一台目、ちゃんと売れました
注文が入ってから、三人の動きは早かった。
試作品をそのまま渡すわけではなく、ネイルは台を作り直し、バルドは新しい刃を用意する。ローディも足踏みの仕組みを最初から組み直していた。
「もっと時間かかると思ってた」
「もう作り方は分かってるからな」
ネイルはそう言いながら、台の具合を確かめる。
試作のときは、作っては直しての繰り返しだった。でも今回は最初から完成した形を目指せるから、余計な作業がほとんどないらしい。
「ここ、変わってない?」
「揺れるって言われただろ」
「変えてるじゃん」
「同じ物をちゃんと作っただけだ」
「それならいいけど」
カイルが念を押す。
「値段は変わらないよね?」
「変わらん」
「材料も?」
「決めた範囲だ」
「ならいい」
完全に監督役になっていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
完成した一台を、注文した工房へ運んだ。
「できたか」
「できました」
試作品を三日使ってもらっていたから、改めて長い説明はいらなかった。
それでもネイルは台の固定方法を説明し、ローディは足踏みの使い方を確認する。バルドは刃の扱いについて念を押していた。
「じゃあ、試してみる」
職人が座る。
足を動かすと、刃が回り始めた。
木材を置き、位置を決める。
そのまま一本。
二本。
三本。
切った木材を並べると、長さはきれいに揃っていた。
「問題なさそうだな」
「台は?」
「いい」
「刃は?」
「切れてる」
「踏み板は?」
「使える」
三人が順番に聞いていく。
「お前ら、自分のところしか聞かないのか」
職人が笑った。
俺もそう思う。
「じゃあ、これで」
職人が用意していた金を渡してくる。
120リル。
ちゃんと商品として売れた。
「ありがとうございます」
今度は注文が入っただけじゃない。
本当に金を受け取った。
◇ ◇ ◇
工房へ戻ってから、代金を分けた。
材料代。
三人の仕事代。
そして、俺とカイルの取り分。
「10リル」
カイルが俺たちの分を分ける。
「おお」
「なんでそんな嬉しそうなの」
「だって初収入だよ?」
「試作費68リル」
「今それ言う?」
「言う」
共同資金から出した試作費は68リル。
今回戻ってきたのは10リル。
「残り58リル」
「分かってるって」
「あと六台売れても足りないからね」
「七台目で超えるんでしょ?」
「そう」
道のりはまだ長い。
でも、最初の10リルは戻ってきた。
「最初は68リル全部なくなって終わる可能性もあったんだよね」
「まあね」
「それ考えたら、ちょっと安心した」
「珍しく弱気だね」
「俺だって金なくなるのは嫌だよ」
「使うときは楽しそうだけど」
それとこれとは別だ。
使った金が戻ってくるなら、それが一番いい。
◇ ◇ ◇
「次からどうする?」
金を分け終えたあと、改めて五人で確認する。
「注文は俺が受ける」
ネイルが言った。
「来たら二人に声をかける。それでいいんだろ?」
「ああ」
バルドが頷く。
「刃が必要なら作る」
「俺も仕組みを作る」
ローディも問題なさそうだ。
「一台売れたら、俺たちの分として10リル残しておいてもらう」
「次に来たときに渡せばいいな?」
「それでお願いします」
これなら俺とカイルがノルンにいなくても続く。
注文がなければ何も作らない。
注文が入れば三人が集まる。
売れたら俺たちにも10リル残る。
「なんか、本当に俺たちいらなくなったね」
「それでいいんじゃない?」
カイルが言う。
「ずっとここにいるつもりじゃないんだから」
確かに。
俺たちが離れたら止まる商売を作っても、旅を続けられない。
だったら、こうやって町に残していけばいい。
少しずつでも金が入るなら、なおさらいい。
◇ ◇ ◇
「そういえばさ」
話が終わったところで、俺は三人を見る。
「また何か思いついたら、ここ持ってきてもいい?」
「何を?」
ネイルが聞く。
「まだ分かんないけど。変な道具とか」
「面白ければな」
真っ先に答えたのはローディだった。
「回るやつ?」
「別に回らなくてもいい」
「じゃあ物による」
やっぱり回る物が好きらしい。
「バルドは?」
「くだらん物なら作らん」
「判断厳しくない?」
「使えん物を作ってどうする」
「ネイルは?」
「木で作れるなら見るくらいはする」
「おお」
「作るとは言ってないぞ」
全員、微妙に冷たい。
でも、そのくらいがちょうどいい気もする。
俺が何を言っても「面白い」と言われるより、駄目な物は駄目と言ってもらった方が助かる。
「じゃあ、今度もっと面白いの考えてくる」
「先に今のを売れ」
バルドが言った。
「売るのネイルじゃん」
「そういうところだぞ」
どういうところだ。
◇ ◇ ◇
その日の帰り。
俺とカイルは宿へ向かいながら、ノルンでのことを振り返っていた。
「結構長くいたね」
「最初は町を見るだけのつもりだったのにね」
「木を測ってるところ見ただけだったな」
「そこから68リル使ったけど」
「最後まで言う?」
「大事だから」
でも、その68リルから一つの道具ができた。
最初の一台も売れた。
それに、ネイル、バルド、ローディとも知り合えた。
金だけ見れば、まだ58リルの赤字。
それでも、何も残らなかったわけじゃない。
「そろそろ出る?」
俺が聞く。
「うん。明日、帰りの道を確認しよう」
「次の町は?」
「まず帰ってから」
「もう考えてもよくない?」
「考えるだけならね」
それなら遠慮はいらない。
次はどんな町へ行こう。
何が売られていて、どんな仕事があって、何が足りないのか。
ノルンへ来る前より、知らない町へ行くのが楽しみになっている。
ただ、一つだけ問題がある。
「次は68リルも使わないようにしよう」
「それ、俺じゃなくて自分に言ってる?」
「……二人に言ってる」
「俺は使ってないけど」
やっぱりカイルを誘って正解だったかもしれない。




