どこで売ればいい?
ラグナへ持っていく布も決まった。
帰りに仕入れる革紐も、最初は五本で試すことにした。
これでようやく始められる。そう思っていたところで、カイルが紙を見ながら口を開いた。
「そういえば、布ってどこで売る?」
「……あ」
「決めてないよな?」
「決めてないね」
仕入れる物。
仕入れる値段。
運ぶ量。
そこまでは考えた。
なのに、肝心の売る場所を決めていなかった。
「ハンスさんの店に置いてもらう?」
「それなら、お前が今までやってた商売とあんまり変わらなくない?」
「まあ、そうなんだよね」
ハンスに頼めば、おそらく相談には乗ってくれる。
でも今回は、俺とカイルで始める最初の商売だ。
仕入れるところだけ自分たちでやって、最後だけハンスに任せるのも少し違う気がした。
「自分たちで売ってみる?」
「俺もその方がいいと思う」
「市場?」
「場所を借りられるなら」
市場で売る。
考えてみれば単純な話だ。
今まで俺は店に商品を置いてもらったり、作り方そのものを売ったりすることが多かった。
自分で仕入れた物を、自分で店先に立って売る。
それはほとんどやったことがない。
「ちょっと楽しそう」
「遊びじゃないぞ」
「分かってるって」
◇ ◇ ◇
市場へ行って話を聞いてみると、空いている場所を使って商品を売ること自体はできるらしい。
もちろん、勝手に並べていいわけではない。
場所を使うなら、その分の金がかかる。
「また増えた」
「何が?」
「払うもの」
馬車代。
宿代。
食事代。
それに市場で売るなら、場所代。
紙に書き出してみると、商品以外にも結構ある。
「布を安く買って、高く売れば終わりだと思ってた」
「それで済むなら簡単だな」
「ベルクって、こういうの全部考えてたんだな」
「行商人なんだから当たり前だろ」
分かってはいた。
でも、自分で払う側になると急に重く見える。
商品の値段だけ見て「これなら儲かる」と思っても、最後に残らなければ意味がない。
「場所代払って、一枚も売れなかったら?」
「赤字」
「嫌な言葉だな」
「じゃあ売れ」
「急に雑だな」
とはいえ、やってみないと分からない。
最初から大きく儲けるつもりはない。
今回は、二人だけで仕入れて、運んで、売ったら本当にいくら残るのかを見る。
それだけでも十分だ。
◇ ◇ ◇
その日のうちに、前に見ていた布の店へ向かった。
丈夫で、少し厚手の布。
ラグナで似た物を何軒か確認したけど、やっぱりリーネの方が安かった。
「これでいいよな?」
「うん」
「じゃあ、どれくらい買う?」
カイルが俺を見る。
俺もカイルを見る。
「……少し?」
「具体的に」
「こういうとき毎回それ言うよね」
「お前に任せると増えるからな」
今回は試しだ。
売れるかどうかも分からないし、持っていきすぎる必要はない。
話し合って、持ち運びに困らず、それでも何人かには売れるくらいの量にした。
「もっと買わなくていい?」
「売れたら次に増やせばいい」
「売り切れたらもったいなくない?」
「売れ残るよりいいだろ」
「それはそうだけど」
俺なら、売れそうだと思った時点でもう少し増やしていた気がする。
でも今回は二人の金だ。
勝手には増やせない。
店の人に代金を払い、布を受け取る。
これが、俺とカイルが売るために仕入れた最初の商品になった。
「……革紐より、それっぽい」
「革紐は見本だったからな」
「なんか商売始めた感じするね」
「まだ売ってないけどな」
「分かってるよ」
最近、そればかり言われている気がする。
◇ ◇ ◇
翌朝。
荷物の中には、昨日仕入れた布が入っている。
今までラグナへ行くときとは違う。
今回は見るためでも、誰かについていくためでもない。
売る物を持って、自分たちの金で移動する。
「忘れ物ない?」
「ない」
「金は?」
「ある」
「布は?」
「ある」
「紙は?」
「ある」
「じゃあ行くか」
カイルが荷物を持ち上げる。
俺も自分の鞄を背負った。
ラグナまで行って、市場の場所を借りる。
そこで自分たちで布を売る。
売れたら、帰りには革紐を仕入れる。
やることは決まった。
あとは本当に、金になるかどうか。
「売れるといいな」
「売らないと帰りの革紐買えないわけじゃないだろ」
「そうだけど、気分の問題」
「じゃあ頑張って売れ」
「カイルも売るんだからね?」
「分かってるよ」
二人でリーネを出る。
準備に思ったより時間を使った。
でも、ここから先は違う。
次は調べるためじゃない。
俺たちの商品を、初めて売りに行く。




