作った人以外にも、使ってもらおう
翌朝から、三人はまた道具を囲んでいた。
「ここの支え、もう少し詰められるな」
「先に台を小さくしたい」
「刃はもう一回直す」
ローディ、ネイル、バルド。
名前を知った途端、誰が何を言っているのか分かりやすくなった。でも、全員が同時に喋り始めると結局ややこしい。
「ちょっと待って」
カイルが三人を止めた。
「また何か変える前に、他の人にも使ってもらわない?」
三人の動きが止まる。
「他の奴?」
「うん。みんなこれ作った側でしょ」
確かに。
ネイルは実際に木工をしているけど、この道具を最初から一緒に作ってきた。どこをどう使うのか全部分かっている。
「何も知らない人に使わせた方が、使いにくいところ分かるんじゃない?」
「それいいね」
俺が頷く。
「昨日まで聞いて回った工房もあるし」
「なら、あそこに持っていくか」
ネイルがすぐに一軒の工房を挙げた。
同じ寸法の木材を何本も使う仕事が多く、最初に話を聞いたときも興味を示していたところだ。
「持っていける?」
俺が台を見る。
「五人いるだろ」
「俺とカイルも数に入ってる?」
「当たり前だ」
どうやら見学だけでは済まないらしい。
◇ ◇ ◇
「本当に作ったのか」
道具を運び込むと、工房の職人が驚いた顔をした。
「まだ完成じゃないですけど」
「これが、あのとき言ってたやつか?」
「そうです」
最初は、同じ長さを毎回測るのが面倒じゃないか。
そんな話だった。
それが今では台の横に取っ手がつき、その先では丸い刃が回る。
「ずいぶん大げさになったな」
「俺もそう思います」
「お前が始めたんだろ」
後ろからカイルに言われた。
それはそうなんだけど。
「まず使い方を見せる」
ネイルが一本の木材を台へ載せた。
端を位置決めの部分へ当てて固定する。ローディが取っ手を回し、刃の回転が安定したところで木材を送る。
切れた。
次の一本を置く。
測らない。
同じ場所へ当てて、そのまま切る。
「なるほどな」
職人が少し前へ出た。
「やってみます?」
「ああ」
◇ ◇ ◇
最初はローディが取っ手を回し、工房の職人に木材を扱ってもらった。
「ここに当てればいいんだな?」
「そう」
「押さえるのは?」
「ここだ」
「刃には近づけるなよ」
バルドまで横から口を出す。
「分かってる」
木材を置く。
切る。
もう一本置く。
また切る。
三本ほど終わったところで、職人が切った木材を並べた。
「これは楽だな」
俺とカイルが顔を見合わせる。
「本当ですか?」
「ああ。同じ長さを何本も作るならな。一回決めたら、あとは置いて切ればいい」
「ですよね」
「ただ」
来た。
最近、この言葉のあとには大体何かある。
「二人いるのがな」
「やっぱり?」
「こっちで一人回して、こっちで一人木を扱うんだろ?」
「今のところは」
「二人使うなら、一人ずつノコギリ持たせた方が早い仕事もある」
痛い。
でも、かなり納得できる。
「大量に同じ物を切るなら便利そうなんだがな」
「一人で使えたら?」
「それなら欲しい」
即答だった。
俺は思わずローディを見る。
ローディは何も言わない。
道具を見ている。
「ローディ?」
「……ちょっと待て」
嫌な予感がする。
◇ ◇ ◇
そのあとも何本か切ってもらった。
使った職人からは、台の高さや木材の押さえ方についても意見が出た。ネイルは聞くたびに頷き、ときどき台の下を覗き込んでいる。
バルドは切った木の断面ばかり見ていた。
「どう?」
「まだ気に入らん」
「使った人は何も言ってないけど」
「俺が気に入らん」
もう好きにしてほしい。
一方、ローディはさっきから妙に静かだった。
「さっきから何考えてるの?」
「一人で使う方法」
「やっぱり」
「今は人が取っ手を回してる」
「うん」
「だから一人取られる」
「うん」
「だったら――」
そこで止まった。
「だったら?」
「まだ分からん」
珍しい。
いつもならそのまま試し始めそうなのに。
「回す奴をいらなくできればいいんだよな」
「それができたら苦労しないでしょ」
カイルが言う。
「だから考えてる」
ローディはしゃがみ込み、取っ手の周りを見る。
「人がずっと回さなくても、こいつが回り続ければ……」
「そんなことできるの?」
「知らん」
「知らないのかよ」
「知らんから面白いんだろ」
この人、やっぱり危ない。
◇ ◇ ◇
工房へ戻る途中も、ローディはほとんど喋らなかった。
代わりに、ときどき立ち止まっては道具を見る。
「ローディ、歩いて」
「今考えてる」
「歩きながら考えてよ」
「うるさい」
完全に頭の中が別のところへ行っている。
俺はカイルの隣へ寄った。
「なんか嫌な予感しない?」
「する」
「何考えてると思う?」
「分からない。でも、たぶん面倒なこと」
「楽しみだね」
「なんで嬉しそうなんだよ」
だって、一人で使えるなら俺だって見てみたい。
人が回さなくても、刃が回り続ける。
前世なら、もちろん方法は知っている。
電気だ。
でも、この世界で同じことはできない。
だからこそ、ローディが何を考えるのか気になる。
前を歩く本人は、まだ取っ手を見ながら唸っていた。
「……足で回すか?」
ぽつりと聞こえた。
俺とカイルが同時にローディを見る。
「今、何て?」
「まだ話しかけるな」
どうやら、もう何か始まっているらしい。




