知らない町は、何が違う?
朝早く、俺とカイルはリーネを出た。
今回はベルクの馬車に乗せてもらうわけじゃない。乗合馬車を使い、途中の町で一度乗り換えて目的の町へ向かう。
俺たち二人だけで、初めて行く町だ。
「なんか旅っぽくなってきたな」
「今までも旅してただろ」
「今回は違うよ。案内してくれる人いないし」
「迷うなよ」
「カイルも初めてだろ」
「だから二人で迷ったら終わりだな」
それは困る。
ちゃんと行き先くらいは確認しながら進もう。
◇ ◇ ◇
途中で馬車を乗り換え、さらに揺られること数時間。
昼をだいぶ過ぎた頃、ようやく目的の町が見えてきた。
町の名前は、ノルン。
リーネより大きく、ラグナほど人の出入りが激しいわけでもない。ハンスから聞いた話では、周辺の村から材料が集まり、それを加工する職人が多く暮らしている町らしい。
「着いた……」
「疲れたな」
「遠い」
「来る前から分かってただろ」
「知ってるのと実際に乗るのは違うよ」
馬車から降りて、固まった身体を伸ばす。
これだけ移動するなら、何も見つけず帰るのはやっぱり嫌だ。
とはいえ、無理やり商売を作るつもりもない。
まずは見る。
カイルにも何度も言われたし、俺自身も少しは学んだ。
◇ ◇ ◇
宿に荷物を置いてから、町を歩いた。
最初に向かったのは市場だった。
売っている物だけを見れば、そこまで変わっているわけじゃない。野菜も肉も布もあるし、日用品を扱う店も並んでいる。
「思ったより普通だね」
「何を期待してたんだよ」
「知らない物がいっぱいあるかと」
「そんな町だったら俺も怖い」
確かに。
町が変わったからといって、暮らしている人まで別の生き物になるわけじゃない。
ただ、歩いているうちに少しずつ違いが見えてきた。
「道具屋、多くない?」
「俺も思った」
金槌。
刃物。
木工用の道具。
革を扱うための物。
リーネにも当然あるけど、ノルンでは種類がずっと多い。
店先で職人らしい人同士が道具について話している姿も何度か見かけた。
「本当に職人が多いんだな」
「みたいだね」
俺は気になった店を覗こうとする。
「見るだけな」
「まだ何も言ってない」
「お前が道具屋見るときは言っといた方がいい」
「信用ないなあ」
「あるから一緒に来てるんだろ」
そう言われると反論しづらい。
◇ ◇ ◇
市場を抜けた先には、小さな工房が並ぶ通りがあった。
木を削る音。
金属を叩く音。
革を切る音。
店先で作業しているところも多く、歩いているだけで目移りする。
「こういうところ好きそうだな」
「めちゃくちゃ好き」
「だろうな」
全部見たい。
何を作っているのか聞きたい。
できれば道具も触りたい。
「一軒ずつ入る?」
「今日中に宿戻る気ある?」
「……ある」
「じゃあ絞れ」
仕方なく、気になるところだけ見る。
その中の一軒で、俺は足を止めた。
何人かの職人が、細長い木材を加工している。
それ自体は珍しくない。
気になったのは、その途中の作業だった。
一人が木材に印をつける。
少し動かして、また印をつける。
隣の木材にも同じように印をつける。
それを何本も繰り返していた。
「……あれ、毎回やるのかな」
「何が?」
「印つけるやつ」
「同じ長さにするためじゃない?」
「それは分かるけど」
一本測る。
印をつける。
次の一本を測る。
また印をつける。
間違った作業じゃない。
むしろ普通だと思う。
でも。
「同じ長さなら、毎回測らなくてもよくない?」
「どういうこと?」
「最初に長さ決めてさ」
そこまで言って、一度口を閉じた。
頭の中に、前世で見た物がいくつか浮かぶ。
大げさな機械じゃない。
もっと単純なもの。
決まった位置に当てる。
そこで止める。
同じ場所に印をつける。
それだけなら――。
「……作れそう」
「何が?」
「ちょっと待って」
「その言い方するとき、大体待たないだろ」
「今回は待つよ」
「本当に?」
「たぶん」
カイルが疑うように俺を見る。
俺はもう一度、工房の作業へ目を向けた。
まだ作れると決まったわけじゃない。
そもそも、あの職人たちが困っているとも限らない。
俺が勝手に面倒そうだと思っただけだ。
だから、まず聞く。
「ちょっと話聞いてみない?」
「買う前に?」
「買わないよ」
「珍しいな」
「俺だって学ぶんだよ」
そう言いながら工房へ向かう。
何を作るかは、まだ決めていない。
作る必要があるのかも分からない。
でも、こういうのだ。
知らない町へ来て。
知らない仕事を見て。
少しだけ気になることを見つける。
それが本当に不便なら、俺の知っているやり方が使えるかもしれない。
「すみません。ちょっと聞いてもいいですか?」
作業していた職人が顔を上げる。
ノルンに着いて、まだ半日。
さっそく一つ、気になるものを見つけた。




