今、いくら持ってる?
家に戻ってから、俺は机の上に三つの袋を並べた。
貯金。
仕事用。
自由に使う金。
それとは別に、カイルと一緒に始めてから作った共同資金がある。
「……増えたな」
昔は全部まとめて持っていた。
それだと使っていい金と駄目な金が分からなくなるから分け始めたのに、今ではさらに一つ増えている。
とりあえず、最後にきちんと数えたところから確認しよう。
貯金は5,380リル。
仕事用は701リル。
自由に使う金は96リル。
「貯金、全然100万に近づいてないな」
5,000を超えたときは結構増えた気がしたんだけど。
100万と並べると、誤差みたいに見える。
「考えるのやめよう」
まずは目の前の金だ。
◇ ◇ ◇
翌日、カイルがラグナへ帰る前にもう一度うちへ寄った。
「金数えるんじゃなかったの?」
「数えたよ」
「どうだった?」
「思ったより持ってた」
「それ一番危ない感想じゃない?」
「なんで?」
「使いそうだから」
失礼な。
でも今日は、共同資金についても確認しておきたいことがあった。
「昨日、ハンスとダリオから122リル受け取ったんだよ」
「石鹸と鞄?」
「そう。石鹸が90リルで、鞄が32リル」
「結構入ったね」
「俺がいない間にね」
そこが一番嬉しい。
自分がノルンで68リル使って試作している間にも、リーネでは昔作った商売が動いていた。
「それでさ」
「うん」
「このうち仕事に回す分、共同資金に入れようと思ってるんだけど」
「駄目」
早かった。
「まだ何リル入れるか言ってないよ?」
「全部駄目」
「なんで?」
カイルは少し考えてから、机の上の袋を指した。
「石鹸って、俺と会う前からやってた仕事だよね?」
「うん」
「鞄も?」
「そうだけど」
「ならレインの金でしょ」
「でも、これから一緒に商売するじゃん」
「それとこれは別」
きっぱり言われた。
「俺たちが一緒に始めた仕事で稼いだ金は共同。ノルンの道具もそう」
「うん」
「でも石鹸と鞄はレインが昔からやってる仕事。そこから入った金まで半分俺の物みたいになるのは変だろ」
「半分あげるつもりじゃないよ。仕事に使うだけ」
「同じだよ。共同資金に入れたら、俺にも使う権利ができる」
言われてみれば、そうなる。
俺としては、これから二人で仕事をするなら、仕事に使える金は多い方がいいと思っただけなんだけど。
「でも俺の仕事用、701リルあるよ?」
「知らないよ」
「共同資金に足したら、もっと色々できるじゃん」
「必要になったら、そのとき考えればいい」
「入れといた方が楽じゃない?」
「駄目」
頑固だな。
「二人の金を増やすなら、二人で同じだけ出そう」
「同じだけ?」
「最初にそう決めたでしょ」
そうだった。
俺の方が持っているからといって、好きに金を足してしまえば、いつかどっちの金なのか分からなくなる。
「……ちゃんとしてるなあ」
「普通だと思うけど」
「俺だったら貰えるなら入れてもらうかも」
「だから俺が止めてるんだよ」
相棒選びは間違ってなかったらしい。
◇ ◇ ◇
結局、石鹸と鞄から入った122リルは、全部俺個人の収入として扱うことになった。
問題はここからだ。
「どう分けよう」
「それはレインが決めることでしょ」
「一緒に考えてよ」
「なんで俺がレインの小遣いまで決めるの」
「小遣いじゃなくて資産管理」
「急にちゃんとした言葉使うな」
とりあえず、今までと同じように貯金を優先する。
122リルのうち、70リルを貯金。
30リルを仕事用。
残り22リルを自由に使う金へ入れる。
「これで――」
袋ごとに足していく。
貯金は5,450リル。
仕事用は731リル。
自由に使う金は118リル。
「……118」
俺は自由に使う金の袋を見る。
「何?」
「あと2リル」
「何が?」
「父さんのやつ」
「ああ」
ノルンで作った道具は120リル。
あと2リルあれば買える。
「惜しい」
「別に今すぐ買わなくてもいいでしょ」
「2リルだよ?」
「2リルだね」
「なんかないかな」
「何を探してるの?」
「2リル」
「落ちてないよ」
分かってる。
でも118リルまで来たら、120リルにしたくなる。
「仕事用から2リル――」
「それ仕事?」
「父さんが使って、他の職人も欲しがったら仕事になる」
「最初は何のために買うって言ってた?」
「……父さんへの贈り物」
「じゃあ自由に使う金」
「はい」
駄目だった。
◇ ◇ ◇
「でもさ」
カイルが帰ったあと、俺はもう一度袋を見た。
今回受け取ったのは122リル。
でも、石鹸も鞄も今回だけ売れたわけじゃない。
俺が成人するまでの間にも売れていたし、受け取った金をその都度使ったり、袋へ入れたりしてきた。
最後にきちんと残高を記録してから、少し時間が空いている。
帳面を引っ張り出す。
「ちゃんと書いといてよかった」
石鹸。
鞄。
細かい仕事。
使った金。
袋へ移した金。
一つずつ確認していくと、今数えた金額とは別に、記録だけしてまだ袋へ分け直していなかった分があった。
「……危な」
金の管理をしているつもりで、全然できてないじゃん。
改めて全部を数え直す。
時間はかかった。
でも、ようやく今の金額が出た。
貯金、5,610リル。
仕事用、768リル。
自由に使う金、143リル。
「おお」
ちゃんと増えてる。
100万リルまでは、あと994,390リル。
「……遠いな」
そこは見なかったことにしよう。
そして、もう一つ。
俺は自由に使う金の袋を見る。
143リル。
父さんに贈りたい道具は120リル。
「買える」
今度こそ買える。
しかも貯金にも、仕事用にも触らなくていい。
共同資金なんて、もちろん使わない。
「完璧じゃん」
120リル使ったら、自由に使える金は23リルになる。
一気に減る。
かなり減る。
でも、父さんへの贈り物だ。
今まで世話になった分を考えれば、これくらい――。
「……いや、待て」
俺は一度袋を閉じた。
昔の俺なら、買えると分かった瞬間に使っていた気がする。
今は一晩くらい考えてもいい。
明日起きても欲しかったら、ノルンへ注文を出そう。
そう決めて、袋をしまう。
五分後。
「いや、絶対明日も欲しいだろ」
分かりきっている気もした。




