これ、リーネで売れると思う?
リーネへ戻った翌日。
俺とカイルは、ラグナから持ってきた金具付きの革紐を机の上に置いて眺めていた。
見本として買った一本。二人の商売用の金から初めて買った物なのに、こうして見るとやっぱり地味だ。
「で、これをどうする?」
「まず聞く」
「誰に?」
「旅する人が使うなら、旅する人をよく見る奴」
なるほど。
それなら、ちょうどいい奴がいる。
◇ ◇ ◇
「これ、リーネで売れると思う?」
トーマの家の宿へ行き、革紐を見せる。
トーマは受け取ると、金具を動かしたり、輪にして締めたりしながらしばらく眺めていた。
「何これ?」
「荷物まとめたり、鞄に物を留めたりするやつ」
「へえ。便利そうじゃん」
「だろ?」
「レインが作ったの?」
「違う。ラグナで売ってた」
「なんだ」
「なんで残念そうなんだよ」
「また変なの作ったのかと思った」
俺は普段、こいつにどう思われているんだろう。
横でカイルが笑っている。
「こいつがトーマ?」
「そう」
「お前がカイル?」
「そう」
二人が俺を見る。
「……何?」
「いや、やっと会ったなと思って」
「俺は名前だけ聞いてた」
「俺も」
そういえば、二人にはそれぞれの話をしていたけど、こうしてちゃんと話すのは初めてだ。
「で、売れそう?」
俺が話を戻すと、トーマはもう一度革紐を見た。
「旅の客なら使う人いるんじゃない?」
「やっぱり?」
「でも、みんな欲しがるかは知らない」
「そこまでは聞いてないよ」
「だったら便利そうとは思う」
トーマは近くに置いてあった荷物袋を持ってきて、実際に革紐を通してみた。
口を縛るための紐とは別に、外側へ毛布や小さな荷物を固定できる。
「こういう使い方できるなら、旅する人にはいいかも」
「なるほど」
カイルが横から覗き込む。
「宿で似た物は見ない?」
「紐ならあるけど、その金具ついてるやつはあんまり見ないかな」
ラグナでカイルが気づいたことと同じだ。
少なくとも、どこにでもある物ではないらしい。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、仕入れる?」
宿を出てから聞くと、カイルはすぐには頷かなかった。
「値段」
「やっぱりそこ?」
「そこだろ」
今度は市場へ向かう。
似た用途の紐や革製品を何軒か見て、どのくらいなら買ってもらえそうかを考える。
まったく同じ物がないから、正確な比較はできない。
でも、ラグナでの仕入れ値に少し利益を乗せても、そこまで高くはならなそうだった。
「試す価値はありそうだな」
「お、珍しく早い」
「昨日から見てるからな」
「じゃあ次、何本買う?」
「少し」
「だから何本?」
「五本くらい?」
「十本いこう」
「なんで倍になるんだよ」
「五本売れたら、またラグナまで仕入れに行かないといけないじゃん」
「十本余ったら?」
「そのとき考える」
「先に考えろよ」
揉めた。
とはいっても、俺も本気で大量に買いたいわけじゃない。
最初なんだから、売れるかどうかを見る方が大事だ。
「じゃあ六本」
「なんで一個増えた?」
「間を取った」
「五と十の間は七か八だろ」
「細かいな」
「お前が適当なんだよ」
結局、最初は五本。
売れ方を見て、次を考えることになった。
◇ ◇ ◇
「で、こっちも買うんだよな」
カイルが言った。
「布?」
「そう」
「ああ」
ラグナへ持っていく物も忘れてはいない。
前に見つけた丈夫な布。ラグナよりリーネの方が安く、畳めば場所も取らない。
こっちも最初から大量には買わない。
「どれくらいにする?」
「売れるか分からないんだから、少量」
「また?」
「また」
「商売って思ったより小さく始めるんだな」
「お前が今までやってきたことも大体そうだろ」
言われてみればそうだった。
石鹸だって最初から大量に作ったわけじゃない。
鞄も試作品からだったし、白いソースだって何度も試してから売った。
俺は新しいことを始めると、なぜかその辺を忘れる。
うまくいきそうに見えると、すぐ次まで考えてしまうからだ。
「じゃあ、布も少しだけ」
「それでいい」
これで決まった。
次にラグナへ向かうとき、リーネで布を仕入れる。
ラグナではそれを売れるか試し、その帰りに革紐を五本仕入れてリーネへ持ってくる。
初めて、行きにも帰りにも商品がある。
「やっと商売始まる感じするな」
「今までも準備してただろ」
「準備じゃ金増えないじゃん」
「減らさないためにやってたんだよ」
「それも大事だけどさ」
俺の目的は貯金だ。
減らさないのも大事。
でも、それだけじゃ100万リルには届かない。
稼いで、残す。
そのために始めた二人の商売だ。
「次はちゃんと利益出したいな」
「まず売れ」
「はい」
順番は大事らしい。
とりあえず次は、初めての商品を持ってラグナへ。
ようやく俺たちの商売が、準備だけじゃなくなりそうだった。




