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転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


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201/264

留守でも、ちゃんと売れてました

ノルンを出て、数日。


 見慣れたリーネの門が見えてきた。


「帰ってきたなあ」


「レインはね」


 隣を歩くカイルが言う。


「あ、そっか」


「俺はこのあとラグナまで帰るから」


 ノルンから戻ってきたとはいえ、カイルの家はここじゃない。リーネにいる間はトーマの家の宿に泊まっているだけだ。


「今日は泊まってく?」


「そのつもり。さすがにこのままラグナまで行くのは疲れる」


「じゃあトーマんとこだね」


「うん」


 門をくぐる。


 しばらく離れていただけなのに、妙に懐かしく感じた。


     ◇ ◇ ◇


「ただいま」


 家の扉を開けると、母さんが奥から出てきた。


「おかえり、レイン」


「ただいま」


「カイル君も一緒なのね」


「お邪魔します」


「今日は泊まっていくの?」


「トーマの家の宿に泊まります」


「あら、そうなの」


 母さんは少し残念そうにしながらも、俺たちの荷物を見た。


「ずいぶん長かったわね。どうだった?」


「面白かったよ」


「何か売ってきたの?」


「今回は作ってきた」


「何を?」


「木を切る道具」


 母さんの顔が止まった。


「……ノルンって、そういう物を作りに行ったの?」


「違うよ。最初は見るだけだった」


「途中から68リル使ったけどね」


 カイルが余計なことを言う。


「68リル?」


「共同の仕事用だから!」


「そういう問題かしら」


 帰って早々、母さんの視線が痛い。


「ちゃんと売れたよ。一台」


「なら、よかった……のかしら?」


「まだ58リル分戻ってないけど」


「カイル、ちょっと黙ってて」


「事実でしょ」


 相棒を連れて帰ってきたはずなのに、母さん側の人間が一人増えた気がする。


     ◇ ◇ ◇


 父さんが工房から戻ってきたのは、その少しあとだった。


「帰ったか」


「ただいま」


「どうだった?」


「面白かった」


「それは聞いたわ」


 母さんが横から言う。


「68リル使ったんですって」


「もう言ったの?」


「お前が言ったんだろ」


 父さんが笑う。


「何に使ったんだ?」


「木工の道具を作ったんだよ」


「お前が?」


「俺だけじゃない。向こうの木工職人と、鍛冶職人と、仕組みに詳しい職人」


 最初は同じ長さを毎回測るのが面倒そうだと思ったこと。


 そこから位置を決める道具を作ったこと。


 その場で切れないかと考えて、丸い刃を作ったこと。


 最後には足で回しながら、一人で同じ長さの木材を続けて切れるようになったこと。


 全部話すと、父さんの表情が少し変わった。


「足で刃を回すのか?」


「そう」


「手は空く?」


「空くよ」


「同じ長さってのは?」


「最初に位置を決めれば、次から測らなくていい」


「へえ」


 食いついた。


 やっぱり。


「何その顔」


「別に」


「また何か考えてるだろ」


「考えてないよ」


 まだ言わない。


 父さんに一台贈るかどうかは、まず自分の金を確認してからだ。


「今度、見せたい物あるから」


「今持ってないのか?」


「ない」


「じゃあ何で言ったんだ」


「楽しみにしといて」


「よく分からんな」


 それでいい。


     ◇ ◇ ◇


 翌日。


 俺はまずハンスの店へ向かった。


 カイルはラグナへ戻る前にトーマと少し話していくらしく、今日は別行動だ。


「お、帰ってきたか」


「ただいま」


「ノルンはどうだった?」


「68リル使いました」


「何をしてきたんだ、お前は」


「ちゃんと一台売れたから」


「なら、その話はあとで聞こう」


 ハンスは笑いながら、店の奥へ入っていった。


 戻ってきた手には、小さな帳面がある。


「ちょうどいい。お前の分が貯まってる」


「石鹸?」


「ああ」


 俺が町を離れている間も、セラが作ってハンスへ納める流れは変わっていなかった。


 俺が注文を取りに来る必要もない。


 材料を買いに走る必要もない。


 それでも石鹸は店に並び、売れていた。


「今回は六十個だ」


「六十個?」


「何回かに分けて入ってる。お前の取り分は90リル」


「……俺、何もしてないよ?」


「そういう形にしたのはお前だろ」


 確かに。


 でも、実際に金を渡されると不思議な感じがする。


 六十個売れて、俺の取り分が90リル。


 ノルンで何日も試作して、今のところ戻ってきたのは10リル。


「石鹸ってすごくない?」


「今さら何言ってるんだ」


 そうなんだけど。


 自分がいない間にも売れていたというのが、思った以上に嬉しかった。


     ◇ ◇ ◇


 次に向かったのは、ダリオの工房だった。


「レインじゃねえか!」


「久しぶり」


「どこ行ってた?」


「ノルン」


「また町の外か。忙しいな」


 ダリオは相変わらず元気だった。


「そういえば、鞄どう?」


「売れてるぞ」


「本当?」


「ああ。旅用が中心だな。前に直した形も評判悪くない」


 工房の奥には、作りかけの鞄がいくつか並んでいる。


 もう俺が横について形を説明する必要はない。


「お前の分も取ってある」


「どれくらい?」


「今回は八個分だな」


 ダリオが帳面を確認する。


「一個につきお前の取り分が4リル。だから32リルだ」


「32リル」


 石鹸と合わせれば122リル。


 俺がいない間に、だ。


「……いいね」


「何がだ?」


「いや、何でもない」


 かなりいい。


 自分で毎日売らなくても、作らなくても、仕組みが残っていれば金が入ってくる。


 昔は全部自分で作って、自分で持っていって、自分で売っていた。


 それが今は、町を離れている間にも続いている。


「また何か作るのか?」


 ダリオが聞く。


「今はいいかな」


「珍しいな」


「ノルンで作ってきたばっかりだから」


「何を?」


「木を切る道具」


「なんで鞄作ってた奴が木を切る道具作ってんだ?」


「俺もよく分かんない」


 本当に何屋なんだろう。


     ◇ ◇ ◇


 家へ戻るころには、手元に122リル増えていた。


 もちろん、全部が自由に使える金というわけじゃない。


 どこへ入れるか決めないといけない。


 貯金に入れる分。


 仕事用に残す分。


 自由に使う分。


 それとは別に、カイルとの共同資金も整理する必要がある。


「……久しぶりにやるか」


 部屋に戻り、金を分けている袋を引っ張り出す。


 最後にちゃんと数えたとき、いくらだったっけ。


 たしか貯金は5,000リルを超えていた。


 仕事用もそれなりにあった。


 自由に使う金は――。


「……あれ?」


 少なかった気がする。


 嫌な予感がする。


 父さんにあげたい道具は120リル。


 今日受け取った金は122リル。


「いやいや、まだ分けてないから」


 全部使えるわけじゃない。


 分かってる。


 まず数えよう。


 話はそれからだ。


 俺は四つの金を、もう一度きちんと整理することにした。

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