↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので貯金します。たぶん。~現代知識で稼ぐ、浪費家の異世界生活~  作者: 千流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
178/264

置いてるだけじゃ、売れない?

ラグナに着いた翌朝。


 俺とカイルは市場の一角にいた。


 借りた場所は広くない。そもそも今回持ってきた布も少量なので、これくらいで十分だった。


「……準備できた?」


「できた」


「じゃあ売ろう」


「うん」


 布を並べる。


 値段も分かるようにしてある。


 あとは客が来て、買ってくれればいい。


「…………」


「…………」


 人は通る。


 かなり通る。


 でも、誰も止まらない。


「カイル」


「何?」


「売れないんだけど」


「まだ始めたばっかりだろ」


「でも人はいるよ?」


「いるな」


「なんで買わないの?」


「知らない店だからじゃない?」


 なるほど。


 言われてみれば、俺だって市場へ行ったからといって、知らない店の商品を片っ端から買ったりはしない。


 ……いや、気になる物なら買うことはあるけど。


「待ってればいい?」


「それでも売れるかもしれないけど」


「かもしれない?」


「俺たち、今日しかここにいないだろ」


 そうだった。


 何日も店を開けるなら、待つのも一つの方法かもしれない。


 でも俺たちは、売るためにラグナまで来た。


 黙って立って一日が終わったら、何をしに来たのか分からない。


「じゃあ、声かける?」


「やってみるか」


     ◇ ◇ ◇


「丈夫な布、ありますよー」


 言ってみた。


 誰も止まらなかった。


「……カイルもやってよ」


「なんで俺だけ逃げられると思った?」


「じゃあ一緒に」


「それはそれでうるさいだろ」


 市場を見回す。


 周りの店は、ただ商品を並べているだけじゃない。


 客が近づけば声をかけるし、手に取れば使い道を説明する。店によっては通りを歩く人にも声を飛ばしている。


 今まで何度も市場へ来ていたのに、売る側に立って初めて気づいた。


「見るのとやるの、全然違うね」


「今さら?」


「今までは買う側だったから」


「お前、買う側だとよく止まるもんな」


「気になる物が多いんだよ」


「知ってる」


 とりあえず、声を出す。


 ただ「布があります」だけではなく、丈夫なことや、リーネで作られていることも伝えてみる。


 すると、少しずつ足を止める人が出てきた。


     ◇ ◇ ◇


「これ、いくら?」


 最初にそう聞かれたとき、思わずカイルを見た。


 カイルも俺を見た。


「……何?」


 客に言われて、慌てて値段を答える。


 聞かれただけだ。


 まだ売れたわけじゃない。


 相手は布を触り、厚さを確かめている。


「丈夫そうだな」


「はい。リーネではこういう布、結構使われてるんです」


「何に?」


「袋とか、作業用にも。厚めなので――」


 そこまで言ったところで、カイルが横から使い方をいくつか付け足した。


 俺より落ち着いている。


 客は少し悩んでから、布を買った。


「……売れた」


 客が離れてから小声で言う。


「売れたな」


「初めてだよ」


「俺もだよ」


「店で売ってたじゃん」


「自分で仕入れた物じゃない」


「ああ、そっか」


 そう考えると、本当に二人とも初めてだ。


 自分たちで選んで。


 自分たちの金で買って。


 町を越えて運んで。


 自分たちで売った。


 たった一つ売れただけなのに、ちょっと嬉しい。


「よし、次」


「急に元気になったな」


「売れるって分かったからね」


     ◇ ◇ ◇


 そこからは、最初より少し楽になった。


 一人が立ち止まれば、近くにいた人も商品を見る。


 触ってもらえば、丈夫さは伝わる。


 すぐに買う人ばかりではなかったけど、少しずつ布は減っていった。


 そして夕方。


「……残ったね」


「残ったな」


 全部は売れなかった。


 でも、半分以上は売れた。


「どうする?」


「持って帰るしかないだろ」


「明日も売る?」


「場所代払って?」


「うーん」


 残っている量を見る。


 もう一日場所を借りれば売り切れるかもしれない。


 でも、売れなければ場所代だけ増える。


「今回はやめよう」


「俺もそう思う」


 最初の商売で、売り切ることにこだわる必要はない。


 残った布は持ち帰ればいいし、次にまた持ってくることもできる。


 問題は、いくら残ったかだ。


     ◇ ◇ ◇


 宿へ戻ると、すぐに紙を広げた。


 売上を書く。


 布の仕入れに使った金を引く。


 市場の場所代を引く。


 そこまではよかった。


「馬車代」


「……うん」


「宿代」


「うん」


「食事」


「それも?」


「商売で来なかったら使ってないだろ」


「まあ、そうだけど」


 順番に引いていく。


 数字が小さくなる。


 さらに小さくなる。


「…………」


「…………」


 俺とカイルは、紙を見つめた。


「少なっ」


「思ったより残らないな」


「布だけ見たら、もっと儲かってたよね?」


「商品だけならな」


 売値と仕入れ値の差だけなら、悪くなかった。


 でも俺たちは、その布を運ぶために町を移動している。


 寝る場所もいる。


 飯も食う。


 売る場所にも金がかかる。


「ベルクって、よくこれで町回ってるな」


「もっと量を運んでるし、一種類だけじゃないだろ」


「ああ……」


 馬車いっぱいの商品。


 行き先ごとに売る物を変えて、帰りにも別の商品を積む。


 それくらいやって、ようやく移動する意味が出るのかもしれない。


「じゃあ俺たちも量増やす?」


「売り切れてないのに?」


「ですよね」


 すぐに却下された。


 俺も言いながら違う気はしていた。


「これ、ずっとやるの大変じゃない?」


「何が?」


「町から町へ物運んで、自分たちで一日売って、また次の町行って……って」


「まあ、楽ではないな」


 しかも、売れなければ商品を抱える。


 移動するだけでも金が減る。


 商売にはなる。


 でも、俺がやりたいのはこれだけだろうか。


「……まあ、まだ一回目か」


「そうだな」


 カイルが紙を畳む。


「明日は革紐買って帰るんだろ」


「ああ、五本」


「そこはちゃんと覚えてるんだな」


「十本でもいいけど」


「五本」


「はい」


 とりあえず、もう一度やってみる。


 今度はラグナの商品をリーネで売る。


 それで、往復した結果を全部まとめてみよう。


 その先をどうするかは、それからだ。


 ただ一つ分かった。


 安い町で買って、高い町で売る。


 それだけなら簡単だと思っていた。


 実際にやってみると、その間には思っていた以上に金も手間も挟まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。