注文が入ってから、作ればいい
リーネから注文を送って、数日が経った。
まだ返事は来ていない。
ノルンまで自分で行けば話は早いけど、一台注文するたびに往復していたら、それだけで時間がなくなる。
「こういうの、待つしかないんだよな」
町をまたいで商売するなら、これにも慣れないといけない。
前世みたいに、連絡したらすぐ返事が来るわけじゃない。
手紙も金も、人が運んでいる。
便利だったんだなあ、あの世界。
◇ ◇ ◇
「レイン、ノルンから返事来てるぞ」
ハンスの店へ顔を出すと、そう言われた。
「本当?」
「ああ。注文は受けるそうだ」
「よかった」
受け取った手紙は短かった。
注文は一台。
値段は120リル。
前と同じ物を作る。
完成したら、リーネ方面へ戻る荷に合わせて送る。
そして最後に、ネイルらしい一言が添えられていた。
『こっちで使う物だと思ってた。リーネでも欲しがる奴がいるんだな』
「俺もそう思ってたよ」
ノルンは木工職人が多い。
だからあの道具を作る意味があったし、売るならあの町だと思っていた。
まさか父さんへの贈り物から、別の町で注文が入るとは思わなかった。
「これで正式に注文成立だな」
「うん」
「代金はどうする?」
「前と同じでいいかな。商品代の120リルをノルンに送って、運び賃はこっちに届く便が決まってから」
「それが分かりやすいだろうな」
注文した職人にも、その形で話してある。
今回は前と同じくらいなら8リル。
ただし、荷の都合で変わる可能性はある。
「これで二台目か」
「三台目」
「三台?」
「ノルンで最初に売れた一台。父さんの一台。今回の一台」
「ああ、そういうことか」
作った物が、少しずつ外へ出始めている。
◇ ◇ ◇
「もし、また注文が来たらどうする?」
ハンスが聞いてきた。
「前に言ってたやつ?」
「ああ。一台ずつ注文を送って、一台ずつ運んでもらうのか?」
「何台かまとめられるなら、その方がいいんだよね」
「荷次第だがな。一台運ぶより、同じ便で二台、三台と運べた方が一台あたりの負担は小さくできるかもしれん」
「じゃあ先に何台か作ってもらう?」
言ってから、止まった。
何台?
まだリーネから注文されたのは一台だけだ。
三台作っておけば売れるかもしれない。
五台ならもっと――。
「……いや、やめよう」
「珍しいな」
「なんで?」
「お前なら先に作ると言うかと思った」
「俺も今ちょっと思った」
「思ったのか」
でも、ノルンで最初に作ったときとは違う。
あのときも、実際に職人へ使ってもらってから注文を取る形にした。
今だって同じでいい。
「注文が入ってから作ればいいよ」
「その方が安全だな」
「売れるか分からないのに共同の金から材料代出すのも嫌だし」
「まともになったじゃないか」
「前からまともだよ」
「そういうことにしておくか」
信用がない。
でも今回は、本当に先に作る必要はないと思う。
注文が二台、三台と続くようなら、そのとき運び方を考えればいい。
リーネで注文をまとめる人が必要になるかもしれない。
運ぶ便をある程度決めた方がいいかもしれない。
それは、必要になってからでいい。
「じゃあ今回は一台だけ」
「ああ」
「次の注文が来たら、また考える」
「それで十分だ」
商売を大きくすることばかり考えなくてもいいらしい。
◇ ◇ ◇
その日の夕方、カイルと合流した。
ノルンから注文を受ける返事が来たことを伝えると、カイルは素直に頷いた。
「じゃあ、あとは向こうが作るの待つだけだね」
「うん」
「俺たちは?」
「俺たち?」
「完成するまでリーネで待つの?」
「あ」
待つ必要はない。
ネイルたちは、俺がいなくても作れる。
完成したら運んでくれる。
代金や注文の話も、もう決まっている。
「……暇だな」
「仕事探しなよ」
「違う。そうじゃなくて」
俺は笑いながら首を振った。
ノルンから戻って、父さんに道具を贈った。
そこから偶然もう一台注文が入り、その手配も終わった。
リーネで今やるべきことは、一通り片付いている。
「そろそろ次、行く?」
カイルが少しだけ笑った。
「俺もそれ言おうと思ってた」
「どこにする?」
「それを決めるところからでしょ」
そうだった。
前回は、木工の町ノルン。
そこで予定になかった道具まで作った。
次の町では、何があるんだろう。
「今度は変な物に金使わないようにしないとな」
「ノルンでも最初はそう言ってなかった?」
「言ったっけ?」
「言ってた気がする」
覚えてない。
でも今度こそ大丈夫だ。
たぶん。




