今度こそ、一本切れる?
改良を頼んでから三日後。
俺とカイルは、また職人たちと一緒に工房へ集まっていた。
目の前にあるのは、前回より少し大がかりになった試験用の道具だ。取っ手から軸へ直接つながっていた前とは違い、今回は途中に歯車が組み込まれている。
「これを回せば、前より速く回るんですよね?」
「ああ。ただし、重いぞ」
「分かってます」
「木に当てればもっと重くなる」
「それも聞きました」
「ならやってみろ」
職人に言われ、取っ手を握った。
まずは何も切らずに回してみる。
「おお……!」
前とは明らかに違う。
俺が取っ手を一周させる間に、丸い刃は何度も回っている。少し力はいるけど、空回しなら十分続けられそうだ。
「前より全然速い」
「問題は木に当ててからだな」
カイルの言葉で、一気に現実へ戻された。
そうだった。
前回も、回るところまでは成功している。
◇ ◇ ◇
試すのは、前回と同じくらいの細い木材だ。
木工職人が動かないように押さえ、刃へ近づける役を担当する。俺は少し離れた位置で、取っ手を回すことだけに集中する。
「無理に押し込むなよ」
「分かってる」
「お前じゃない。こっちに言った」
「あ、はい」
ちょっと恥ずかしい。
気を取り直して取っ手を回す。
丸い刃が勢いよく回り始めた。
「いくぞ」
「お願いします」
木材がゆっくり刃へ近づく。
触れた。
「重っ……!」
やっぱり重い。
取っ手にかかる抵抗が一気に増えた。
でも、前とは違う。
「入ってる!」
木材に刃が食い込み、少しずつ奥へ進んでいる。
「止めるな。そのまま回せ!」
「分かってます!」
回す。
とにかく回す。
思っていたよりずっと大変だ。
前世で見た丸い刃は、もっと簡単に木を切っていた気がする。
当然か。
あっちは人間が手で回してなかった。
「もう少しだ!」
「まだ!?」
「回せ!」
腕がきつい。
それでも止めずに回し続ける。
木工職人が少しずつ木材を進め――。
ゴトッ。
切れた木片が作業台へ落ちた。
「…………」
一瞬、全員が黙った。
「切れた!」
思わず声が出た。
「本当に切れた!」
「見れば分かるよ」
カイルはそう言いながらも、少し笑っている。
俺は取っ手から手を離した。
腕が疲れた。
でも、切れた。
ちゃんと一本の木材を二つにできた。
◇ ◇ ◇
「どう?」
俺は切れた木材を持ち上げる。
「切れてるな」
木工職人が断面を見る。
「少し荒いが、切れてはいる」
「じゃあ成功?」
「切るだけならな」
その言い方。
嫌な予感がする。
「普通のノコギリだったら?」
「この太さなら、俺一人でもっと早く切れる」
「…………」
「しかも、こっちは二人必要だ」
「…………」
せっかくの感動が一気に薄れた。
「でも切れたじゃん」
「そこは大きい」
回転の仕組みを作った職人が、刃と軸を確認しながら言う。
「前よりずっといい。回し方を変えれば、まだ改善できるかもしれん」
「本当ですか?」
「ただ、今のままなら普通のノコギリの方が使いやすい」
「やっぱり?」
「やっぱりだ」
残念。
でも、完全な失敗ではない。
丸い刃を回して木を切る。
そこまではできた。
あとは、これをどう使うかだ。
◇ ◇ ◇
「もう一本切っていい?」
俺が聞くと、カイルがこっちを見る。
「試験?」
「試験」
「ならいいんじゃない?」
今度は木工職人に取っ手を回してもらい、俺が少し離れたところから見てみる。
木材を固定する。
刃を回す。
ゆっくり近づける。
切る。
確かに遅い。
でも――。
「もう一本」
「まだやるのか?」
「同じ長さで」
俺は最初に作った測るための道具を持ってきた。
端に木材を当てる。
位置を合わせる。
同じ長さのところへ印をつける。
そこで気づいた。
「これ、印いらなくない?」
「何が?」
「ここ」
長さを決めるための目印を指す。
「木の端をここに当てたら、毎回同じ位置になるよね」
「まあ、そうだな」
「だったら、その位置に刃があればいい」
印をつける。
別の台へ運ぶ。
印に合わせてノコギリを当てる。
その全部をやる必要はない。
木材の端を決まった場所へ当てる。
そのまま切る。
次の木材を置く。
また切る。
「……何本も同じ長さにするなら」
木工職人が呟いた。
「一回ずつ測らなくて済むな」
「ですよね?」
やっと最初の話に戻ってきた。
丸い刃を作ることに夢中になっていたけど、そもそもの始まりはそこだった。
一本を速く切りたいわけじゃない。
同じ長さの木材を、何本も楽に揃えたい。
「測る道具と、これを一緒にする?」
カイルが聞く。
「うん」
長さを決める場所。
木材を置く場所。
切る場所。
全部を一つの台にする。
そこで初めて、この丸い刃を使う意味が出てくるかもしれない。
「作りたい」
「言うと思った」
「これは作りたいでしょ」
「その前に?」
「……いくらかかるか聞く」
「よし」
完全に扱いを覚えられている。
でも今回は、カイルに言われなくても分かっていた。
試験は成功した。
次からは、ただの実験じゃない。
本当に職人が使える道具にできるかどうか。
ようやくそこまで来た。




