帰りは、何を持って帰る?
翌朝。
俺とカイルは、今度はラグナからリーネへ持って帰る物を探すために市場へ出た。
昨日までとは逆だ。ラグナはカイルにとって見慣れた町で、俺にとってはまだ知らない物が多い。
「まずどこ行く?」
「市場の西側」
「なんかあるの?」
「リーネであまり見なかった物なら、いくつか思いつく」
「もう?」
「昨日歩いただろ」
そうだった。
カイルはリーネの市場を見ながら、ラグナとの違いも覚えていたらしい。
俺も見ていたはずなんだけどな。
◇ ◇ ◇
「この辺」
連れてこられたのは、旅人向けの道具や日用品を扱う店が集まる一角だった。
ラグナはリーネより人の出入りが多い。そのせいか、旅に使う小物も種類が多い。
「これとか」
カイルが手に取ったのは、金具のついた細い革紐だった。
「何に使うの?」
「荷物をまとめたり、鞄に物を留めたり。使い方はいろいろ」
「リーネにも革紐はあるよ?」
「金具付きは少なかった」
「ああ、確かに」
言われてみれば、リーネで売っている革紐は本当にただの紐が多い。
こっちは端に小さな金具がついていて、輪を作ったり締めたりしやすくなっている。
「これ、ダリオさんなら作れないかな」
「作れるなら仕入れる意味ないだろ」
「それもそうか」
危ない。
商品を探しているのに、作り方の方へ頭が行っていた。
「でも候補にはしていいんじゃない?」
「値段次第だな」
紙に書き加える。
まだ買わない。
俺も少しずつ、この順番に慣れてきた。
◇ ◇ ◇
次に見たのは、小さな金属製の留め具だった。
服や袋を留めたり、紐の先につけたりする物らしい。
「これは?」
「リーネでも見た」
「そうだっけ?」
「お前、昨日どこ見てたんだよ」
「色々」
「何を?」
「……色々だよ」
実際、覚えていない。
カイルが呆れた顔をした。
「これは向こうにもあるし、値段もそんなに変わらないと思う」
「じゃあなし」
「うん」
今度は早い。
買ってから考えるんじゃなく、買う前に消す。
我ながら成長している。
たぶん。
◇ ◇ ◇
何軒か見ているうちに、俺の足が止まった。
「カイル」
「何?」
「これ、すごくない?」
店先に並んでいたのは、小さな折り畳み式の台だった。
脚を開けば低い椅子にも物置きにもなり、畳めば平たくなる。旅人向けらしく、持ち運びやすいように作られていた。
「便利そう」
「だろ?」
「でも高い」
「一個くらいなら――」
「何に使うんだよ」
「旅」
「今までなくても旅できたよな」
「ある方が楽じゃん」
「商売の商品探しに来たんだぞ」
「これもリーネで売れるかもしれない」
「今、自分で使うって言っただろ」
ばれた。
「でもさ、実際に使ってみないと分からなくない?」
「急に商売に戻すなよ」
「使って、よかったら売る」
「それ、欲しいだけだろ」
「半分くらいは」
「半分も認めるのかよ」
値札を見る。
自由に使える金で買えないわけじゃない。
買えないわけじゃないんだけど。
「……今日はやめとく」
「珍しいな」
「俺だって我慢くらいできるよ」
「じゃあ行くぞ」
「ちょっと待って」
「何?」
「もう一回だけ見ていい?」
「好きにしろ」
買わない。
今日は。
◇ ◇ ◇
昼まで歩いて、候補はいくつか出た。
その中でカイルが一番気にしていたのは、最初に見た金具付きの革紐だった。
「小さいし、運びやすい」
「壊れにくいしね」
「それに使い道が一つじゃない」
「リーネでいくらなら売れるかな」
「それを確認しないと」
結局、ここでもすぐには買わない。
ただ今回は、何も持たずにリーネへ帰るわけにもいかない。
向こうで値段を調べるためにも、実物があった方が比べやすい。
「じゃあ、一個だけ買う?」
「見本として?」
「うん。これなら大きくないし」
カイルが少し考えてから頷いた。
「それならいいと思う」
ようやく、二人の商売用の金を使うことになった。
ほんの小さな買い物だ。
でも俺一人の仕事用の金でも、自由に使う金でもない。
二人で出して、二人で使い道を決めた金。
店の人に代金を払い、カイルが革紐を受け取る。
「最初に買ったの、これか」
「不満?」
「いや。もっとこう……」
「派手な物がよかった?」
「少しだけ」
「商売に派手さはいらないだろ」
分かっている。
分かっているけど、初めての共同仕入れが革紐一本というのは、ちょっと地味だ。
それでも。
俺たちはその一本を鞄に入れて、リーネへ戻ることにした。
向こうで値段を調べる。
売れそうなら、今度は数を仕入れる。
そしてリーネでは、ラグナへ持っていく布を買う。
行って、見て、比べて、戻る。
思っていたよりずっと地味だ。
でもたぶん、こういう地味なところから始める方がいい。
少なくとも、一人だったら今ごろ革紐だけじゃなく、あの折り畳み台まで鞄に入っていた気がする。




