。
当然、店も多い。
空いている場所がないわけじゃないけど、聞いてみると借りる金も高かった。
「高くない?」
「人通りあるからでしょ」
「ちょっと横に入ると?」
「かなり下がるね」
「でも人も減る」
「そういうもんじゃない?」
世の中うまくできている。
安くて、人が多くて、広くて、便利な場所。
そんな都合のいい店はなかった。
「最初から大通りはないな」
「まだ店やるって決めてないけどね」
「もしもの話」
「はいはい」
市場では、一日や数日だけ場所を借りて売る商人もいる。
町の外から来て、持ってきた商品を売り切って帰る人も珍しくないらしい。
「最初はこっちでもいいかも」
「店を借りる前に?」
「うん。何が売れるか分からないのに、いきなり店借りるの怖くない?」
「それは俺も思う」
意見が一致した。
店を持つのは、思っていたより金がかかる。
場所を借りる金だけじゃない。
商品を置く棚もいる。
生活するなら宿代もかかる。
在庫を持てば、その分の金も先に出ていく。
「……結構使うな」
「楽しそうな顔で言わないで」
「してないよ」
「してる」
店を作るための道具。
棚。
看板。
商品。
必要な物を考え始めると、ちょっと楽しくなってきただけだ。
◇ ◇ ◇
夕方、宿へ戻ってから、今日見たことを整理した。
「各地から仕入れて売る店は、もうある」
「うん」
「珍しい物だけ売ってる店もある」
「あるね」
「大通りの店は高い」
「場所代がね」
「市場なら短期間でも売れる」
「そこは使えそう」
俺は紙に書いた内容を見る。
昨日までは、各地の商品を集めれば店になると思っていた。
でも、それだけじゃ弱い。
「俺たちがやる意味、欲しいな」
「安さ?」
「大きい店には勝てなくない?」
「仕入れる量が違うだろうね」
「じゃあ品揃え?」
「それも向こうの方が多い」
「だよなあ」
いきなり二つ潰れた。
カイルが少し考える。
「レインが言ってた、使える物ってのは?」
「うん?」
「何でも置くんじゃなくて、俺たちが実際に見て、使えると思った物だけ置く」
「ああ」
「中古品を仕入れるときと似てる」
なるほど。
安いから買うんじゃない。
珍しいから買うんでもない。
誰が使うのか。
何に使えるのか。
その値段でも欲しい人がいるのか。
俺たちは、今までそれを何度も考えてきた。
「それならノルンの道具も入るな」
「在庫で置くの?」
「いや、あれは高いから見本だけ」
「見本にも一台買う必要あるけど」
「……父さんの借りる?」
「返してあげなよ」
駄目か。
でも、売り方はいろいろありそうだ。
「石鹸みたいに普通に置く物もある」
「鞄みたいに数を絞る物もある」
「高い道具なら見本だけ置いて注文を取る」
「中古品なら一個ずつ状態を見て仕入れる」
少しずつ形が見えてきた。
全部を同じように売る必要はない。
「なんか、できそうじゃない?」
「まだ商品一個もないよ」
「分かってるって」
今回は下見だ。
商品を持ってきていないのは、むしろ正解だったかもしれない。
適当に持ってきていたら、売ることばかり考えていた。
「残りの滞在で調べよう」
「何を?」
「リーネから持ってきたら売れそうな物。ラグナからなら何がいいか。それと、セルトで仕入れられそうな物」
「全部?」
「全部」
カイルが笑った。
「一週間延ばしてよかったね」
「まだ足りなくなったりして」
「それは帰ってから考えよう」
そうだな。
俺たちは一度帰る。
そのつもりは変わっていない。
ただ。
帰ったあと、もう一度セルトへ来る理由は、少しずつでき始めていた。




