↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
187/264

いくらまでなら、試せる?

丸い刃を作れるかもしれない。


 回す仕組みも作れるかもしれない。


 昨日までに分かったのは、そこまでだった。問題は、それを全部合わせたらいくらかかるのか。そして、そこまで金をかけて試す価値があるのかだ。


「まず、木工の人から行こう」


「鍛冶屋じゃなくて?」


「作る前に、欲しいか聞く」


 カイルがそう言った。


 昨日までなら、俺はたぶん先に値段を聞きに行っていた。でも今回は、作れたとしても使う人がいなければ意味がない。


「なんか商売っぽいね」


「商売しに来たんだろ」


「そうでした」


「忘れるなよ」


 危ないところだった。


     ◇ ◇ ◇


 最初の工房では、昨日作った測るための道具がもう使われていた。


「どうです?」


「ああ、これは悪くない」


 職人は木材を端に当て、位置を合わせた目印を使って次々と印をつけていく。


「毎回測らなくていいのは楽だな。ただ、細かい仕事じゃ今まで通り測るぞ」


「全部これに変える必要はないですからね」


 同じ長さの物を何本も作るときだけ使う。


 それで十分だ。


「それで昨日の話なんですけど」


「丸い刃か」


「もし本当に、長さを決めた木をその場で切れる道具ができたら使いたいです?」


 職人の返事はすぐには返ってこなかった。


 作業台を見る。


 昨日の道具を見る。


 それから、普段使っているノコギリへ視線を移した。


「楽にはなるだろうな」


「じゃあ――」


「高ければいらん」


 早い。


「どれくらいなら?」


「それは物を見ないと何とも言えん」


「ですよね」


「一日に何十本も同じ物を切る仕事なら欲しい。数本だけならノコギリで十分だ」


 なるほど。


 誰にでも売れる道具じゃない。


 でも、同じ寸法の木材を何本も扱う工房なら価値が出る。


「他の工房にも聞いてみる?」


 外へ出たところで俺が言うと、カイルが頷いた。


「聞こう。昨日、測る道具の話をしたところも回れるだろ」


     ◇ ◇ ◇


 何軒か回ってみると、反応はかなり分かれた。


 面白そうだと言う人もいれば、普通のノコギリで困っていないと言う人もいる。欲しいと言った職人も、値段次第という条件つきだった。


「全員に売れる物ではないな」


「でも、欲しい人はいる」


「そこは大きい」


 カイルが手元の紙を見る。


「特に同じ物を何個も作るところ」


「椅子とか箱とか?」


「そういうところだな」


 売れる可能性はある。


 少なくとも、俺が使ってみたいだけの道具ではなくなった。


 次は金だ。


     ◇ ◇ ◇


 鍛冶屋では、小さな試作用の刃について改めて話を聞いた。


 昨日より小さくすることで、最初に聞いた金額よりは抑えられる。ただし、一度で木を切れる形になる保証はない。


「刃の形を変えるなら、作り直しですか?」


「直せる範囲なら直す。無理なら作り直す」


「そのたびにお金も?」


「当たり前だ」


 ですよね。


 続いて、回す仕組みを扱う職人のところへ向かう。


 こちらも、試すだけなら最低限の形にできるらしい。


「台まで全部作る必要はない」


 職人はそう言って、簡単な絵を描いた。


「まず軸を固定して、取っ手で回せるようにする。刃ができたら先につけて、木の切れ端に当ててみればいい」


「それで切れたら?」


「そのあとで台を考えればいい」


「あ、それでいいのか」


 俺は最初から、完成した道具を想像していた。


 長さを決める目盛りがあって、木を固定できて、丸い刃がついている。


 でも、今知りたいのはそこじゃない。


 そもそも手で回した刃で木が切れるのか。


 まずはそれだけ分かればいい。


「最初から全部作ろうとするから高くなるんだよ」


 カイルが言う。


「俺、全部欲しかった」


「知ってる」


「完成形を見たくない?」


「見たいけど、切れなかったら全部無駄だろ」


 その通りだった。


     ◇ ◇ ◇


 三人から話を聞いて、宿へ戻る。


 机の上には必要な物を書いた紙が置かれていた。


 小さな丸い刃。


 軸。


 手で回すための最低限の仕組み。


 最初の試験では、それだけ。


「これなら、最初に考えてたよりかなり減ったね」


「台を作らないからな」


「測る道具も?」


「まだ使わない」


「固定するところも?」


「木を切れるって分かってから」


 どんどん削られていく。


 ちょっと寂しい。


「でも、これじゃ俺が作りたかった物じゃないんだけど」


「試作品だろ?」


「そうだけどさ」


「最初から完成品作って失敗するよりいいだろ」


「それは分かってる」


 カイルが、それぞれの職人から聞いた金額をまとめる。


 俺も一緒に確認した。


 払えないほどではない。


 ただ、気軽に捨ててもいい金額でもなかった。


「二人の金から出す?」


 俺が聞く。


「俺はいいと思う」


「お、珍しい」


「需要は確認した。試す物も最低限まで減らした。それなら、これは二人の商売のための実験だろ」


 止められると思っていた。


 だから少し意外だった。


「カイルって、もっと何でも止める人かと思ってた」


「無駄に使うのを止めてるだけ」


「同じじゃない?」


「全然違う」


 カイルは紙を俺の方へ押した。


「最初はここまで。それで木が切れなかったら、一回止める」


「改良は?」


「失敗した理由を聞いてから」


「なるほど」


「先に上限を決める。それ以上使いたくなったら、もう一回二人で決める」


 俺一人だったら、たぶん失敗するたびに次を試していた。


 刃を変えて。


 軸を変えて。


 回し方を変えて。


 気づいたころには、最初に考えていた金額を大きく超えていたかもしれない。


「分かった。それでいこう」


「じゃあ明日、頼みに行くか」


「うん」


 ようやく試せる。


 丸い刃が、本当に木を切れるのか。


 楽しみではある。


 かなり楽しみではあるんだけど――今回は、使っていい金額が先に決まっている。


 カイルと一緒に商売を始めてから、俺の財布には見えない蓋がついた気がする。


 開けられないわけじゃない。


 ただ、開ける前に横から「本当に?」と聞かれる。


 ……たぶん、俺にはそのくらいがちょうどいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。