もっと速く回せば、切れる?
昨日の試験で分かったことは、丸い刃でも木には食い込むということだった。
ただし、切れるところまではいかない。
刃が木に触れた途端に回転が落ちて、俺が必死に取っ手を回しても、できたのは浅い溝だけだった。
「もっと速く回せばいいと思うんだけど」
「昨日も言ってたな」
翌朝、俺とカイルはもう一度、回す仕組みを作ってくれた職人のところへ来ていた。
今日は作ってもらうためじゃない。
次に何を変えるのかと、いくらかかるのかを聞くためだ。
◇ ◇ ◇
「速くするだけなら、できる」
職人は昨日使った試験用の軸を前にして言った。
「取っ手を一回回したときに、刃の方を何回か回るようにすればいい」
「歯車ですよね?」
「ああ。ただ、昨日も言ったが楽になるわけじゃないぞ」
職人が棚から大小二つの歯車を持ってきた。
組み合わせて、指でゆっくり動かして見せてくれる。
「こっちを回せば、もう片方は速く回る。ただし、その分だけ力がいる」
「速くなった分、重くなる?」
「大体そんな理解でいい」
なるほど。
前世で自転車のギアなんかは使っていたけど、中身を説明しろと言われたら無理だ。
それでも、実際に動いているのを見ると分かりやすい。
「じゃあ、頑張って回せば」
「お前が?」
「俺じゃなくてもいいけど」
「そこは人任せなんだな」
カイルが笑う。
「昨日の木工職人も言ってただろ。二人で使えばいいんじゃないかって」
一人が取っ手を回す。
もう一人が木材を扱う。
それなら回す側は、木の位置なんて気にせず回すことだけに集中できる。
「最初から一人用にしなくてもいいと思うんです」
「試すだけなら、その方が簡単だな」
職人も頷いた。
「取っ手も、もう少し力をかけやすくできる。ただし、大きくすれば何でも解決するわけじゃない」
「そこは試す?」
「そうなるな」
その言葉を聞いた瞬間、俺はちょっと嬉しくなった。
横を見る。
カイルも俺を見ていた。
「まだ頼まないよ」
「何も言ってないだろ」
「絶対言おうとしてた」
◇ ◇ ◇
今度は木工職人も呼んで、実際に使う形を考えることになった。
「回す奴がこっちにいるなら、木を扱う奴は反対側だな」
作業台の上で位置を確認する。
「刃の近くに手を持っていかなくても木を動かせるようにしたいです」
「押さえる場所は必要だな」
「あと、刃の前には立たない方がいい」
「それは絶対」
回っている金属の刃なんて、考えるだけでも怖い。
便利さより先に、使える形にしないといけない。
「最初は細い木だけで試そう」
「太いのは?」
「細いのが切れてから考えろ」
「はい」
最近、先のことを考えるたびに止められている気がする。
でも今回は正しい。
いきなり太い木材まで切ろうとすれば、また必要な物が増える。
「まずは昨日の木がちゃんと切れるか」
カイルが言う。
「それだけ?」
「それだけ」
「成功したら?」
「そのあと考える」
「最近そればっかりだな」
「お前が先まで行きすぎるからだよ」
なるほど。
俺が三歩先まで行こうとするから、カイルが一歩ずつに戻しているらしい。
◇ ◇ ◇
必要な改良は、大きく二つになった。
刃を今より速く回すための仕組み。
それと、回す人が力を入れやすくするための取っ手。
台はまだ本格的には作らない。試験に必要な最低限の固定だけ、木工職人に手伝ってもらう。
「これなら、いくらくらいです?」
それぞれに確認して、追加で必要になる金額を出してもらった。
最初の試験よりは安い。
刃そのものを作り直す必要がないからだ。
「どうする?」
工房を出たところで、カイルが聞いてきた。
「俺はやりたい」
「理由は?」
「昨日、木に傷は入った。刃そのものが全然駄目だったわけじゃない。それに、速く回す方法もある」
「他には?」
「欲しいって言った職人もいた」
「うん」
「あと――」
楽しいから。
危うくそう言いそうになった。
「……これ以上は、まだ理由ない」
「今、何か隠しただろ」
「気のせいです」
カイルは怪しそうに俺を見る。
それでも、反対はしなかった。
「俺も、もう一回ならいいと思う」
「本当?」
「ただし、また上限を決める」
「はい」
「これで切れなかったら、その場で追加しない。一回止める」
「分かってる」
「本当に?」
「前も止まったじゃん」
「珍しくな」
「そこ褒めるところだよ」
二人で決めた金額を確認する。
その範囲なら、共同の商売用の金から出しても問題ない。
これで二回目の試験ができる。
◇ ◇ ◇
工房へ戻り、職人に頼む。
「じゃあ、お願いします」
「今度はちゃんと決めてきたのか?」
「予算も決めました」
「へえ」
「なんでみんな驚くんですか?」
職人が笑いながら、昨日の軸を手に取る。
「数日くれ。組み直してみる」
「お願いします」
今度は、取っ手を一回回せば刃はもっと速く回る。
その代わり、一人は回すことに専念する。
もう一人が木材を扱う。
前世で見た機械とは、たぶん全然違う。
でも、それでいい。
いきなり同じ物を作る必要なんてない。
この世界で作れる物を組み合わせて、まず木が一本切れればいい。
そこまでできたら――。
「レイン」
「何?」
「今、成功したあとのこと考えてただろ」
「……ちょっとだけ」
「まず一本な」
「分かってるって」
一本切れたら、その先を考える。
今度こそ、本当に切れてほしい。
そう思いながらも、頭の中ではもう、昨日作った長さを決める道具と丸い刃が並び始めていた。




