そういえば、名前聞いてなかった
次の日も、俺たちは木工職人の工房に集まっていた。
昨日は三人がそれぞれ勝手に改良を始めて、そのまま話がどんどん進んでしまった。今日も朝から、回転の仕組みを作っている職人が何かを抱えてやってきている。
「昨日の歯車、変えたぞ」
「もう?」
「試したくなった」
早い。
その後ろから鍛冶職人も入ってくる。
「刃も直した」
「そっちも?」
「昨日のままじゃ気に入らん」
「仕事早いですね……」
「他の仕事もあるから、こればっかりやってるわけじゃないぞ」
そう言いながら、持ってきた刃をさっそく机に置いている。
絶対かなり気に入ってるだろ、これ。
「台も少し広げてみた」
最後に木工職人まで言い出した。
「みんな勝手に進めてない?」
「お前が作りたいって言ったんだろ」
「言いましたけど」
俺はカイルを見る。
カイルは三人が持ち寄った物を眺めてから、俺を見る。
「金かかってないならいいんじゃない?」
「そこなんだ」
「そこだろ」
もう好きにしてもらおう。
俺も見たいし。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、まずこっちから――」
言いかけて、止まった。
「どうした?」
「いや……」
三人を見る。
木工職人。
鍛冶職人。
回転の仕組みを作ってくれている職人。
ここ数日、何度も顔を合わせている。
一緒に試して、失敗して、昨日はついに木まで切った。
「そういえば、名前聞いてなかった」
「今さら?」
カイルが呆れた顔をする。
「最初はこんなに一緒にやると思ってなかったんだよ」
測るための道具を一個作って終わると思っていた。
それが丸い刃の話になり、回す仕組みの話になり、気づけば三人とも集まっている。
「俺はネイルだ」
最初に名乗ったのは木工職人だった。
「ネイルさん」
「呼び捨てでいい。お前と何日一緒にやってると思ってる」
「じゃあ、ネイル」
次に鍛冶職人を見る。
「バルド」
「短い」
「名前なんだから仕方ないだろ」
「いや、自己紹介が」
「他に何を言うんだ」
この人はたぶん、ずっとこんな感じだ。
「俺はローディだ」
最後に機構職人が名乗る。
「軸だの歯車だの、回る物なら大体好きだ」
「自己紹介で好きな物まで言った」
「バルドが短すぎるんだよ」
「うるせえ」
三人とも全然違う。
でも、昨日から一つだけ共通していることがある。
面白そうな物を見つけると、頼んでもいないのに手を出す。
「俺はレイン。こっちがカイル」
「それは知ってる」
ネイルが言う。
「あれ?」
「お前らは何度も名前で呼び合ってただろ」
「……俺だけ知らなかったの?」
「たぶんな」
ちょっと恥ずかしい。
◇ ◇ ◇
「それより試すぞ」
ローディが待ちきれない様子で、新しく組み直した機構を台へ置いた。
「昨日より変えたんですか?」
「だから変えたって言っただろ」
「どこを?」
「歯車の組み合わせと、軸の支えだ。昨日は回したときに少し揺れてた」
「俺、気づかなかった」
「俺は気づいた」
なんか嬉しそうだ。
バルドも直した刃を取り出す。
「こっちも刃の形を少し変えた」
「何が変わったの?」
「見ても分からんだろ」
「説明してくださいよ」
「切ってみた方が早い」
こっちも楽しそうだ。
無愛想だけど。
「待って」
カイルが止める。
「何だ?」
「二つ同時に変えたら、どっちが良くなったのか分からなくない?」
「…………」
三人が止まった。
「あ」
俺も気づく。
ローディがバルドを見る。
「先に俺の方を試すか」
「なんでだ。刃からだろ」
「昨日の刃をつければ違いが分かる」
「なら俺の刃を昨日の機構につければいい」
「どっちでもいいだろ」
「よくない」
始まった。
「一個ずつやろうよ」
俺が言う。
三人がこっちを見る。
「カイルの言う通り、先に片方だけ変えて試す。それからもう片方」
「なら回す方からだ」
ローディが即答した。
「刃からだ」
「なんで?」
「俺が先に作った」
「理由になってないだろ」
面倒くさい。
「じゃあ――」
「昨日の刃でローディの方から」
カイルが決めた。
「なんでそっち?」
バルドが不満そうに聞く。
「取り替えるのが楽だから」
「……なら仕方ない」
納得するんだ。
◇ ◇ ◇
昨日使った刃を、新しい機構へ取り付ける。
ローディが取っ手を回すと、昨日より軸の揺れが少ない。
「おお」
「まだだ。木に当てろ」
本人が一番厳しい。
ネイルが細い木材を固定し、慎重に刃へ近づける。
昨日と同じように抵抗はかかる。
でも。
「昨日より回しやすくない?」
俺が聞く。
「ああ」
ローディが嬉しそうに頷いた。
「支えを変えたのが効いてる」
「次、俺の刃だ」
待ってましたとばかりにバルドが動く。
「まだ最後まで切ってないよ?」
「違いは分かっただろ」
「せっかちだなあ」
「お前に言われたくない」
何も言い返せない。
刃を交換する。
もう一度回す。
木材を当てる。
「あ」
さっきより食い込みがいい。
「これ、違う」
「だろ」
バルドがちょっとだけ得意そうな顔をする。
「でもまだ荒いな」
「十分じゃない?」
「俺が十分じゃない」
駄目だ。
この人も完全に入ってる。
「だったら台も試すぞ」
今度はネイルが言う。
「待って。まだ切ってる途中」
「終わったらだ」
「全員順番待ちしてるじゃん」
昨日までは俺が一番先へ進みたがっていた。
それが今日は、三人の方が先へ行こうとしている。
しかも、それぞれ自分の担当をもっと良くしたくて仕方ないらしい。
「……カイル」
「何?」
「この町、楽しい」
「お前には合ってるだろうな」
「また来たい」
「もう次の話?」
「だってさ」
俺は三人を見る。
ローディは回転を見ている。
バルドは切れた木の断面を見ている。
ネイルは台の位置を直している。
俺が何か思いついたとき、こういう人たちがいたら。
たぶん、俺一人では作れない物まで作れる。
「次に変なの思いついたら、ここに持ってこようかな」
「やめとけ」
「なんで?」
「止める奴が俺しかいなくなる」
それは困る。
俺が、じゃない。
たぶんカイルが。




