俺以外から、注文入りました
数日後。
父さんの工房を覗くと、この前来ていた木工職人がいた。
「あ、レイン。ちょうどよかった」
「俺?」
「ああ。この前の道具なんだけどな」
男の視線が、工房の奥に置かれた足踏みの道具へ向く。
父さんはその横で作業を続けていた。
「やっぱり一台、頼みたい」
「本当に?」
「ああ。あれから考えたんだが、うちは同じ寸法の部材をまとめて作ることが多い。使う仕事を選べば、十分元は取れそうだ」
そこまで考えて決めたなら、俺から言うことはない。
「じゃあ注文できるか聞いてみるよ」
「頼む」
「値段は前に言った通り、本体120リル。それに今回と同じなら運び賃が8リルくらい」
「合わせて128リルだな」
「うん。ただ、運び賃は荷によって変わるかもしれないから、そこだけ確認してからでいい?」
「ああ。それくらいなら構わん」
決まった。
ノルンで一台売れた。
父さん用に俺が一台買った。
そして今度は、リーネの職人から注文が入った。
「……本当に売れた」
「まだ注文だろ」
父さんが横から言う。
「注文入ったらほぼ売れたようなもんじゃん」
「ちゃんと作って届いて、金を払ってから言え」
「厳しいなあ」
「仕事だぞ」
はい。
その通りです。
◇ ◇ ◇
注文を受けたその足で、ハンスの店へ向かった。
「またノルンに送りたい物があるんだけど」
「今度は何を買った?」
「俺じゃない」
「珍しいな」
「その反応やめて」
事情を説明する。
父さんの工房に置いた道具を別の木工職人が見て、実際に使って、それから注文を決めた。
ハンスは話を聞き終えると、少し驚いた顔をした。
「もう次が売れたのか」
「俺もびっくりしてる」
「お前が売り込んだわけじゃないんだろ?」
「全然。父さんにあげただけ」
「それを見た職人が欲しがった、と」
「そう」
言葉にすると、本当に偶然だ。
最初からリーネで売るつもりなら、父さんの工房に置いて職人へ見せる方法を考えたかもしれない。
でも今回は違う。
ただ父さんに使ってほしかっただけだ。
「注文は前と同じようにノルンへ送ればいい?」
「ああ。一台ならそれでいいだろう」
「運び賃も8リル?」
「同じ条件で運べるならな。ただ、戻りの荷次第では変わる」
「じゃあ、そこは先に確認してもらう」
「それがいい」
前回は俺が買う側だったから、多少変わっても自分で払えば済んだ。
でも今回は他人の注文だ。
勝手に128リルで受けて、あとから130リルだったと言うわけにはいかない。
「……こういうのも決めないと駄目なんだな」
「当たり前だ」
「商品120リル、運び賃は別」
「その方が分かりやすい」
なるほど。
128リルで売るんじゃない。
あくまで道具そのものは120リル。
そこに、運ぶための金が追加される。
◇ ◇ ◇
注文を送る手配をしていると、ハンスがふと聞いた。
「ところで、これからも注文が来たら毎回お前が持ってくるのか?」
「え?」
「今回は知り合いだからいい。だが、その職人が別の職人に話して、そいつも欲しいと言ったら?」
「俺に言ってもらう」
「お前が町にいなかったら?」
「あ」
それは困る。
俺とカイルは、これからも町の外へ行くつもりだ。
むしろリーネにずっといる方が少なくなるかもしれない。
「父さんに頼むとか?」
「ガルドは木工職人だろ。お前の注文係じゃない」
「だよね」
「俺に持ってこられても、向こうの職人との話を全部知っているわけじゃない」
「それもそうか」
今はまだ一台。
この先、本当に注文が増えるかも分からない。
でも、もし増えたら。
「ノルンではネイルが注文を受けてるんだよね」
「なら、こっちでも誰かがまとめて受けられれば楽だろうな」
「なるほど」
リーネで注文を受ける。
それをまとめてノルンへ送る。
完成した物をまとめて運んでもらう。
そうすれば、一台ずつ俺が間に入る必要はない。
「それなら、まとめて運べば運び賃も安くなったりする?」
「一台あたりなら安くなる可能性はあるな。荷車に余裕があればだが」
「おお」
「まだ一台しか注文されてないぞ」
「分かってるって」
先走るな。
俺は自分に言い聞かせる。
ノルンでも最初に需要を確かめた。
こっちでも同じだ。
注文が一件入ったからといって、十台も二十台も売れるとは限らない。
「今回は今まで通り送ろう」
「ああ。それでいい」
「もし次も来たら、そのとき考える」
「珍しくまともだな」
「俺、最近かなりまともだよ?」
「自分で言うな」
◇ ◇ ◇
その日のうちに、俺はカイルにも今回のことを話した。
「父さんに贈ったやつ、別の職人から注文入った」
「もう?」
「うん。一台」
「何か売り込んだ?」
「何もしてない」
「じゃあ運がよかったね」
「俺もそう思う」
一台売れれば、俺たちの取り分は10リル。
運び賃は別だから、そこは変わらない。
「つまりさ」
「うん」
「父さんに128リル使ったの、間違いじゃなかったってことだよね」
「違うよ」
即答された。
「なんで?」
「父親への贈り物だったんでしょ?」
「そうだけど、そこから注文が入った」
「それは結果」
「でも10リル入るよ?」
「それも結果」
「このまま十三台売れたら、贈った分より多く戻ってくる」
「そういう数え方するから駄目なんだよ」
おかしい。
計算は合っている。
「最初から売るために買ったなら仕事の金。でも今回は自分の金で父親に贈った。それで終わり」
「……はい」
「たまたま注文につながったからって、あとから仕事の支出だったことにしない」
厳しい。
でも、たぶんカイルが正しい。
ここで「やっぱり投資だった」と言い始めたら、俺は今後どんな買い物でも仕事扱いできる気がする。
「じゃあ、今回は偶然10リル増えるだけ?」
「売れたらね」
「父さんに贈ってよかったなあ」
「それは商売と関係なく言いなよ」
「もちろんそれもあるよ」
父さんも普通に使ってくれている。
それだけで、買った意味はあった。
そのうえ注文まで入った。
「……やっぱり買って正解だったな」
「まあ、それは否定しない」
珍しく認められた。
ただ、一つだけ問題がある。
自由に使える金は、かなり減った。
それについては、何も解決していない。




