それ、毎回測ってるんですか?
声をかけると、作業をしていた職人が手を止めた。
「なんだ?」
「ちょっと聞きたいんですけど、それって毎回測ってるんですか?」
俺が指したのは、さっきから何度も繰り返している作業だ。
木材に長さを取って印をつける。それを横へ置き、次の一本を持ってきて、また同じように測っている。
「ああ。そうだけど」
「同じ長さですよね?」
「こいつらはな」
「面倒じゃないですか?」
職人が少し変な顔をした。
「そりゃ、楽な作業じゃないけどな」
「一日に何本くらいやるんです?」
「その日による。多いときはずっとこれだ」
やっぱり。
一本や二本なら気にならない。
でも同じ長さの物を何十本も作るなら、毎回最初から測る必要はないはずだ。
「何かあるの?」
隣からカイルが聞いてくる。
「まだ分かんない」
「顔はもう何か考えてるけど」
「ちょっとだけ」
俺は職人の手元をもう一度見る。
前世で工場に勤めていたわけでも、職人だったわけでもない。
ただ、同じ物を何個も作るときに、毎回定規で測って印をつけるなんてやり方をしていなかったことくらいは知っている。
「これって、長さが同じならいいんですよね?」
「ああ。最後に切るからな」
「だったら……」
木材を置く場所。
端を合わせる場所。
決まった長さのところに印をつける場所。
それを最初から決めてしまえばいい。
「木材の端をここに当てて、こっちに印をつける場所を作ったら駄目ですか?」
「どういうことだ?」
言葉だけでは伝わりにくい。
俺は紙を出して、簡単な形を描いた。
長い板のような土台。
片側に木材の端を当てる部分。
そこから決まった位置に、印をつける目印。
「こう置いて、端を合わせます。そしたら毎回測らなくても、ここが同じ長さになるじゃないですか」
職人が紙を見る。
「……まあ、そうだな」
「だったら早くないです?」
「早いとは思うが」
反応が薄い。
もっと「それだ!」みたいになるかと思った。
「これくらいなら、自分でも似たようなの作れるぞ」
「え?」
「板に印つけて、端に木でも打っときゃいいんだろ?」
「……そうですね」
言われてみればそうだ。
ものすごく単純な物を考えている。
作れるかどうかでいえば、この人たちの方がよっぽど簡単に作れる。
「じゃあ、なんで使ってないんです?」
「必要な長さがいつも同じじゃないからな」
「ああ……」
今作っている物は同じ長さ。
でも次の仕事では違う。
そのたびに専用の物を作るくらいなら、普通に測った方がいいということか。
「なるほど」
思ったより簡単にはいかない。
でも、そこで一つ引っかかった。
「じゃあ、長さを変えられたら?」
「ん?」
「端を止めるところか、目印の位置を動かせるようにして」
カイルが横から紙を覗き込んだ。
「それなら毎回作り直さなくていい?」
「そう」
長さを決める。
固定する。
木材を当てる。
同じ位置に印をつける。
次に違う長さが必要になったら、固定する場所を変える。
「……それなら少し便利かもな」
さっきより、職人の反応が変わった。
「欲しいです?」
「まだ物もないだろ」
「もし作れたら」
「値段による」
やっぱりそこか。
便利でも、高ければいらない。
これは何度も経験してきた。
◇ ◇ ◇
工房を出てからも、俺はさっき描いた紙を見ていた。
「作れそうなんだよな」
「それは分かった」
「木と、動かして固定するところがあれば――」
「待て」
「まだ何も買ってないよ」
「買いに行こうとしてただろ」
「……ちょっとだけ」
カイルに腕を掴まれる前に、自分から足を止めた。
「でも、さっきの人は便利かもって言ってたよ?」
「一人だろ」
「職人多い町だよ?」
「だから他でも聞けばいい」
「今から?」
「今から」
もっともだった。
俺は紙を畳んで鞄にしまう。
材料を買うのは、そのあと。
◇ ◇ ◇
それから、木工関係の工房を何軒か見て回った。
同じ作業をしているところもあれば、少し違う方法を使っているところもある。
中には、最初の職人が言っていたように、簡単な目印を自分で作っているところもあった。
「もう似たことやってるじゃん」
俺が小声で言うと、カイルが頷いた。
「でも固定じゃない?」
「うん」
決まった長さの仕事が多い工房では、それで十分らしい。
一方で、注文ごとに長さが変わる工房では、毎回測っている。
話を聞いてみると、面倒だとは思っていても、わざわざ別の道具を用意するほどではないという人もいた。
「微妙?」
通りを歩きながら聞く。
「何が?」
「売れるかどうか」
「全員が欲しがる物ではなさそう」
「だよね」
「でも欲しいって言った人もいた」
「値段による、だけどね」
そこが重要だ。
高い材料を使って、手間をかけて作ったら意味がない。
簡単で。
安くて。
長さを変えられる。
それなら可能性はある。
「一個、作ってみたい」
俺が言うと、カイルはすぐには止めなかった。
「いくらまで?」
「え?」
「試すなら、先に使う金を決める」
「ああ……」
そこからなのか。
でも二人の金を使うなら、それが普通なのかもしれない。
「なるべく安く」
「金額」
「厳しいなあ」
「決めないなら作らない」
「分かったよ」
俺は少し考える。
材料。
固定するための金具。
加工を頼むなら、その分の金もいる。
まだ正確には分からない。
「じゃあ、まず材料がいくらになるか見よう。それから決める」
「それならいい」
許可が出た。
いや、別にカイルが上司なわけじゃない。
二人で決めただけだ。
……たぶん。
俺たちは今度こそ、材料を扱っていそうな店へ向かう。
まだ売れるかは分からない。
形になるかも分からない。
それでも久しぶりに、頭の中には作ってみたい物があった。
やっぱり俺は、出来上がった商品を右から左へ運ぶより、こっちの方が楽しいらしい。




