これ、いくらなら買います?
翌朝、俺たちは道具を売る前に、まず三人の仕事を分けるところから始めた。
「台はネイルでしょ?」
「ああ」
「刃と金属の部分がバルド」
「そうだな」
「回す仕組みがローディ」
「そこは俺だ」
ここまでは簡単だった。
問題は、その先だ。
「それぞれ、作るのにどれくらいかかる?」
三人が黙る。
「材料だけじゃなくて、仕事代も入れてね」
カイルが付け足した。
「自分で使う物を作るのとは違うから」
「分かってる」
そう答えたネイルが、材料と手間を一つずつ挙げ始める。
バルドとローディも続いた。
試作では作っては直し、また作っては直していたから、実際にいくらかかったのか分かりにくかった。でも今の形を最初から作るなら、必要な物はかなり絞れる。
「最初よりは安くなるね」
「当たり前だ。失敗した分まで客に払わせられるか」
バルドが言う。
それもそうだ。
◇ ◇ ◇
三人の話をまとめると、思っていたより安くはなかった。
台だけならそこまででもない。
でも刃がいる。
軸もいる。
足踏みの仕組みもいる。
それぞれ別の職人が作る以上、当然それぞれの仕事代も必要になる。
「これ全部合わせて、さらに売る側の取り分もいるよね」
俺が言うと、カイルが頷いた。
「そうしないと商売にならない」
「誰が売る?」
「それも決めないと」
俺は三人を見る。
三人も俺を見る。
「俺?」
「なんでお前なんだ」
ネイルに即座に否定された。
「だって最初に思いついたし」
「作るのは俺たちだろ」
「じゃあネイル?」
「俺は木工職人だ」
「俺も刃を作るだけだぞ」
バルドも逃げた。
「ローディは?」
「作る方が面白い」
「全員売る気ないじゃん」
作りたい人しかいない。
「でも、別に店を作る必要はないんじゃない?」
カイルが言った。
「欲しい人から注文を受けて、その都度三人で作ればいい。最初から何台も作る必要ないでしょ」
「なるほど」
確かに、誰にでも売れる物ではない。
必要な工房が注文する。
注文が入ったら三人がそれぞれ担当部分を作る。
それなら在庫を抱える必要もない。
「注文は誰が受ける?」
俺が聞く。
「それくらいは三人で決めて」
「急に投げたな」
「そこまで俺たちがやったら、町を出られなくなるよ」
それは困る。
俺とカイルは、この町で道具屋を始めるために来たわけじゃない。
「じゃあ、とりあえず値段決めて聞きに行こう」
「その前に」
カイルがまた止める。
「レインたちの取り分は?」
「あ」
「また忘れてたの?」
忘れていた。
◇ ◇ ◇
「別にいらなくない?」
俺が言うと、今度は三人まで微妙な顔をした。
「お前が言い出した物だろ」
ネイルが言う。
「でも作ったの三人じゃん」
「最初の測る仕組みも、お前が持ってきた話だ」
「そこからだいぶ変わったけどね」
「だからって何もなしは変だろ」
うーん。
白いソースのときは作り方そのものを売った。
でも今回は、俺一人の物と言うには三人の工夫が入りすぎている。
足踏みなんて、ローディが考え始めたものだ。
「じゃあ、一台売れるたびに少しもらう?」
俺が言う。
「それが一番分かりやすいんじゃない?」
カイルも頷いた。
「ただし、三人の取り分を削りすぎない程度にね」
俺とカイルの取り分は、二人で始めた商売の収入として扱う。
残りは三人が担当した仕事に応じて分ける。
これなら俺たちが町を離れても続けられる。
「売れれば、だけど」
「まずそこだな」
◇ ◇ ◇
昨日試してもらった工房へ、もう一度道具を持っていった。
「また来たのか」
「今度は一人で使えます」
「本当か?」
「見てもらった方が早いです」
ネイルが台を準備し、ローディが使い方を説明する。
昨日と違って、取っ手を回す人はいない。
一人が座る。
足を動かす。
刃が回る。
そのまま両手で木材を扱う。
「へえ……」
職人の反応が明らかに変わった。
「俺もやっていいか?」
「もちろん」
昨日も使った職人が座る。
最初は足と手の動きが合わず苦戦したが、何度か試すうちに一本切れた。
次は同じ位置へ木材を置く。
測らない。
二本目。
三本目。
「慣れはいるな」
「そこはどうしても」
「でも、一人でできるなら話が変わる」
よし。
「それで」
俺はカイルを見る。
カイルが頷いた。
「このくらいの値段なら、買います?」
昨日まとめた金額を伝える。
職人が黙った。
道具を見る。
俺たちを見る。
また道具を見る。
「……安くはないな」
「ですよね」
分かってはいた。
「でも、高すぎる?」
「うちなら考える」
「お」
「今すぐ買うとは言ってないぞ」
「はい」
危ない。
喜ぶところだった。
「毎日同じ物を何本も切る工房なら、使う回数が多い。そういうところなら、この値段でも意味はあると思う」
「逆に、たまにしか使わないところは?」
「普通のノコギリでいい」
はっきりしている。
誰にでも売れる道具ではない。
でも、必要な人はいる。
「じゃあ、もし注文するとしたら?」
「もう少し使わせてくれ」
「もちろんです」
それで十分だった。
◇ ◇ ◇
工房を出てから、カイルが言った。
「悪くないね」
「うん」
「ただ、何十台もすぐ売れる物ではなさそう」
「それも分かった」
町中の工房へ一台ずつ売れるような物ではない。
でも、同じ部品を繰り返し作る工房には役に立つ。
客が限られているなら、最初から大量に作らなければいい。
注文が入ったときだけ作る。
それなら三人も本業を続けられる。
「なんか、ちゃんと商売になりそうじゃない?」
「なりそう、までは来たね」
「まだ?」
「実際に金を払って買う人が出るまでは」
厳しい。
でも正しい。
俺は後ろを振り返る。
ネイル、バルド、ローディの三人は、まだ工房の前で道具を囲んでいた。
「何してるんだろ」
「さあ」
少し近づく。
「踏む位置、もう少し前の方がよくないか?」
「台を変えるなら先に言え」
「刃も少し――」
「待って」
カイルが止めた。
「今、使ってもらってる最中だから変えないで」
三人が黙る。
危ない。
売れるか確認する前に、また別の物になるところだった。
俺も気をつけよう。
……まあ、俺は何も言ってないけど。




