↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/264

使った分は、稼げばいい

翌朝。


 目を覚まして最初に目に入ったのは、枕元に置いた革鞄だった。


「…………」


 格好いい。


 やっぱり格好いい。


 厚い革。


 丈夫そうな金具。


 細かな飾り縫い。


 中には三つの収納。


 売上。


 仕入れ。


 貯金。


 それぞれを分けて管理できる、完璧な商売道具だ。


 問題があるとすれば。


「分ける金がねえな」


 現在の所持金。


 15リル。


 昨日まで65リルあった。


 一晩寝ても、50リルは帰ってこなかった。


 当たり前である。


「…………」


 でも。


 俺は革鞄を腰につけた。


 後悔はしていない。


 これは必要経費。


 商売のため。


 貯金のため。


 何度考えても、この結論は変わらない。


 だったら。


「使った分は、稼げばいい」


 簡単な話だ。


 50リル使ったなら、50リル稼ぐ。


 100リル使ったなら、100リル稼ぐ。


 1,000リル使ったなら――


「……いや、それは使う前に止まろう」


 さすがに怖い。


 とにかく。


 石鹸は売れている。


 ミラの店では待っている客がいるし、ハンスにも十個卸した。


 同じように作って売れば、また金は増える。


「よし」


 今日から。


 取り返します。


     ◇ ◇ ◇


 まずは油。


 石鹸を作るなら、これがないと始まらない。


 俺は空の容器を持って、いつもの油屋へ向かった。


「また来たか」


「また来ました」


 店主も、もう俺の顔を覚えている。


 以前交渉した通り、容器をこちらで用意すれば、小瓶一つ分と同じ量を11リルで売ってもらえる。


「いつもの量で?」


「お願いします」


「11リルだ」


 革鞄を開く。


 15リル。


 そこから11リルを出す。


「…………」


「どうした?」


「いや」


 分かっていた。


 昨日から分かっていた。


 それでも実際に払うとつらい。


 15リル。


 から。


 4リル。


「商売って金減るな……」


「何言ってるんだ?」


「こっちの話です」


 油を受け取る。


 これで石鹸八個くらいは作れる。


 全部ミラのところで一個5リルで売れれば、俺に入るのは一個4リル。


 八個なら32リル。


 ハンスに卸すなら一個3リルだから、24リル。


「…………」


 いける。


 どっちにしても増える。


 もちろん、全部が利益ではない。


 昨日学んだ。


 そこはもう間違えない。


「俺、成長してるな」


 50リルの鞄を買った翌日に言うことではない気もする。


     ◇ ◇ ◇


 家へ戻る。


 油。


 ある。


 果実の皮。


 ミラからもらった分がまだある。


 型。


 二つある。


 天秤。


 ある。


 記録用の木板。


 ある。


「よし」


 準備完了。


 あとは作るだけ。


 俺はいつもの場所へ向かった。


 そして。


「…………」


 止まった。


 灰を置いている場所。


 ほとんどない。


「母さん」


「なに?」


「灰は?」


「そこにあるでしょう?」


「これだけ?」


 エレナが俺を見る。


 その顔。


 前にも見た。


「だから言ったでしょう。そんなに毎日たくさん出るものじゃないって」


「…………」


 そうだった。昨日の時点で、家の灰だけじゃそのうち足りなくなるって気づいてた。


 気づいてたのに。


 何も対策してませんでした。


「いや、でも昨日とか火使ったよね?」


「使ったけど、あなたが欲しがってるほどは出ないわよ」


「もっと燃やしたりは?」


「石鹸のためだけに薪を燃やすの?」


「…………」


 それは。


 駄目だ。


 薪だって無料じゃない。


 灰を作るために薪を買って燃やす。


 できなくはない。


 でも。


 なんか違う。


「そうだよな……」


 今まで家で出た灰を使っていたから、ほとんど金のかからない材料だと思っていた。


 でも違った。


 安いとか高いとか以前の問題。


「足りない」


 作る量が増えれば。


 必要な材料も増える。


 当たり前。


 油だけ見ていた。


「……やっちまったな」


 手元には。


 油。


 あります。


 石鹸を作るための道具。


 あります。


 注文。


 あります。


 金。


 4リルしかありません。


 灰。


 ありません。


「完璧じゃないな」


「何が?」


「俺の計画」


「いつものことじゃない」


「母さん、最近俺に厳しくない?」


 エレナは笑っていた。


     ◇ ◇ ◇


 さて。


 どうする。


 灰。


 灰。


 灰。


 俺は家の前に座り込んで考えた。


 前世なら、ネットで検索すれば終わる。


『灰 大量 入手方法』


 検索。


 終了。


 便利だったな。


 インターネット。


 この世界にはない。


 でも。


 灰自体は珍しい物ではない。


 火を使えば出る。


 問題は。


 どこで大量に火を使っているか。


「…………」


 料理屋。


 パン屋。


 鍛冶屋。


 頭の中にいくつか候補が浮かぶ。


 ただし。


 何を燃やした灰でも同じように使えるのか。


 そこは分からない。


 俺の石鹸知識は、相変わらず。


『灰から作れるらしい』


 くらいで止まっている。


「現代知識、こういうところで急に役に立たなくなるんだよな……」


 知らないものは知らない。


 だから。


 試すしかない。


 でも。


 いきなり大量に集めて失敗するのも嫌だ。


「まず、少しずつか」


 候補ごとに少量をもらって、小さく試す。


 使えそうなら。


 そこから量を増やす。


「よし」


 方針は決まった。


 問題は。


 誰に頼むか。


     ◇ ◇ ◇


 最初に思い浮かんだのは、ミラだった。


 パン屋。


 毎日、窯を使う。


 つまり。


 火を使う。


 そして。


 火を使えば。


「灰、出るよな?」


 俺はそのまま市場へ向かった。


 腰には、新しい革鞄。


 中身は4リル。


 見た目だけなら。


 ちょっとした商人。


 所持金だけなら。


 焼き串一本で破産寸前。


「…………」


 考えるのやめよう。


     ◇ ◇ ◇


「灰?」


 ミラが首を傾げた。


「うん」


「今度は灰なの?」


「今度は灰です」


 果実の皮をもらい。


 今度は灰。


 だんだん。


 パン屋に何をしに来ているのか分からなくなってきた。


「窯、使ってるよね?」


「毎日使ってるけど」


「灰って捨ててる?」


「そりゃ捨てるけど……」


「それ」


 俺は指を差した。


「欲しい」


「…………」


 ミラが俺を見る。


「レイン」


「はい」


「最近、ゴミばっかり欲しがるね」


「言い方!」


 果実の皮。


 灰。


 確かに。


 否定できない。


「石鹸に使うんだよ」


「灰も?」


「たぶん」


「たぶん?」


「今使ってるのも灰だから」


「それなら最初からそう言ってよ」


 ミラは笑いながら、店の奥を見る。


「取っておくくらいならできるよ」


「本当?」


「どうせ捨てるものだし」


「無料?」


「…………」


 ミラが笑った。


 嫌な予感。


「果物の皮も取っておいてるんだけど?」


「…………」


「灰も?」


「…………」


「毎日?」


「…………」


 無料。


 では。


 なさそうです。


「条件は?」


「そうだねえ」


 ミラが考える。


 俺は待つ。


 現在。


 所持金4リル。


 高いことを言われたら。


 詰む。


「じゃあ――」


 ミラが口を開いた。


「今度、うちのパン買って」


「…………」


「それでいいよ」


「パン?」


「最近、石鹸売りに来ても何も買わなくなったでしょう?」


「…………」


 成長したからね。


 蜂蜜パンも我慢できる男になったからね。


「普通のパンでいい?」


「いいよ」


「一個?」


「一個」


「毎回?」


「まさか。一回でいいよ」


「…………」


 俺はミラを見る。


「優しいな」


「八歳の子から灰代を取るほどじゃないよ」


「中身は三十過ぎだけど」


「何?」


「なんでもない」


 危ない。


     ◇ ◇ ◇


 こうして。


 灰の入手先。


 一つ目。


 確保。


 ただし。


 まだ終わりではない。


 パン屋の灰が、今まで家で使っていた灰と同じように使えるかは分からない。


 まず試す。


 問題がなければ。


 量を増やす。


 そして。


 パン屋だけで足りなくなったら。


 別の場所も探す。


「…………」


 なんか。


 少しずつ。


 商売っぽくなってきたな。


 最初は。


 家にある灰と。


 母さんにもらった油で。


 なんとなく作った石鹸だった。


 それが今では。


 油屋から油を仕入れ。


 パン屋から果実の皮をもらい。


 さらに灰まで確保しようとしている。


 作った石鹸は。


 パン屋で売って。


 雑貨屋にも卸している。


「俺、商人じゃん」


 ちょっと嬉しい。


 腰には。


 50リルの革鞄。


 中身。


 4リル。


「…………」


 まず。


 稼ごう。


 格好だけ商人から。


 本物の商人になるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。